目次
はじめに
凡例
リビアと地中海諸国(地図)
Ⅰ リビアの成り立ち――地理・歴史・民族
第1章 リビアの風土――海と砂漠の国
第2章 古代のリビア――「リビアにはすべてのものがある」――ヘロドトス
第3章 トリポリタニア――ライバルはカルタゴ
第4章 地中海の砦 トリポリ――三〇〇〇年を生きた都
第5章 世界遺産の古代都市① レプティス・マグナ――大理石の都
【コラム1】レプティス・マグナ紹介
第6章 世界遺産の古代都市② サブラータ――モザイクの都
第7章 世界遺産の隊商都市 ガダーミス――砂漠の魔法の入口
第8章 民族運動の狼煙――砂漠のライオン
【コラム2】イドリース一世――リビア王国の孤独な君主
第9章 フェニキア人の末裔――民族と言語
第10章 リビア人気質――三つの原点
【コラム3】リビア人意識の形成
【コラム4】サヌースィー教団
Ⅱ リビアの反政権闘争
第11章 二〇一一年の民衆蜂起――燎原の火のごとく
第12章 革命はいつもベンガジから――リビアの歴史的特徴
第13章 独裁者の死――誰にも知られない砂漠に
第14章 カッザーフィーとは何者だったのか――「アラブの狂人」
第15章 カッザーフィーの生い立ち――遊牧民の誇りのなかで
第16章 カッザーフィーの革命――周到な準備の成果
Ⅲ 国際社会とリビア
第17章 テロ支援国の過去――日本赤軍もカルロスも
第18章 アメリカとの因縁の関係――二〇〇年にわたる確執
第19章 カッザーフィー爆殺未遂事件――高まったカリスマ性
【コラム5】「アメリカ蛮行の記念碑」での食事会
【コラム6】女性たちの革命記念日
第20章 国連制裁解除――「バスに乗り遅れるな」
第21章 大量破壊兵器放棄宣言――カッザーフィーの大変身?
第22章 カッザーフィーの後継者は誰か――「あの家族」を継ぐ者
【コラム7】リビア人小説家、ヒシャーム・マタール
第23章 リビアの若者意識――豊かな国の貧しい意識
Ⅳ 深刻な難民問題
第24章 よりよい生活を求めて――夢のアフリカ連邦
第25章 リビア経由でヨーロッパへ――「中央地中海ルート」
【コラム8】地中海を渡る難民を撮り続けて
第26章 政変後の労働市場――流入する移民労働者
Ⅴ 砂漠との戦い
第27章 ローマの穀倉――オリーブとオレンジの実る地
第28章 大人工河川計画――砂漠との戦い
第29章 リビアの宗教事情――タブーの表裏
第30章 リビア料理は多国籍料理――ご馳走はクスクス
【コラム9】手厚い食糧補助金制度
【コラム10】花嫁衣装は伝統衣装――部族によって異なる色と形
【コラム11】独自のイスラーム暦と標準時
第31章 教育制度――制服は迷彩服
第32章 女性の活躍――カッザーフィー夫人にならって
【コラム12】リビア女性の活動再開を祝う
第33章 都市のイメージ――外観より内側という考え方
Ⅵ 天然資源と日本との関係
第34章 注目の石油・天然ガス調査――世界最高級の石油
第35章 日本とリビアの関係史――資源を求めて
第36章 油田開発の公開入札――日本の大きな賭け
第37章 日本からの経済投資――技術開発に期待
第38章 石油生産は国家再建の鍵――リビア経済と石油部門
第39章 経済活動と民兵組織――首都トリポリの真の支配者?
【コラム13】内陸都市サブハーの風景
Ⅶ カッザーフィー政権の崩壊
第40章 民衆蜂起と独裁体制の動揺――混乱の始まり
第41章 民衆蜂起のきっかけ――それはベンガジから始まった
第42章 反体制組織の誕生と多国籍軍の軍事介入――内戦状態に突入
第43章 トリポリ陥落――カッザーフィー政権の崩壊
第44章 独裁体制の終焉――カッザーフィーの死
【コラム14】カッザーフィーは誰に殺されたのか
Ⅷ 新生リビアの生みの苦しみ
第45章 暫定政府の成立と混乱――カッザーフィー政権崩壊直後の政治課題
第46章 民兵集団の台頭――新たな危機の始まり
【コラム15】「真実を知りたい」
第47章 国民議会選挙法の施行――リビア初の自由国政選挙
【コラム16】国民議会選挙に立候補
【コラム17】アメリカ総領事館襲撃事件
第48章 移行政府の始動と課題――旧政権関係者の公職追放をめぐって
【コラム18】新生リビア見聞記(二〇一三年三月)
第49章 イスラーム主義勢力との抗争――新たな危機の始まり
【コラム19】陶器の町・ガルヤーンを目指して
第50章 ハリーファ・ハフタルの登場――行き詰まる新体制
【コラム20】ハフタル将軍とは何者か
第51章 東西に二つの政府――軍事的緊張の高まり
【コラム21】人道的犯罪の露呈――タワルガ避難民
Ⅸ 統一国家再建への期待
第52章 統一政府の樹立に向けて――政治対話の開始
【コラム22】カッザーフィーの従弟は語る
第53章 「イスラーム国」との戦い――厳しい船出となった国民和解政府
第54章 複数政府体制――困難になる国家再建
第55章 ハフタル将軍と東部政権――有力政治家かそれとも新たな独裁者か
第56章 民主化プロセスの停滞――指導力を発揮できない国民和解政府
第57章 残る植民地支配の後遺症――中東世界に共通する問題
第58章 民衆蜂起の果てのカリスマ待望論――カリスマを排除したものの
第59章 大統領選挙への期待――国家分断の解消に向けて
第60章 新生リビアの安定は可能か――国際社会の支援と介入
【コラム23】祖国への想い
参考文献
リビア略史(年表)
新生リビア政権の系譜(図解)
索引
執筆者紹介
編著者紹介
前書きなど
はじめに
北アフリカの大国リビアは、二〇一〇年一二月にチュニジアから始まった一連の北アフリカの民衆蜂起、いわゆる「アラブの春」の余波を受けて、その政治体制や社会的状況が大きく変化した。九年を経た今日もなお、複数の武装勢力による政権抗争が止むことはなく、国内は戦乱と破壊のるつぼとなっている。二〇一一年一〇月に四二年間もリビアを支配した特異な独裁者カッザーフィー(カダフィー)が殺害された直後は、リビアで初めて、という歴史的な総選挙も実施され、一時的には民主的な政権が発足したものの、わずか二年後には部族間闘争が激化してしまい、二〇二〇年二月現在まで、国内を安定的に統治できる政権は現れていない。
本書は、二〇〇六年六月に出版した『リビアを知るための60章』をもとにしながら、二〇一一年二月以降の内戦と混乱によって大きく変化したリビアの現状を、できる限り新情報を収集して紹介するものである。この種類の現地情勢を紹介する著作には、著者本人が現地で詳細な調査を実施して、現地の実情を赤裸々に紹介することが必須である。しかし、リビアの政情が安定せず、飛行場もたびたび閉鎖され、現地の住民たちにも被害が及んでいる危険な現状では、著者が直接、現地調査をしに渡航することは不可能であり、現地の様子を詳細に把握することが極めて困難となっている。その中で、この度、リビアの社会や政治を研究テーマとする若手研究者二人(上山一、田中友紀)の協力を得ることができ、細い糸のような連絡網を駆使して、できるだけ現地の住民たちと連絡を取り合った成果を持ち寄って、ようやく改訂版を出すことができたものである。
(…後略…)