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さんの書評2021/06/042いいね!

昭和十四年の沖縄へのタイムスリップ

 この作品には、戦前の沖縄の状況描写を通して、現代の日本の状況を考えるというテーマがある。  冒頭に「龍神」がでてくる。この龍神はタイムワープを司るという解釈がされている。気温上昇による気候変動と大規模な自然災害、民族国家間の核戦争により人類が滅亡した未来、地球の大部分を占める灰色の海に巨大な龍が出現する。龍は人類が消え去った事を悲しむように、地上から飛翔し灰色の地球を離れ大気圏外に飛び出す。太陽と地球が同じ大きさに見える空間に達し体を丸めて縦方向に回転を始めた龍は、やがて輝く球体となって辺りに強い光を放ち始める。(ここで数千年前の過去へのタイムワープ) ・・・  暫くして龍は回転を停止し再び地球へと向かう。この時の地球は灰色ではなく青く輝き、まだ人類が繁栄している。大気圏に入ると龍は体を揺らして地球の周りを回り始める。龍の体からは無数のキラキラした光が地球に降り注いでいる。やがて龍は白い雲の中を降り、小さな島(沖縄)の上空へ近づいて行く。龍は、人間達で賑やかな街の上空をゆっくりと一回りし、その街の一角にある小さな石に向けて金色の髭からキラキラした光をほんの少し振り下ろす。  その光が向かった先は、昭和62年の賑やかな国際通り近くの公園の石の上に腰かけていた青年だった。東京からの観光客の青年は光に包まれ、昭和14年の畑の中の拝所(ウガンジュ)の石の上にタイムスリップすることになる。戦前の那覇の街を彷徨う事になった主人公は、宿を提供してくれる老夫婦、旧制中学の生徒達や先生達など、様々な人々との出会いの中で、当時の沖縄の状況について考える事になる。  琉球国は江戸時代二百数十年間にわたり、薩摩藩の過重な年貢に苦しみ、琉球の農民は薩摩藩と琉球王府への二重の貢租で家畜にも劣る生活を送っていた。幕末薩摩藩は倒幕資金調達のため、琉球国内で銅銭1文を鉄銭32文にする政策を始め、琉球国内の鉄銭の価値が暴落、物価が急騰、農民の困窮は限度を超えた。これは「敬天愛人」の西郷隆盛も承知していた筈だ。  明治維新を経ても沖縄県は平均所得が全国平均の3分の1以下という「日本一の貧乏県」だった。しかも所得に対する国税負担率は全国平均の2倍以上、税金を払えない家が半数以上という状況だった。そして若者たちの多くが、生活のため本土への出稼ぎや海外移民を始め、50万の県民中7万人が本土への出稼ぎ2万人が海外移住する事になる。  そして日本は、この沖縄や北海道での経済的搾取の成功体験を基に、海外に進出し資源と利権を求めるようになり軍国主義の道を進むことになる。この時代は、いわば日本国自体のマブイ(魂)が落ちた状態だった。朝鮮や満州や中国大陸という泥沼に何か信じられない力で進んで行き、誰も止められない。止めようとする者は「非国民」と批判され刑務所行きとなる。そしてマブイが落ちた日本の行く先は、多くの国民の死であり敗戦だ。  この様な考えに至った主人公は、悪夢の沖縄戦が数年後に迫る中、ウチナーンチュ(沖縄人)達がヤマトンチュ(大和人)達に従順に従っている状況に怒りと絶望を感じていた。 ある日、青年は拝所で知り合った若い女性に誘われてユタ(拝み人)の家を訪れる。そこでユタに、青年の役目は彼の伯母が学童疎開船対馬丸に乗る事を止める事だと告げられる。  主人公の青年は、対馬丸に乗船した彼の伯母さんにあたる少女の夢を見る。 夢の中で、少女は沈没する船の渦に巻き込まれ、深く真っ暗な海の底へと沈んでいく。 そこで龍神のキラキラした光に救われて、数十年後の未来へとタイムスリップする。 ・・・ 光が薄れ、気が付くと少女は、ぼんやりと明るい場所にいる。 そこは原っぱで、まわりには白い花がたくさん咲いている。 少女はそこで、数十年後の未来のお婆さんになった母親と再会する。  この夢の描写こそ、この小説の主題であり、作者があとがきで述べている 「上手く生きる事が出来なかった者たちへのsympathy」を表現しているのだろう。 「この世界は、本当に行き詰っていないのだろうか?」行き詰った世界は戦前の沖縄だけの話ではない。現代の日本も行き詰った世界ではないのかと作者は述べている。  この作品の歴史的根拠となる参照文献は、巻末に28ページに渡り収載されている。薩摩藩支配下から現在に至る沖縄の歴史に関する資料として活用できる。  本文中、タイムスリップの話題に関連して相対性理論に関する記述も出てくる。 3次元球面(x,y,z)=(asinθsinφ,asinθcosφ,acosθ)からのシュバルツシルト時空、 4次元超曲面(x,y,z,w)=(afαsθsφ,afαsθcφ,afαcθ,af'α)からのフリードマン時空 等のアインシュタイン方程式の解法が、巻末に12ページに渡り詳細に記載されている。

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