さんの書評2025/07/04

明治時代に起きた、曹洞宗二大本山分離問題を解決に導いた名僧の評伝小説

幕末明治に活躍した僧侶をモチーフにした作品で、新政府の祭政一致を目指して発した「神仏分離令」や「太政官布達19号」により、廃仏毀釈運動を始め宗教界に様々な紛擾を生じさせた。そうした紛擾に、自身の名誉と地位を捨てて解決に挑んだ人物の物語です。 神道を中心とする祭政一致の国家を目指して明治政府が打ち出した宗教政策は、廃仏毀釈と相まって伝統仏教教団が大いに混乱しました。永平寺と總持寺を両大本山とする曹洞宗では、一宗一管長を置かねばならなくなったことで不和が生じ、確執は深まり、1892(明治25)年に總持寺が曹洞宗からの離脱宣言されるという大事件が勃発しました。 本書は「両本山分離問題」と呼ばれるこの事件を解決に導いた越後柏崎出身の星見天海の評伝小説です。 星見天海を顕彰するために天海が足跡を残した地をくまなく取材されたようで、残された資料をひもとき、今日まで宗門内でタブー視され、積極的に語られることがなかった騒動の真相に迫り、天海の人柄とともにリアリティーあふれる作品になっています。 1893(明治26)年に、当時の第二次伊藤博文内閣の内務大臣だった井上馨から天海が事件の仲裁役に抜擢されたのはなぜか。どのようにして永平寺、總持寺の両方の面子を立てる形で、事件を解決に導くことができたのか。なぜ總持寺貫首就任を断り、故郷の小さな寺に隠棲したのか。この小説で読み解いてもらうことが出来ると思います。

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