目次
根のないフェミニズム フェミサイドに立ち向かったメガリアたち/ もくじ
訳者はじめに メガリアとウォーマドについて
第1章 すべては告訴から始まった キム・インミョン
メガリアからウォーマドまで
女性であることを隠すことで発言できていたオンラインの女たち
女性時代カフェとオンダルセム事件
かつてない新たな地、メガリア
ミラーリング論戦とウォーマドの誕生
私は告訴された
「チョッペム(チンコ蛇)」と罰金100万ウォン
険しい道、裁判を選んだ
被告人は出廷していますか?
ウェブ漫画家が打ち上げた小さなボール
フェミニズムはなぜメガリアを無視するのか
オンライン女性たちのためのプラットフォーム
匿名のキムさん、その名で一歩踏み出す
第2章 「招待客募集」を、
聞いたことがありますか? カン・ユ
集団レイプと一行のコメント
私の友達はそんな人じゃない
私たちに「間違っている」と言う社会が間違っている
火花となって燃え上がり…… 灰になれとでも?
20代、大学卒業証書1枚、非正規雇用、そして女
自分で締め上げたコルセット
女性たちのつながりが私たちを救う
第3章 怒りは我が力、オンラインの
魔女狩りに立ち向かう イ・ウォニュン
メガリア、それは言葉にして勇気
もう沈黙はしない
ミラーリングはブーメランとなり返ってきた
江南駅10番出口、女性嫌悪社会の出口へ
イルベと一戦交える
「あんたの顔がイルベに上がってる」
生き抜いてみせるし、勝ってみせる
「僕は女性嫌悪者(ミソジスト)ではない」
私のことを覚えておけ! 火刑に処せられた魔女は復讐のために帰ってきた
第4章 オンラインフェミサイド、
今度は私たちが話す番だ クク・チヘ
「ヒュンジャ」として生きてきた自分を脱ぎ捨てる
標的定め、コメント浄化、キーボードバトル、そして……
女性嫌悪に左右はない
誰が、女性たちに、失われた言葉を授けられるだろう
女性の名前で女性を消す彼ら
「韓男虫」と罵れば、ようやく「マンコ女」も問題になる
「切られ」まくったフェイスブックアカウント
真の男性フェミは死んだ男だけ。しかし……
ここにはまだ人がいる。今度はその人たちが話す番だ
クク・チヘ流、真の男性フェミニストになる方法
第5章 最後まで生き残ろうとする女は、汚名を着せられる イ・ジウォン
自分の怒りを信頼するという宣言
レイプを承認することで守られる兄弟愛と男性たちの名誉
男性秩序から脱走しようとする女を火あぶりにせよ
空間の主権を侵奪する男たち
女子大別チンコの家地図
女性の空間が消えてゆく
フェミニズムから、女性たちが追い出されてゆく
「女子大に侵入する男性たちと、『女の敵は女』の真実」セミナー中止に関する立場表明
第6章 活動家は生まれるのではない、つくられるのだ ヒヨン
「女イカ」、メガリアンになる
クソみたいな世界に向けた私たちの言葉、ミラーリング
ソラネットを知った以上、それ以前には戻れなかった
毎日のキーボードバトル、それでも?
運動は運動として残ってこそ強い
第7章 フェミニストの液体的連帯を夢見る チョン・ナラ
一つの問いから始まった変化
匿名の個人として発言し、連帯する
交差性? 交差性!
オンラインとオフラインの浮標
フェミニストの液体的連帯を夢見て
第8章 存在へ近づいてゆくこと 弁護士パク・ソニョン
付録 タイムライン
付録 単語辞典
日本の読者のみなさんへ チョパク・ソンニョン
訳者あとがき 大島史子
『根のないフェミニズム』の背景にあるもの
前書きなど
訳者はじめに
「メガリア」と「ウォーマド」について
「根のないフェミニズム」。韓国語で「根のない」とは「系譜がない」ことを意味する。オフラインの女性嫌悪がオンラインにおいてもますますひどくなる現実の中で、否応なしに大きな流れに巻き込まれた者、または戦いをしかけられた者のフェミニズム、とでも言おうか。
「ミラーリング」に代表されるユーモラスかつわきまえない手法で、オンライン空間に満ちあふれる根深い女性嫌悪に対抗した女性たちのオンラインコミュニティ、「メガリア」。
「メガリア」が誕生したきっかけは、2015年のMERS流行下、大韓民国初の感染者が「香港旅行から帰国した女性」という誤報を受け、男性中心のオンライン掲示板で女性に対するヘイトの書き込みが溢れたことだった(のちに最初の感染者は男性だったと判明)。
韓国の大型掲示板サイト「DCインサイド」の中に「MERS掲示板」が作られ、女性嫌悪の投稿が溢れたことをきっかけに、女性たちは「もう我慢ならない」とミラーリング投稿で対抗し始めた。そして彼女たちは自らを「メガリアの娘たち」と呼び始める。これは「MERSギャラリー」(MERSの韓国語での発音は「メルス」)とガード・ブランテンバーグの小説『イガリアの娘たち』を合わせた言葉だが、その後「メガリア」とだけ呼ばれるようになる。
メガリアはその後DCインサイドを出て独自のサイトを開設し、ミラーリングのほか数々のオンラインイベント、さらにはオフラインでの活動を通じて女性嫌悪社会に抗っていった。盗撮やレイプの温床であった巨大アダルトサイト「ソラネット」の閉鎖は特筆すべき快挙である。
しかしいくつかの事件を経て内部分裂を繰り返し、メガリアのサイトはついに消滅してしまう。その後継となったのが「ウォーマド」である。「woman」と「nノマドomad」の合成語で「女はさすらう」という意味が込められたこのサイトも、男性たちによるサイト攻撃や運営側の不祥事を経て、会員たちが散り散りになっていった。
そんな「メガリア」と「ウォーマド」は、韓国社会で常に非難を浴び続けてきた。男性による女性嫌悪を放置してきた社会が、女性によるミラーリングとしての〝男性嫌悪.にはことさら厳しく対処したのである。現在でも「メガリア」「ウォーマド」といえば「けしからん女たち」と考えられ、フェミニズム的な発言をする女性へのレッテルとしても使われる(ジェンダー平等を説けば「おまえはメガリアだろう」というふうに)。
本書はまさにその「けしからん女たち」自らによる戦いの記録である。女性を都合よくしつけようとする家父長制社会こそいかに暴力的で「けしからん」ものか、彼女たちが教えてくれる。