目次
1章「愛されつづけるデザイン」
・iPhone
・ヴァイオリン
・コカ・コーラ
・サントリー角瓶
・Gショック
・しょうゆ卓上びん
・SUWADA つめ切り
・ゼムクリップ
・ポッキー
・柳宗理のレードル ほか
コラム「ロゴデザインと日本の「家紋」」
2章「デザインと経営」
・デザインが企業の持続的成長を支える
・労働生産性アップのためにデザインを活用
・デザインに関する知的財産権
前書きなど
はじめに
みなさんの目の前に、AとBの二つの製品があります。機能や品質はほとんど同じですが、値段はBよりAの方が3割も高いです。ところがAのデザインはとても魅力的で、一目で気に入ってしまいました。みなさんなら、どちらの製品を買いますか?
これは、本書を通して私がみなさんに問いかける質問です。数百円の製品から一千万円を超える製品にまで、通底している課題は全く同じ。買い手にとっては、AとB、どちらの答えがあっても不思議ではありません。
しかし、もしあなたが製品やサービスを売る立場だったら、絶対に「3割高く売りたい」と思うはずです。それを叶えてくれるのが「デザイン」なのです。実際にデザインの力によって、同じ機能や品質の製品でも、3割どころか10倍、20倍高くても売れることがあります。その上、長い期間に渡って売り続けることも可能です。
本書では、世界中にある優れたデザインの製品を紹介します。その多くが長い歴史を有しており、50年、100年を超えて愛されている製品もあります。こうした製品を持った企業がどれほど高い利益を長期間に渡って享受できているかは、想像に難くありません。なにしろ開発費や製作コストを大幅に節約でき、市場における認知度は非常に高く維持できる上、派生商品も容易に開発できるのです。
今、日本経済は未曾有の環境変化に遭遇しています。その最たるものが、少子高齢化による労働人口の減少です。もちろん定年の延長や廃止、外国人の登用、またIT化やAI導入などで労働生産性アップに取り組んでいる企業も少なくありませんが、大多数の中小企業は、利益の低下に悩みを抱えています。 これでは従業員の賃金も上がらないため、消費も伸びません。日本経済がデフレから本格的に脱却できずにいるのも、ここに原因があります。そんな厳しい状況下に「新型コロナウイルス」という、とてつもない災禍が日本経済に襲いかかってきました。今こそ消費者が「欲しい」と思う商品やサービスを提供していくことが、企業の生き残りにつながるのではないでしょうか。
そもそも日本企業の時間あたりの労働生産性は、2019年時点でOECD(経済協力開発機構)加盟35カ国中21位と低く、主要先進7カ国の中ではデータを追える1970年以降、最下位を続けています。そこで本書では、デザインの力によって一人当たりの労働生産性を飛躍的に上げる経営術についてお伝えしていきます。製造業はもちろん、GDPの7割を占めるサービス業にも応用できます。経営に携わる多くの方に、参考にしていただけるはずです。
冒頭のAとBの例のように、みなさんがデザインを気に入って、周りの製品より3割高い製品を購入したとします。最初は「少し高かったな」と感じても、飽きのこないデザインであれば簡単に買い換えることはなく、長期間に渡って使用するはずです。買い替え需要は減るものの、そもそも一製品あたりの利益率が大幅にアップしているので、経営的には問題ありません。これがデザインの力です。
限りある労働力を最大活用するために、また少ない予算で最大利益を上げるために、デザインの力を大いに活用してみませんか? 小さな会社を経営している方や、個人でフリーランスとして活動している方もいらっしゃると思います。はじめにお断りしておきますが、デザインを活かした経営に向いているのは、大企業よりも、むしろ中堅以下の規模の会社です。
では、実際に超長期間に渡って売れ続けるデザインを編み出したり、経営に取り入れるためにはどうしたらいいのでしょうか。そこにはいくつかの法則がありますが、まずは「百聞は一見にしかず」です。世界的に大成功したデザインの秘密を解き明かしながら、これから50年、100年と使い続けられる製品をつくり出すためのヒントを探っていきましょう。