みんなの書評

さんの書評 2026/10/23

言葉だけじゃどうにもならないこともある

 仕事で成功した夫が、妻の苦労をねぎらって「お前がいろいろやってくれたおかげで、俺は仕事に集中できた。感謝しているよ」と言ったとき、妻が感激して涙ぐんだりするのかと夫は思っていたのです。でも返ってきた言葉は「あなたを支えるのは本当は嫌なのよ」。  これまで「こんなことやりたくないのって言わせてくれなかった」あなたに、そんなこと言われても、ちっとも嬉しくないわよってね。似たような話は大勢の女性から聞いたことがあるなぁ。  何か迷惑をかけても「心を入れ替えて立ち直ったら、喜んで許してもらえる」というのは、やった側のただの思い込みなんですよ。  言葉にできること、できないこと。その立場になって見ないとわからないこと。そんな気はないのに、とんでもない事を言ってしまったこと。自分の視点、相手の視点。いろんなことを思い出しながら、この本を読みました。そして、いろんなことに気づきました。頭木さんの視点はいつも面白いです。

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さんの書評 2026/10/20

怪談の

杉浦日向子が、江戸時代の、あるいは江戸時代をネタにした書物から取材した怪談をマンガにしたものである。 一応、どっかのご隠居が、近所とかの人から話を聴いて、お線香を立てる、といふ体裁で、全体が一応構成される。時々あるいは頻繁に、どっかの寄り合ひで誰ぞが語る、といふ表現が、出る。 時代考証は、一応あんまりやってない、らしい。障子の、ある箇所に謎のシミュラクラ効果が出る所があって、ある時、といふのもある。あと、江戸時代のお屋敷で、女の子が見に行かうとする門附けの一座、謎の長老けんが、明治期風である。吉野裕子によれば、猫は寅とされ、「うごく」能力を付與させるとやらで、葬儀では忌避されたさうであるが、それを踏まへ、「猫を捕獲してるのに」死者が甦った、とかはある。  語り手が家でモソモソ起きると、尼僧が、懺悔話をしてゐたといふ体で、おぞましくも悲しい話が古語で出るとか、あと怪異が起こる家の独居老人の口から 「腹ふくれてはとりはずす」 がなんの説明もなく出る(とりはずす=放尿)、それから遊廓の人がいはゆる「ありんす言葉」といふので喋ってたり、子供が 「お父つぁん、お帰りョ」 と言ってたり、この辺はしっかりしてるらしい。 杉浦日向子と言へば、「食べ物を美味しくかける」ので定評があるが、本作にでてくる、ずんだ餅やお豆腐、お菓子としての豆、お握りはそんな感じである。一応「捨てられた蒟蒻」が出てきたり「水漬け」が画面ギリギリに出て来たりする。この辺も良い。 獣の表現が、怖い。が、作中の人物は、猫が喋ってもあまり氣にしないとか、あまり恐怖とか感じてない。 全九十九話、ずっと通じて、「結局人間が怖い」は一貫してゐる。

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さんの書評 2026/10/18

表紙のポップさにも惹かれ軽い気持ちで手にとった

文芸評論家の三宅香帆さんが紹介されており、表紙のポップさにも惹かれ軽い気持ちで手に取った。もちろん、リチャード・ローティさんも存じ上げず、哲学ド素人。冒頭の“ローティの思想をひとことで表現するならば、それは「哲学とは<人類の会話>が途絶えることのないように守るための学問である」”にもう心折れそうになりながらなんとか読了。やはり理解できない部分は多数あり、哲学初心者には読み慣れない文も多かったが、これまでの自身の経験や、身の回りで起こる出来事に照らし合わせて、考えられる部分はあった。 「ことばづかい」はある特権階級によって支配されたり、何か一つの完成を見つけて終わらせる必要もなく、会話を継続させよう、その必要性を説いている本だと、素人なりに感じた。 特に印象に残ったのは、マイノリティがそのアイデンティティを訴え、マジョリティに対して「私の辛さはあなたには分からない」と言って相手を黙らせる論法が危うい事。その訴えで黙らされるマジョリティが溜める鬱憤が、いつか「自分たちの方が被害者だ」と同じ論法で反撃する事。それが今のトランプ政権につながっている事。 とても大きな流れとして書かれているが、これは一つの家庭内でも起こる事だと思う。育休や時短勤務中、フルタイムでバリバリ働くパートナーに、「私の辛さはあなたには分からない」と思う気持ちはあるし、これに対してパートナーが鬱憤を溜めていく様子も手に取るように分かる。分かっていながら、こちらの辛さをぶつけたい、反論させたくない。会話をしたいのに終わらせたいと思う矛盾を抱えていると思う。 私の勝手な解釈で、正しく読めていない事もあると思う。それでも読んでよかったと思う。

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さんの書評 2026/10/17

ずる 嘘とごまかしの行動経済学を読んで

ずる 嘘とごまかしの行動経済学を読んで タイトルに惹かれて、この本を手に取ってみた。 この本は、人が行う不正を対象に、行動経済学的なアプローチからまとめた一冊である。また、人が不正を行う際には、自分自身の合理的な費用便益計算だけでなく、さまざまな心理的・社会的要因が働くという前提で検討していた。 本書では、人を不正に向かわせる要因を8つに整理して説明しており、大変わかりやすかった。特に共感したのが、自分自身の行いを正当化する能力という点である。本書では、人間は自分自身を騙すことが得意な生物であると描かれており、創造性の高い人は、不正行為を正当化する説明を考え出しやすく、その結果、自分自身を正当化して不正を行うことがあると紹介されていた。 昨今の事例で、これに当てはまる可能性のあるものは枚挙にいとまがない。1例を挙げると、2026年に沖縄県で発生した辺野古沖船舶転覆事故が挙げられる。事故が発生した背景には、気象条件が悪かったにもかかわらず出航したことがある。出航判断の背景については、以下の2点が仮説として考えられる。1つ目は、これまで同様の天候でも問題がなかったため、今回も大丈夫だろうという慢心。2つ目は、自分たちの活動はあくまでも平和活動の一環であるため、多少の危険を冒してでも実施するべきであるという考え方である。活動家や船長が、こうした考え方によって自分たちの行動を正当化していた可能性はないだろうか。 (注意:今回紹介した出航判断に関する考察は、これまでSNSやマスメディアで流れていた情報をもとに、論者の見解としてまとめたものである。そのため、あくまで仮説に基づく推測であり、関係者の実際の動機や認識が確認された事実ではないことに留意されたい。) また、本書で取り上げられている調査報告や著者自身の体験は、本書の主張を理解するうえで大変有益であった。ただし、調査報告については、事例によってはサンプル数などの点で妥当性に疑問が残るものも一部あった。しかし、人を不正に向かわせる要因をわかりやすく整理し、著者の主張を理解しやすくするうえでは非常に有益であったため、この点は大きな問題ではないと考える。 まとめると、本書は、人が嘘やごまかしをする要因と、その対策をわかりやすくまとめた一冊である。不正行為のメカニズムや解決方法に正面から向き合う人たち、例えばコンプライアンス担当者や管理職などにお勧めしたい一冊である。

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さんの書評 2026/10/12

中動態の世界を読んで

中動態の世界を読んで 「1年で5ヶ国語をマスターした私の外国語、同時習得法」で紹介されていたため、興味を持ち、手に取ってみた。 この本は、中動態という、受動態でも能動態でも表すことのできない文法を、古代ギリシャ語など、諸言語の歴史からひもとき、そこから中動態という世界において、意志と責任はどのように扱われるのかをまとめた1冊である。 これまで受動態、能動態しか知らなかったが、中動態という概念があることをこの本で学ぶことができた。興味深かったのが、権力者と非権力者の関係において、受動態と能動態の関係よりも、受動態と中動態の関係による説明の方がしっくりくるという説明であった。 例えるなら、上司と部下の関係とよく似ている。上司が業務を命令するとき、部下に細かいところまで指示し、報告を求めるマイクロマネジメントが能動態と受動態の関係であり、大まかな指示を出して、細かいやり方は基本的に部下に任せるというやり方が、能動態と中動態の関係であると言える。 ただ、読み進めていくうちに、中動態という概念はこれだけではないこともわかった。はっきりした答えは明記されていなかったが、それを知るための1つの鍵として、ギリシャ哲学が重要であるとも紹介されていた。だが、本書では、当初の目的である中動態の文法的な概念を知ることから少々逸脱し、哲学的な考え方へと議論が広がっていたように思えた。そのため、中動態の入門書としては、やや難解な書籍であると言える。 とはいえ、中動態という言語の文法の1つを掘り下げていくだけで、世の中は能動態と受動態の二分法だけでは捉えきれず、その見方の1つとして中動態の世界があるという見解は非常に興味深かった。中動態に興味がある人だけではなく、二元論だけでは捉えきれない世の中に疑問を持つ人々にも、ぜひお勧めしたい1冊である。

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さんの書評 2026/10/12

女性の取扱説明書。勉強になる部分あり

女性の取扱説明書。勉強になる部分あり ◉「最近太っちゃった」に対する答えは「そんなことないよ」ではなくキョトン顔で「え、綺麗じゃん」。 ◉男性は常にナイフ片手で女性に話しかけている意識もったほうがいい。 ◉ いま求められるのは「男らしさ」ではなく「漢気」なのだと思う。男らしさを辞書で引くと「雄々しいさま。男性的」と出てくるが、一方漢気は「弱い者が苦しんでいるのを見のかせない気性。義使心」と出てくる。正しくいえば、男らしさの中にこの漢気も含まれている ◉ 一方通行の恋愛を「それはそれで楽しい」と思える女性たち。…… ゲイに熱狂する女性も同じようなところがある。こちらは相手を性的に見ても、向こうはこちらを性的に見ていない一方通行の関係。それが心地良いと感じるのは、女性独特の感覚なのかもしれない。 ◉ 美人にこそ「君って面白いね」が有効。 そこでキーワードになるのが「面白いね」などのワードだ。これはいわゆる興味深いというニュアンスも含めた上で、君の中身に興味があるんだよというメッセージが強まる。「変わってるね」も言い方次第ではありだが、バカにされてる感を強めないように「面白いね」辺りをチョイスするのがより無難だろう。 かわいい子はそりゃかわいいし、美人は綺麗だ。だが、そんな100人が100人とも思う感想をつぶやいているようではその他大勢の男たちと差を付けられない。

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さんの書評 2026/10/10

つながってるのに孤独、を読んで

つながってるのに孤独、を読んで タイトルに引かれてこの本を手に取ってみた。 この本は、人間がインターネットやロボットなどのテクノロジーとどのように向き合うかを、ネットワークとソーシャルロボットの視点からまとめた1冊である。それぞれの視点を紹介する際、実際の事例や文献を交えて、わかりやすく述べられていた。 最終的に、テクノロジーとの向き合い方として、テクノロジーが人類に与えるメリットとデメリットを、現実主義を念頭に置いて虚心坦懐に捉える「レアルテクニーク」(レアルポリティックスのテクノロジー版、著者の造語)が重要であると説いていた。この主張に関しては私も賛同できる。しかし、裏を返せば、テクノロジーというのは所詮人間が作り出したものであるため、そこまで構えて対応する必要はないというメッセージとも読み取れた。 しかし、本書が出版されたのは、ChatGPTなどのAIチャットが普及する前のことである。そのため、機械学習を含めたAIについては、人間の理解をはるかに超える部分があることを踏まえると、従来と同じ対応で問題ないのか、再考する必要があると思われる。具体的な案は本書の内容から逸脱するため、ここでは述べない。しかし、AIというテクノロジーに対して人類はどのように向き合うべきか、改めて考える必要があると思われる。 とはいえ、AI以外のテクノロジーとの向き合い方をまとめた本書は、AIとの向き合い方を考える上でも一定のヒントになると考えられる。最新のテクノロジーとの向き合い方に悩んでいる人にお勧めしたい1冊である。

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さんの書評 2026/10/06 1いいね!

一人でも生きていける時代に、つながりの難しさと大切さを優しく真剣に語りかける

親子でも自分以外は他者であって、違う考え方や感じ方をする人である。気の合わない人とも一緒にいる作法を身につける。「一年生になったら」の歌から感じる友だち幻想。一人では生きていけないという前提がもはや成立しない。など一見ドライだが、だからこそ、つながりの問題は難しく大切であって、どうしたらいいだろうと、優しく真剣に語りかけくれる本だった。 親同士の集まりで、帰りたいのになんとなく帰らない、若い世代のほうが1年2年の違いで主従関係ができてしまう、同調圧力、それがどうして起こるのか、距離の取り方、記憶に残さなくてもよい事、相手と衝突せずに、他者と折り合いをつけながらつながりを持っていくためにはどうしたらいいのか、成熟した大人ってどんなだろうと考えられる本だった。 著者は本の冒頭で、友達のことで悩んでいる若い読者にぜひ読んでほしいと述べている。私もそう思う。けれど、10代の若い読者にこの本が、「新書」が認知されているかは疑問

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さんの書評 2026/10/03

それでも、読書をやめない理由を読んで

それでも、読書をやめない理由を読んで デジタルで読む脳、紙の本で読む脳で紹介されていたため、興味を持ち手に取ってみた。 この本は読書の特徴を、著者自身の経験をもとにまとめあげた1冊である。また文学という学問の現在における位置づけや、電子書籍と紙書籍の違いなど、多角的な視点から読書の特徴が紹介されていた。 興味深かったのが、読書というのが瞑想的行為であるという視点である。読書という行動は、著者及び登場人物との疑似対話を通して、自分自身に静かに意識を向け、深く考えたり感じたりする手段として、瞑想と通じるところがあるのは納得できる。今まで読書というのが暇つぶし、もしくは情報を得るための手段の1つと割り切っていた。私にとってこの考え方は大変秀逸であった。ぜひ取り組んでいきたい。 他方、紙の本と電子本の違いの1つとして、所有を許されるのが電子本の場合は購入者本人のみであるところを指摘していた。本書では、この点をネガティブなこととして紹介していた。ただ、この点に関しては、本を作成する側にとってメリットであるとも言える。購入者が譲渡及び貸与可能な紙媒体であれば、それだけ購入する人たちを減らすことにもつながる。その結果、作成側の収益が減ることにつながり、次回作への減価償却につながらないとも言える。このように紙の本と電子本の違いに関してかなり偏りのある考察が見られたのは少々残念である。 とは言え、本書は読書という行動そのものの特徴を振り返る上で非常に有益であった。今一度、読書の目的を見直したい人たちにお勧めしたい1冊である。

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さんの書評 2026/10/03

プルーストとイカを読んで

「デジタルで読む脳、紙の本で読む脳」の中で紹介されていたため手に取ってみた。 この本は読字についてまとめた1冊である。具体的には、初期の読字学習の歴史、読字能力のライフサイクル、読字障害の定義及び科学的な検証、以上3つが取り上げられていた。 当初この本を読む際、サブタイトルでは「読書は脳をどのように変えるか」と紹介されていた。そのため、読書に関わる本だと思っていた。しかし、読み進めていくうちに、読書ではなく読字にフォーカスが置かれていた。理由は原本のサブタイトルでは「読字」であったものを、翻訳者が意図的に「読書」と変更したものであると解説で述べられていた。個人的な見解であるが、変更した意図は理解できるものの、せめてサブタイトルの中で読字という文言は残して欲しかった(「読字をひもとき読書が脳に与える影響を考察する」など)。 最初の方では読書が紹介されていたものの、次第に読字の紹介にシフトしていき、最終的に読字と読書がごちゃまぜに使われていたため、読み解くのに非常に困難であった。やはりサブタイトルの中で本書の核とも言える読字という言葉を使用しなかったのが致命的であると言わざるを得ない。また本書の経験から、読み進めていくうちに違和感を感じれば解説を確認することの重要性を学ぶことができた。読字ということを学ぶことができたのはよかった。しかし読書という行為が人へ与える影響に関して述べられていたのが少なかった事は残念である。サブタイトルに関してはもう少し読者への配慮を検討いただければ幸いである。 読書ではなく、読字という概念を学びたい方に対しては、この本はオススメである。

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