目次
一章●家父長ってなんや
修業時代。/わたしの父は県議会議員、祖父は衆院議員だった…。/小学三年生になるときに父が食道ガンでなくなった。かなしくもさびしくもなかった。/
わたしの母は「まま母、まま母」と、連日いじめぬかれた。/母にとって、わたしは常に優等生でなければならなかった。/中学生のときに映画館で、初めての同性愛体験をした。/可愛らしい同性愛のラブレターを交換し合った。/わたしの射精はジェット機並みの速さだった。/男と男との生身の体の触れ合い。舌の吸い合いがどれほど続いただろうか。/戦後六年目に、わたしは大学生になった。/今の社会はマネー・イズ・オールマイティや…。/私のピアノに聞き惚れてくれた若者を、このままお帰しするわけにはいかない…。/君はすばらしいからだをしているネ…。?濡れねずみ?はささやきながら、幾度も挑んできた。/この男は狂っている、狂っていなければ、男のくせに男を抱くものか……。/あんた女泣かせやわ…。パンパンにささやかれた日。/全く世間並みの結婚式を行った。
二章●家族ってなんや
遍歴時代…事業に手を出して失敗したわたしが選んだ。ゲイの世界、そこで考えたこと、人間とは、愛とは、金とは。/長男が生まれたころに、男から電話がかかってきた。/男の狂った嫉妬からの暴力で、わたしは殺されかかった。/踊りのお師匠さんから、「今晩どうだす」と迫られて…。/なんでアメリカまでやってきて日本人の男に抱かれないかんのか…。/グリニッチビレェージでは、男と男が自由に愛を語っていた。/ブロイラー産業に着手。順調な滑り出しだったのだが…。/極道息子を持ってお気の毒ですなァ。借金まみれで…。母はそう、罵られた。/金と体と取引をしようか…。わたしが生まれて初めて泣いた日。/交番の目の前に、ゲイバーを出店。/一九六三年一月一九日、ついにオープン、店の名は?るどん?/わたしのパトロンと知っていてなんで、抱かれたんや。/パトロンにいうた。別れさしていただきます、お店にはこないでくださいね…。/男なのに「女給」といわれて、風営法違反で、警察のお世話に。/目と鼻の先のゲイバーに、ゲイ・ボーイを引き抜かれた。/不動産にダマされて、一千万円がパー。/カルーセル麻紀とのはじめての出会い。/タ、タイヘンや。ミキちゃんがオカマリンチに会わされている!/東郷さん、注意してください。梅毒二期症状です…。/小説家・椎名麟三先生がわたしの店にやってきた。/「深夜営業禁止条例」が一九六四年、施行されたので…。/電気代も水道代も滞り、酒までなくなった。/店は解散、家族を残して、独り東京へ上京。/?アオエ?がいま人手がないから、あそこの店に行ってごらん。/一から出直そうとやってきた東京、どんなことをしても働きたい。/ああ、落ちぶれたんだなァ…。/トイレ掃除をした時に、黄色い嘔吐物と涙が流れてきた。
三章●政治ってなんや
疾風時代。「オカマの東郷健」のキャッチフレーズで私が本当に言いたかったこと、そして「雑民の部屋」について。/叛逆に駆りたてた一〇代の美少年との出会い。/オカマの自己批判とは、オカマと宣言すること。/ギリギリに、ドロドロに生きて来た、とうごうけんを支援して欲しい。/母の死について。/お母ちゃん、死んでまでなんで差別をせなあかんネンやろ。/さあズボンのチャックをひきずり下ろせ、君の銃口を立てて発射せよ。/同性愛の世界にまで差をつけて喜んでいますネン。/夜はママと呼ばれ、昼はパパと呼ばれ…。/一夫一婦制という牢獄が政治家・資本家に利用されている。/レズビアン、ゲイ、SM……みんな差別されている。/雑民の部屋で愛の共有や。
四章●天皇ってなんや、オカマってなんや
NHKの政見放送│八〇年の参院選。/天皇が人間宣言したからと許せるか。/操作される群集心理。/天皇制を中心とした上昇志向。/結婚したがるゲイやレズビアン。/オカマという言葉が死ぬほど嫌いだった。/オカマという最低の差別。/異常と倒錯は今の社会や。/愛を語れぬ向坂逸郎│社会主義者の差別と偏見。/浮気をしらぬ大先生。/オカマは病気!
五章●ワイセツとの闘い
歴史に逆行する判決で、日本の裁判史上の汚点や。/ワイセツ物を輸入しようとして税関で捕まった。が、没収を拒否!/北海道のAさんは、「ワイセツ物」の輸入を試みるも、税関で没収。最高裁まで争った。/税関検査は検閲にあたらないンか?!最高裁の初判断。/憲法学者は猛反発。/個人的鑑賞が目的ならOK。東京高裁で健さんは無罪へ。/わいせつ物輸入に刑事罰。これが最高裁が下した判決か!/留置所になんどブチ込まれようが、ワイセツという言葉はないんやと訴えたい。/怪人二一面相事件で、ワイセツ理由に逮捕された!/人間の体のどこが猥褻なんでしょう。男が男を愛して、なぜ猥褻なんでしょう。/風に吹かれて、慈悲に包まれ、愛がすべてや、愛こそが命やと、私は叫び続けたい。
六章●差別との闘い
聾唖の候補の政見放送が五分、無言のまま流された!/手話通訳をつけてください!という訴えを、NHKは拒絶した。/多数者の意見が民主主義やといって、少数者の意見を無視してきたんや。/NHKが健さんの政見放送での発言を無断でカットした。/ブチ切れた健さんはNHKを提訴、東京地裁で全面勝訴したものの…。/NHKの建物に火をつけ、燃やそうではありませんか…。政見放送で訴えた。/異常なのはいまの社会や。/限りなき空と時とのただ中に小さきものの何を争う。/私には、夢があるんや…。中国にゲイバーをつくったる!
七章●東郷健ってなんだったんだろう
さあズボンのチャックをひきずり下ろせ。戦争にまつわる資本家共に向かって君の銃口を立てて発射せよ。/君は何故やらないのか、男と男がねることを。/東郷健はゲイの中で、禁忌(タブー)だった。/東郷健のせいで、ゲイの国会議員が誕生しない?。/それは、他人のふんどし根性だ。/事実は消えることはない。/「オカマ」は差別か?/在日外国人に「伝説の○○」という蔑称を用いたタイトルをつけるの??/「おかまの娘」と囃したてられいじめられてきた彼女が…。
終章●死と志
怪物弁護士・遠藤誠の死。/生まれた故郷の水を贈りつづけたんや…。/とても静かに落ち着いて、人の心に沈んでいくだろう。
あとがき●及川健二
東郷健を取り入るくらいの度量が市民運動には必要ではないか/そして、『常識を越えて……』は誕生した。/東郷健って何だったのだろうか…。