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さんの書評2020/06/25

安楽死か、それとも尊厳死か。

西暦2024年の日本で安楽死が合法化され、末期癌に冒されたある女性政治家が、安楽死第一号に名乗りを上げる。彼女の死は社会に大きな波紋を齎すことになる。アルツハイマー患者の女流作家、病院を追われた心臓外科医、多発性硬化症の恋人を持つカメラマン。一見すると関係がなさそうに見える人々の物語が、「安楽死特区」を軸として繋がり合い、1つの物語を紡いでいく。 一般的にほぼ同義として取り扱われがちな「安楽死」と「尊厳死」であるが、著者は両者を明確に区別しているようだ。安楽な死に方など存在せず、ただ「自分はこうやって死にたい」という各個人の意思を、周囲がどれだけ尊重できるかという問題でしかない……ということらしい。医学博士として、人生の幕引きに関する何冊もの著書をもつ人のメッセージとして、個人的に重く受け取った。 日本の社会保障制度の破綻ぶりも随所で風刺されており、作中では、金がないと高度な医療を受けられなくなった現実が語られている。こうした中、「安楽死に賛同する人々は富裕層ばかり」という旨の記述もあり、「成る程」と思わされた。 登場人物の多くは実在の人物をモデルに描かれており、2024年という「ちょっと先」の未来に現実味を持たせている。「トランプ政権」や「オリンピック」など、今現在の社会と繋がる単語も散見される。それでいて、最終ページの「この物語が近い将来、現実にならないことを祈っています。」という言葉で物語は締め括られる。「安楽死特区」ほど極端でなくとも、それに近い状況に陥ることを危惧しての言葉ではないだろうか。そう考えると、この物語の平穏な結末さえ、苦いものに感じられる。

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