きゃべつ

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本が好きです

さんの書評2023/04/24

眞野(しんの)先生。本が傷んだら修理するって考えだけじゃいけないんですね。

眞野(しんの)先生。本が傷んだら修理するだけじゃダメってホント?〜ストーリーでわかる図書館の資料保全の考え方 眞野節雄/監修 DBジャパン/編集 あさな/イラスト DBジャパン 2022年  ノートの会社の方による水に濡れた本のとりあえずの救出法についてのTweetが拡散されたりするのをみても、水濡れ本に関心のある人は一定数いる。  本書は公立図書館に勤める新人司書が『図書館の水濡れ対策』をお題にブックトークを課せられ、資料保全のエキスパートに習いながら大規模な災害による書物の水濡れにどう対処するか、を調べ、また、「本の修理」は日常的に資料の保全•活用を考えつつ行うものなのだと認識を深めるお話しになっている。  ストーリー仕立てで図書館資料の修理について書かれた本は初めて読んだ。修理の技法については、書物研究会の『図書の修理 とらの巻』(正続)がたいへんわかりやすく教えてくれていたが、本書によって、そもそも修理は極力しない、(で済むように)ということが大切だと学んだ。  馴染みやすいストーリー仕立てなので、子ども司書や図書委員として活動する中高生にもおすすめできそう。  おまけとして149ページのQRコードから眞野先生オリジナル資料「製本の工夫を知る」がダウンロードできる。発行元のDBジャパンの寛大さに感謝する。

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さんの書評2023/04/03

次はYAの本希望

次はYAの本希望  もちろん、ひどい経験をされた事実は本書を読む前に知っていたが、それからの7年の間にどう回復をされていったのかは知らなかったので、この本はそれを充してくれた。こうして強いしかも理不尽さに傷つく人を見過ごせないジャーナリストが誕生したのを知って嬉しい。 薬物やカウンセリングじゃなく、友人やジャーナリストの仕事仲間、もとからの家族、新しい家族であるペットがとても大きな支えになったことがうかがえた。  一方で興味をもつのを止められないのは彼女がとった学びの場の選び方。高校からのアメリカ留学は他の人の体験談は多いが、それ以降のドイツで学費のかからない大学や学費節約のためのイタリアでの単位取得などは寡聞にして知らない。  日本の大学以外の進路を考える10代の人向けの本を書いてほしい。  岩波ジュニア新書、PHP研究所のYA心の友だちシリーズ、河出書房新社の14歳からの世渡り術シリーズ、イースト•プレスのよりみちパン!セ 等でぜひ自分の力で必要な教育環境をつかみ取る術を語ってほしい。

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さんの書評2023/02/03

生活保護申請のたよれるガイドブック

著者が上野千鶴子氏とも杉田水脈氏とも交流があることに(失礼ながら)驚いて本書を読んでみた。この本は3度のごはんを食べることに困ったら躊躇せず生活保護を申請してよいのだと、具体例をたくさんあげて勧めてくれる。 たしかに、がまんにがまんを重ねて体をこわしてしまってから挽回するより、まだ経済的に厳しいという見通しをもった段階でいったん生活保護を受給して、あせらず生活の立て直しを測った方が本人にも社会全体にもよりよい選択だと言える。国が法でさだめた制度であるにもかかわらず、市町村の窓口で利用を阻もうとする職員がいること自体が不可解である。が、そういった実態があるとのことなので、本書を手引きにし、申請時の時間と気持ちをすりへらすのを防ぐ方がよいと思う。 本著が市役所ロビーや福祉事務所の待合室に置かれていればよいのだが、せめて市町村立図書館には備えていてほしい。 この本とつくろい東京ファンドが開発した「フミダン」があれば、人生の特に困難な時期に気力をふりしぼって生活保護申請をしなくてはならない人に大きな助けになるだろう。

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さんの書評2022/03/28

アメリカ合衆国は連邦としてパンデミックに対処できなかった

 アメリカがパンデミックに国家として備えていたかどうか。ブッシュが大統領だった時、読んだ本に触発されてプランを作るよう指示しできたそのシナリオはCDC(疾病管理予防センター)にまで渡った。が、政権交代後またなくなった。  結局パンデミックに対して連邦してできることはなく、新型コロナウイルスに対しても勇気ある人々が個人的つながりを使って奮闘しただけ。CDCは論文を書くためのデータをほしがるのみ。  マン渓谷での山火事の事例。7人?中ひとり生還したドッヂさん、(その名のとおり)下から炎が迫る中急峻な崖を登って逃げなくてはならない局面、前方にあえて火を放ちその中へ駆け込んだ。周りの人はその行動の意味を理解せず続く者はなかった。灰の上に立ち彼ひとりが生き残った。火をもって火を制すという方法とのこと。この例をひくほど並外れた科学者たちの活躍が詳細につづられる。  アメリカ合衆国全土を対象にした統一的なデータ集積や対処法についての情報共有システムができていなかったことには驚かされた。けれども、いつ来るかわからないものへの備えにお金をかけることに対して有権者がどう思うかをおそれる為政者の事情も想像するのは難しくない。日本でも似たような構造なのだろう。 『マネー•ゲーム』の著者とのことで、構成がうまくページをめくる手を止められない。実際の悲劇を知るだけに複雑だが、エンタテインメントとしても本書は秀逸。

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さんの書評2022/03/25

感心するが、心配でもある

お腹をすかせた小学生の姉と弟。働き者だが低所得者の母を支える。私が子どものころにこの本を読んだとしたら、数々の節約おかずレシピとそれを作れる主人公に感心しただろう。それに、がまん強く弟の世話をする姿にも。 けれど、大人の立場で読んでしまうと、どう考えても、このままで事態が好転するとは思えない。それに、お母さんは現実に生活保護を受給している知り合いのことをよく思っていないようだから自分から支援を求めには行かないだろう。スーパーで万引きする客を目撃するシーンでははらはらした。もしかしたら、追い詰められた少女が弟のために何か食べ物をとってしまうことになるのか?と。 お母さん以外に関わってくれる大人がいれば、と思う。弟が行く学童で、または、小学校で。 気前よくおごってくれる友人父子はこの家族にとの程度関わるのか? 所得の格差が広がって困窮する母子家庭の一例を描いた本作は、各個人では何ができるか、当事者以外は何ができるか、を考えるきっかけになった。小学生の弟が「なぜ、うちはびんぼうなの?」と問う。1985年から、福祉を家庭に任せるために専業主婦を優遇し、女性が安定した職につけない制度にしたからよ、でも、だんだん男性も安定した職を探すのは難しくなってるの、とつぶやく。

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さんの書評2022/03/16

自分を大事にするって他人を大事にすることにつながる

不覚でした。松田青子さん、児童書も書いていらしたんですね。 大人であれ子どもであれ、うっすらと侮辱されたように感じるけれど、どう反応していいかわからないことってありますね。どちらかというとひかえめで気立てのいい人って、単に自分の暇つぶしの種を探していたり自己顕示の受け手を探している人の餌食にされることが多いようです。 この作品では、小学校という、まだ人間同士の距離の取り方を習得していない人が大半の集団の中で、理不尽に傷つけられながらそれを見ないフリをしてやりすごそうとする少年が、ある種の外部からの励ましを得て、自分を大事にし、自分が不当に扱われているときにはそのことに向き合う生き方を学びます。それが他の子どもたちにも波及し、よりお互いを尊重しあえる関係へと変わっていきます。 主人公に力を与えてくれるストーリーにマジカルな絵がさらに魅力とパワーを与えています。 この春、甥の娘ちゃんが小学校へ入るので何かプレゼントを、と思っていたのですが、ここ淡窓図書館児童書コーナーでよいものを見つけることができ、感謝しています。

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さんの書評2022/01/13

 なんてこった!と思いました。25年くらい前に読めたらよかったのに! まぁ今だっ

 なんてこった!と思いました。25年くらい前に読めたらよかったのに! まぁ今だってこんなに素晴らしい本を知ったことは僥倖なのですが。自分の子どもが2歳くらいの頃読み、このお父さんみたいに息子を受けとめて、かつ、自分自身も「どうしよう、訓練する所に連れて行くべき?」なんて混乱せずにいられたらよかった。  吃音については伊藤亜沙さんはじめいくつかの著作から学べますが、この本は、絵も言葉も感動的です。  学校で何か発表するとき他の子どもたちから奇異な目で見られると視界がにじんでしまうシーンもよくわかりますし、この男の子が好きな川の流れを見て自分のイメージと重ねるシーンも好きです。詩人の紡いだ言葉と絵がぴったり寄り添い、一か所しかけ絵本みたいになっている工夫もすばらしい。  まず、図書館で読み自分でも買いました。  吃音にかぎらず、自分の思うにまかせないことで悲しみをかかえる子どもに読んでもらえたらいいなぁと思います。親としてのたたずまいを学ぶにもしみじみいい作品です。

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さんのコメント2021/10/17

そんなに誤診が多いとは!   私の認知症に対するイメージは、わけのわからない言動で周囲を困らせるというもの。だから、予防に努め早期発見し早期に治療を開始しなくては、と思いこんでいた。本書を読み、せん妄はじめ認知症ではない疾患が認知症と誤診されることがままあると知った。また、認知症であるとしてもその患者さんの尊厳を無視した治療や介護で状態を悪化させてしまうことも学んだ。たくさんの誤解と先入観が解けた思いだ。どんな病を得ていようが一人の人として接するという基本的な姿勢がが医療、介護、市井で共有されていないと、歳をとるのが怖い。明日は我が身。

さんのコメント2021/07/06

 若いベトナム二世の助っ人とともに、巷間賑わせている外国人実習生と留学生を取材。業者に騙されて気の毒な境遇もあれば、次は騙して儲ける側に回る例も。ただ、制度が非常に雑で、人を騙して儲けようとする人間には都合よくできていることが理解できた。  一人、魅力的な人物が。辞書を覚え日本語ニュースを読み上げるという独習法で日本語習得した中国内陸部出身の范さん。よく商品レビューで見るチグハグな日本語よりだんぜん正確。添削のお仕事をされたらいいのに。 「外国人は」とひとくくりにしないことで理解が深まる活力のあるルポルタージュだった。