北刻堂

北刻堂

本と山と写真が好きです。

@palacefield380

本が好きです
20 スタンプラリー

さんの書評2024/09/07

ポジティブなぼんくら男  大丈夫なのか? 宮路

主人公の宮路。29歳で無職。自称(?)ミュージシャンだがギターも歌もずば抜けて上手いわけではない。しかし親から毎月20万円の仕送りを受けていて生活には困らないので、本気で音楽で食っていこうという気持ちも仕事に就こうという気力もない。大丈夫なのか? この男。 会話の口調は妙に上から目線で、自分勝手な言い分をずけずけ言う。大丈夫なのか?宮路。 しかし老人ホームで無理やり頼まれた買い物の品選びには、やたらと手間暇かけて、当人の好みに合いそうなものをあれこれ悩んでチョイスしたり、面白い本を、と頼まれれば、10冊もの本をまずは自分で読んでから渡す本を決めたり、自分は未経験のウクレレを教えてくれと頼まれたらわざわざウクレレを買って練習してまで教えたり、意外といいところあるではないか宮路。さんざんこきおろされていた水木のばあちゃんの最期の手紙に背中を押されて、人生の時計を前に進めることを決意したはいいが、手あたり次第の求職活動は面接で38連敗。さぞかし世間の荒波と自分の甘さを思い知らされていると思いきや、なぜか妙にポジティブな宮路。 やはり大丈夫なのか? この男!?

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さんの書評2024/08/28

昔の神々ってアメーバー ⁉

古事記って、因幡の白兎とか海彦・山彦などの有名なエピソードくらいしか知らなくて、通して読んだことはなかったのだけど、物語性のあるお話はところどころに挿話的にあるだけで、あとはひたすら神々や古代天皇の系譜が書き連ねられているのだね。 昔の神々って、体の一部や排出物から次々に子が生まれて、まるで細胞分裂で増殖するアメーバーみたいではないか! 行動も極めて乱暴で、戦を仕掛け、狼藉を働き、殺しを繰り返す。なんとも非道な存在である。 神武天皇以下の天皇の系譜ではさすがにアメーバーから人間に近くなっていくが、一夫多妻制の下、次々と子をなして増殖して、殺し合いを繰り返すというのは同様である。 最後のところは連綿と続く人の名の羅列を惰性で読み流していく感じ。原著者の太安万侶もなんとなく惰性で書き連ねた感じで、最後は唐突に終わった。 池澤氏の序文によると、古事記は天皇家の権威を神話として補強するためのツールとして、持統天皇の命のもとに編纂された極めて政治的な書物だとの解釈。これだけの系譜を調べ上げて書き残すのは当時としては大変な労苦であったろうことは察せられる。そんなもんで最後は安万侶さんも飽きてきてしまったんだろうか? いやはやご苦労様。読んでいる方もちょっと苦行的な読書になってしまった。

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さんの書評2023/06/28

まさかまさかの時を遡って医学生時代のエピソード

前巻は、隆治が外科医として大きな挫折に直面して終わったことから、次はそこから立て直して一段成長するプロセスに入るのかと思っていたら、まさかまさかの時を遡って医学生時代のエピソード。 このときから隆治は常に悩んでいたのだね。指導医の中にも、田村教授のように厳しいけど尊敬できる医師もいると思えば、人としてどうなんだい!? と思うような人もいるもんだしなぁ。 医学部に入るための厳しい受験を突破しても、一割の人は途中で脱落して医師になれないという現実は、さもありなんとは思うのだが、伊佐のように成績は優秀なのに、6年生の半ばで、「自分には向かない」という理由で辞めてしまう人もいるのかい? おじさん的な考えでは、医師にならなくても、とりあえず資格だけは取っとけばいいのにと思うが、そこは打算を許せぬ若さ故なのかな。 ここで学生時代のエピソードを挟んだということは、次の巻ではひょっとして、伊佐や真子、エミリなどが登場するような展開があるのだろうか?

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さんの書評2022/09/14

背中を押す言葉

最初の章の井村直美、自分の現実にイライラして、友人の伊織を妬んでかなりイタい展開。伊織さん、とてもいい人だと思うんだけどなぁ。そして直美の旦那さんが若い頃立ち寄った喫茶店って、あの虹の岬の喫茶店だよね!! で、次章の今井洋輝の婚約者(のち奥様)のカッキーって、あの昭和堂の柿崎店長じゃぁないですか!! いやぁ幸せになったんですなぁ。よかったよかった。 って、本筋とは別のところで、盛り上がってしまった。 昔、なんだか、気持ちがモヤモヤしているときに、交換日記とか、喫茶店に置いてある自由ノートなどに書かれた、他の人の書いた文に、触発されて気持ちが盛り上がったようなことがありました。水曜日の手紙って、手紙を使った交換日記みたいなものだよね。若い頃の夢って、かなえることのできる人って、ほんの一握りで、ほとんどの人は、どこかで、現実との折り合いをつけてある意味平凡な日々を送っているものだろう。そんなもやもやした気持ちの時に、他人の書いた言葉に少しばかり背中を押されることって確かにあるなぁ

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さんの書評2021/12/24

雨野先生もドクター4年目。大分、頼もしくなってきました。

雨野先生もドクター4年目。大分、頼もしくなってきました。 過酷な多忙ぶりは相変わらずですが、それでも少し余裕が出てきたためか、本作では登場人物のプライベートの場面にも触れられていました。 前作で正式におつきあいを始めたはるかちゃんとの距離も随分と縮まり、実家に一緒に連れて行くまでになり、ほとんど婚約者状態。お墓参りや雨野先生のお母さんとの接し方に、はるかちゃんのやさしさがにじみ出ていて、結構いいカップルになっていますね 先輩の佐藤先生は渡米する恋人から、医師を辞めてついてきてほしいとプロポーズされて悩んでしまう。女性外科医を続けることの難しさにスポットがあたった形。苦い決断をせざるを得なかった佐藤先生にこの先の幸あれと願います。 そして、癌で余命幾許もないのに明るく振る舞う葵ちゃん。アフラックのCMに出演していた山下弘子さんを彷彿します。最期については描かれていませんが、余命を思う存分前向きに生きることができたと信じたいです

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さんの書評2021/12/02

外科医って本当に激務

シリーズ第2作 研修医から新人外科医となった雨野隆治の奮闘が続く。 いやはや、本当に外科医の勤務の苛烈さは凄いものだわ。一体、この人たち、一日にどの位眠ることができるのだろう? 今回は、手術の失敗、患者の家族の怒声。患者の死、そして、さらには身内の死に接して、医者として辛い局面を何度も味わうことになる。メンタルの方も相当タフでないと持たないよね。 脇をかためる人物のキャラクターも少しづつ立ち上がってきた。 軽い乗りで要領のいい同期の川村は、治療にあたれば、的確にテキパキとこなす、かなりな有能ぶりを見せるし、新たに研修医として入ってきた凛子ちゃんも、口ぶりは軽薄なお嬢さんっぽいけど、過激な勤務に結構真摯に向き合っているよな。 合コンで知りあったものの、たまにしか逢えないはるかとは、自然消滅かな・・・ と思ったら、おつきあいする仲に発展。この子も、結構男の子を振り回すタイプのわがまま娘かな、と思ったけど、意外と優しい子なのだというのが最後の場面で分かってきた。というか、実ははるかの方が隆治にぞっこんみたいで、この後の展開が気になります。

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さんの書評2021/11/18

自分に自信の持てない主人公。実はハイスペック!?

自意識過小(過剰ではない)な女の子の成長譚。 麻子はなぜか自分に自信が持てずに一歩も二歩も引いてしまう。 でも本人が思うほどかわいくないわけでもなさそうだし、実は国立大学に入学できるくらいに成績も良いみたいだし、就職活動に出遅れたなどと言いながら大手の商社に入社しているし、そこで発揮する目利きの能力はむしろ抜きんでたものがあるし・・・なんだよ、かなりハイスペックじゃないか! どうも理想の高過ぎる「あるべき姿」を抱えてそこに届かないから「やっぱり私ダメなんだわ」と思い込んでいるだけみたいである。いや、誰だってそんな完璧な人いないんだから。そうかと思うと、足にぴったり合う靴に出会ったとたんにいきなり「やる気スイッチ」が入って前向きモードに・・と思ったらすぐに空気が抜けてって、えぇい自信持たんかい!! 何やら出来はいいのに不器用な孫娘を、はらはら見守るおじいちゃんのような思いにさせられる一冊です。

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さんの書評2021/07/08

沖縄の人々が受けてきた不条理を突きつけた大河ドラマ

ジェットコースターのような展開は下巻に入ってからは、知花煉が本体とマブイの二手に分かれることによって混迷を極めてきた。二人の煉の動きが交錯してどちらがどちらか分からなくなることしばし。唐突に場面が変わったり、ストーリーが不連続のままちぎれてしまったりと少々困惑したが、途中から一人称の「私」と「わたし」で見分ければいいのだと気づいた。 ジェットコースターのような展開と称したが、それは、戦争、戦後の占領、移民、そして今も人々のも基地問題が残ったままの沖縄の人々の受けてきた不条理を、知花煉という一人の少女に投影したからそうなるのであって、エピソードの一つ一つは実際にあった出来事をモチーフにしている。これほど苛烈な人生を生き抜いた知花煉に、なんら報いることなく、戦争はまだ終わっていないという非情さを以て応えたラストも、実際、今の沖縄がそうなのだからという現実を突きつけたものだ。 エンターテイメントの形式をとっているが、底流にあるテーマは結構深いものがある

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さんのコメント2025/11/13

幕営指定地のような概念はなく、行き当たりばったりにテントを張ったり、真夜中の山道を一人で彷徨したり、昭和初期の頃の山登りのスタイルは、現在とは違って随分野放図だったものであるなぁ。昨今ではクマが怖くて、とてもこんなこと、できないよ。 後半の先鋭的クライマーの領域になると、もはや、山という麻薬に取りつかれて、命を守る防衛本能のネジが取れちゃっている状態だよなぁ。

さんのコメント2025/11/09

冒頭、いきなり「小説家には休暇はない」と言い切るエッセイから始まる。確かに正午さんは、バカンスをとってどこかに旅行するというタイプでは無さそうではある。だが、中盤辺り、ピンチヒッターに仕事を丸投げし、休暇をとって海に出かけていたりする。もちろん、これは正午さん流の冗談で、実際には、代作を装って、正午さん本人が書いているのだろうとは思うのだが····そうですよね? 正午さん。

さんのコメント2025/11/01

どちらかというと左党の私としては、ホールケーキを全部食べるなんて、想像しただけで胸やけがしそうになるのだが、世の中には甘いものに目がない人もいるということは一応知っている。ゆかとこいちゃんにとっては、ショートケーキは落ち込んだ気持ちを回復させるビタミン剤であり、あつこにとっては子育てのストレスを解消する補給食みたいなものなのだろう。それにしても、カジモト君の恋(なのか?)は実るのだろうか?

さんのコメント2025/11/01

東京の通勤圏内の私鉄駅でしょ、蔵町でしょ、マル〇〇百貨店でしょ。舞台となっている百貨店のモデルは、あそこだろうなぁと察しがつく。デパート最上階の自社経営の食堂って、確かに最近、見ないよね。 大食堂を支えるスタッフはなかなか癖のある人たちだけど、意外にチームワークいいんでないの? 元ヤンの中園が、案外厨房のムードメーカーとしていい味だしているなぁ。しかし、若社長、深い考えがあって、美由紀や智子を登用したのかな、と思ったら、結局、単なるバカ社長だったんだね。これじゃ大食堂が安泰でも、百貨店そのものの経営が危ういんじゃないのかい?

さんのコメント2025/10/27

悪条件下でも育つオアレ稲は、ひとたび植えたら、ほかの農植物の選択肢を排除してしまう。まさに人を従属させてしまう稲だった。並外れた嗅覚で、オアレ稲をコントロールする肥料の研究を始めたアイシャ達だが、それはオアレ稲を以って帝国の支配権を握る皇帝の一派にとっては都合の悪いことでもあるとは! しかし、なぜか、帝国とはさらに別の組織によってアイシャは捕らわれてしまい絶体絶命に。さらなる策謀が渦巻いて、いったいどうなってしまうのだぁ‼

さんのコメント2025/10/27

ヒロインのアイシャが、冒頭、いきなり命を奪われる危機。えっ?大丈夫だよね? このまま死んでしまったら、あとの物語が続かないよ!? と思ったがさすがにそのようなことはなかった。 巡り巡って帝国の香君であるオリエとともに過ごす事となったアイシャであるが、香りを統べる香君は、実際に秀でた能力を保有しているというよりも、実は象徴的な存在だったのか? 長い物語のまだほんの端緒 早く次巻を読まねば

さんのコメント2025/10/25

プロにまではなれなくても社会人野球のレベルに進んだということは、ずっと野球漬けの青春時代を送っていたであろから、怪我でその道を断たれたことで、なかなか立ち直れないことはまぁ理解できぬではないが、いささか頼りない良彦。ただ、人に対する優しさを持ち合わせているので、そんなところも神様の御用人に選ばれた一要素なのかな? 出会う神様とことごとく友達みたいになってしまうところも人徳なのか? 最初、表紙の絵を見たときに、神社で犬と楽しそうに戯れているところに見えたのだが、読み終えてから、そのことに違和感を感じて改めてよく見てみたら、しかめっ面で狐と絡み合っている図であった。

さんのコメント2025/10/18

服部文祥の家庭の様子に関しては、本人が書いた「サバイバル家族」でも語られているが、奥様の小雪さんの視点で見ると、違う様子が垣間見られる。ひたすらストイックな、それだけに危険な山に出かけていく文祥さんに対して、家で待つ小雪さんは、そりゃ心配でたまらないのだろうけど、そんな気持ちは当の本人には全く伝わっていないわけで、「相手に共感する回路が壊れている」というのはかなり的を得ている。まぁ、文祥さんに限らず、冒険家全般にその傾向があるようには思うが。 「サバイバル家族」ではまだ定まっていなかった、高校中退した次男の玄次郎君も無事就職したことが分かってほっとしました。

さんのコメント2025/10/18

梨木は周りから、はやし立てられたせいもあるだろうが、人の心を読めるエスパーのような能力があると一時期は本気で信じていたようである。が、まあそれは超能力のようなものでなくて、観察眼が鋭いというレベルだよなぁ、と心の中で突っ込みながら読んでいたら、中盤、河野さんにその点しっかり指摘されておりましたな。ただ、秋音ちゃんの声が聞こえたというのは、やはり特殊能力なのか? それにしても、梨木よ、人の心が読めると言っておきながら、河野さんに関しては、えらくにぶちんじゃないか。

さんのコメント2025/10/09

櫂と暁海。当人達に何の落ち度があるわけでもないのに、身勝手な親に人生を振り回されていく二人の絆の危うさが何とも切ない。あまりの理不尽さに、正直、前半から中盤にかけて、読むのがつらかった。櫂の命の灯が消えかけた時に、やっと始まった二人の生活がとても貴重でいとしい時間となり、どうしてもっと早くこれが実現できなかったのかという思いが残る。 北原先生の、世俗を超越した懐の深さが救いであった。