紹介
池澤夏樹さん推薦!!!
「この人、何者?
極上のエッセーで、文体が弾み、とんでもなく博識で、どうやらフランス暮らし。俳句を作る人らしい。一回ごとに漢詩の引用があるが、その漢詩はいつも角を曲がったところに立っている。しなやかな和訳と読解が続く。
世の中は驚きに満ちている、と改めて思った。」
(本書帯文より)
フランス在住の俳人・小津夜景さんがつづる、漢詩のある日々の暮らしーー
杜甫や李賀、白居易といった古典はもちろんのこと、新井白石のそばの詩や夏目漱石の菜の花の詩、幸徳秋水の獄中詩といった日本の漢詩人たちの作品も多めに入っていて、中国近代の詩人である王国維や徐志摩も出てきます。
巻末には本書に登場する漢詩人の略歴付。
目次
はじめに
いつかたこぶねになる日
それが海であるというだけで
釣りと同じようにすばらしいこと
虹をたずねる舟
翻訳とクラブアップル
とりのすくものす
タヌキのごちそう
おのれの分身と連れ添う鳥
あなたとあそぶゆめをみた
空気草履と蕎麦
屛風絵を旅する男
はだかであること
愛すべき白たち
はじめに傷があった
隠棲から遠く離れて
スープの味わい
イヴのできごと
海辺の雲と向かいあって
生まれかけの意味の中で
砂糖と試験管
紙ヒコーキの乗り方
春夜の一服
ベランダ暮らしの庭
文字の消え去るところ
鏡とまぐわう瞳
無題のコラージュ
ひょうたんのうつわを借りて
貝塚のガラクタたち
ファッションと柳
旅行の約束
わたしの祖国
おわりに
本書に登場するおもな詩人たち
漢詩出典
初出
前書きなど
はじめに
今日、自転車を漕ぎながら、詩っていいものだな、と思いました。
いったい詩のどこをいいと思ったのかというと、なんといってもその短さです。短いおかげで忙しくても自分のペースでつきあえるし、暗唱だってできる。そしていったん暗唱してしまえば、料理をしていようと、シャワーをあびていようと、車窓をながめていようと、本を売ってしまおうといっこうに困らない。
そんないいところのある詩の世界から漢詩ばかりをみつくろい、その黴臭いイメージをさっと片手でぬぐって、業界のしきたりを気にせず、専門知識にもこだわらない、わたし流のつきあい方を一冊にまとめたのが、いまあなたの手にしている本です。それぞれの作品には日々の暮らしや思いつきをつづった文章を添え、漢詩とわたしとの表向きの距離感がみえるようにしました。雑学好きの方のために、ざっくばらんに語った翻訳論や定型論などもはさんであります。あとわたしはふだん俳句を書いているので、漢詩にからめた俳句連作も折り込みました。収録作品は、おおざっぱに分類してこんな感じです。
【生活にまつわるもの】
食べものについて、調理法について、味わいについて、水の真理について、ビオトープについて、昆虫の仕事について、別荘のすごし方について、道具の使い回し術について。
【社会にまつわるもの】
闘う女性について、獄中詩について、左遷について、地方の貧困について、江戸時代の広告について、明治時代の洋行について。
【芸術ないし思想にまつわるもの】
極薄性について、まぼろしと傷について、絵画と没入について、鏡と自己について、定型とコラージュについて、文字と無について、ケンブリッジと漢詩、ブレイクと漢詩、シェリーと漢詩、王朝系サウンド屈指の名盤について、詩とはなにかについて。
【人生にまつわるもの】
すぎゆく時間について、愛する者の死について、夜の閨房について、春の夜のひとときについて、仙人稼業について、隠棲の夢について、老いについて、人間がどこから来てどこへ去ってゆくのかについて、読書への愛についてなど。
詩人たちの国籍は中国と日本が半々くらい。年齢は原則として満年齢で統一しています。翻訳はできるかぎり原典に忠実であることを心がけ、常用漢字外の漢字および音訓を含む語には各篇ごとにルビをふりました。もしもこの本が、あなたならではの漢詩とのつきあい方を発見し、漢詩のある日常を自由にデザインするきっかけになったとしたらとても嬉しく思います。