紹介
古典を「読んだ」と言うのは勇気がいる。自分なりの古典の読み方を見つけるにはどうしたらいいのだろう?
古典を「読む」にはどうしたらよいのか、古典を「読む」とはどういうことか、ということを、様々な角度から示し、「読む」ための手がかりやヒントを提示することで、古典を「読む」楽しさの一端を伝えようとする本です。
第1部「読まなければなにもはじまらない」では、「書誌調査や伝記研究、あるいは文化研究に解消されない文学研究のあり方を模索」して、「語り」という観点から近世小説の歴史を通観しようとしていた、故木越治の遺稿を掲載。「作品は読者が読まない限り単なる紙とインクのかたまりにすぎない、あるいは、「読む」ことを通してはじめて作品は生命を与えられる」という、本書のタイトルでもある「読まなければなにもはじまらない」というメッセージを起点に、古典を「読む」ことについて考えます。
第2部「古典を「読む」ためのヒント」では、古典文学作品を分析するための方法について具体的に論じていきます。【古典を読む前に】【古典文学の表記】【典拠のはたらき】【文体のはたらき】【古典文学のなかの手紙】【絵とテクスト】【漢詩読解入門】【「文学」の範囲】【文学としての演劇】など様々な視点からヒントが得られます。
第3部「いま、古典を「読む」ということ」では、国語科教員・地域情報誌編集長が【「生きる」ことと古典】【古典教育の諸問題】【役に立つ学問とは】という視点から、古典を学ぶことの意味を考えるきっかけを提供します。
最後の第4部「読むことでなにがはじまるのか」では本書の主題をあらためて問い直す座談会です。創作活動をなさっている堀切克洋氏・パリュスあや子氏・木ノ下裕一氏を招き、古典を「読む」ということについて語り合いました。
執筆者は、木越 治・丸井貴史・高松亮太・中野 遙・紅林健志・岡部祐佳・有澤知世・山本嘉孝・真島 望・日置貴之・加藤十握・中村 唯・宇治田健志・堀切克洋・パリュスあや子・木ノ下裕一。
【往々にして、古典は「難しい」「つまらない」「堅苦しい」「敷居が高い」ものと思われがちです。しかし、本書を手に取ってくださった方々は、少なくとも古典に対して何らかの興味や関心をお持ちのことと思います。まずはそうした皆さんに、古典の面白さ・魅力・意味を再発見していただけることを願ってやみません。そしてぜひ、ひとつでも多くの古典に手を伸ばしてみてください。
何のために古典を読むのか―。それはたいへん大きな問いですが、しかしそれを考えるには、読まなければなにもはじまりません。いま、それを始めましょう。】
目次
まえがき─何のために古典を読むのか(丸井貴史)
第1部 読まなければなにもはじまらない(木越 治)
1 はじめに─読まなければなにもはじまらない
2 作者と作品の関係について
3 「語り」への注目
1.「語り」とは?/2.なぜ近世小説の「語り」に注目するか──『源氏物語』の「語り」から学んだこと/3.『源氏物語』以前の「語り」──『竹取物語』の場合/4.『源氏物語』以前の「語り」──歌物語の場合
4 御伽草子の「語り」
a 「浦島太郎」の「語り」について/b 「物くさ太郎」の「語り」
5 おさんという女─『好色五人女』巻三を読む
○西鶴はむずかしい/○『好色五人女』巻三について/○「大経師の美婦」と「室町の今小町」──第一章の時間処理について/○「語り」の多い叙述文──第二章の文体分析/○逃亡のなかから/○変貌するおさん/○茂右衛門をとおして見たおさん
第2部 古典を「読む」ためのヒント
【古典を読む前に】
1 古典の「本文」とは何か─『春雨物語』の本文研究に即して(高松亮太)
1 本文を校訂すること/2 本文を定めること/3 『春雨物語』の諸本/4 『春雨物語』の本文史/5 これからの『春雨物語』研究へ向けて/6 古典の「本文」を読むこと
【古典文学の表記】
2 表記は「読み」にどう関わるか(中野 遙)
1 『こゝろ』と『こころ』/2 日本語の「正書法」/3 古典と表記/4 表記と「読み」との関係性
【典拠のはたらき】
3 表現の歴史的文脈を掘り起こす─典拠を踏まえた読解の方法(丸井貴史)
1 典拠とは何か──井原西鶴『好色一代男』を例に/2 古人とつながる──松尾芭蕉『おくのほそ道』/3 言葉が意図を裏切る──上田秋成「蛇性の婬」/4 再び『好色一代男』を考える/5 おわりに
【文体のはたらき】
4 文体の持つ可能性(紅林健志)
1 はじめに──なぜ文体研究が必要か/2 文体を選ぶ/3 文体と心情表現(1)──物語/4 文体と心情表現(2)──軍記/5 文体と心情表現(3)──お伽草子/6 文体と心情表現(4)──浮世草子/7 ファッションとしての文体(1)──初期読本/8 ファッションとしての文体(2)──後期読本
【古典文学のなかの手紙】
5 書簡体小説の魅力と「読み」の可能性(岡部祐佳)
1 はじめに/2 西鶴『万の文反古』について/3 江戸時代の不倫嘱託殺人事件/4 「噂」の謎/5 密通事件はあったのか?/6 女はなぜ自殺したのか?/7 おわりに
【絵とテクスト】
6 絵を読み解く─近世・明治の出版物を読む(有澤知世)
1 重層化させる絵──余情豊かに描く/2 雄弁な絵──言外に描き出す/3 共通認識をつくる絵──善の侠客・野晒悟助/4 絵から時代を読み解く──正義か悪か、背中の髑髏模様
【漢詩読解入門】
7 漢詩を読み解く─青地礼幹「喜義人録成二首」を例に(山本嘉孝)
1 漢詩を読み解くための二つのステップ/2 赤穂浪士を詠んだ漢詩/3 下準備──漢和辞典で一字ずつ調べる/4 第一ステップ──詩語の用例を探す/5 用例を絞りこむ/6 第二ステップ──漢詩が必要とされた場について理解する/7 第一ステップ(再)──用例をさらに絞り込む/8 作り手が参照し得た資料を確認する/9 第二ステップ(再)──内容と表現方法を吟味する/10 漢詩・漢文の世界観
【「文学」の範囲】
8 地誌を「読む」ということ(真島 望)
1 近世地誌とはなにか/2 江戸地誌に見る将門説話/3 将門祭神説への疑問/4 『江戸名所図会』の特色/5 結び
【文学としての演劇】
9 歌舞伎を「読む」ということ─河竹黙阿弥作品の場合(日置貴之)
1 演劇を「読む」/2 歌舞伎の台本/3 河竹黙阿弥作品の出版/4 活字本による享受/5 『黙阿弥全集』の問題/6 「配列」の美学
第3部 いま、古典を「読む」ということ
【「生きる」ことと古典】
1 古典を読む営為について(加藤十握)
1 「古典は本当に必要なのか」論争について/2 古典教材をジブンゴトとして読むこと/3 翻字を学ぶことの意味について/4 古典の現代語訳という営為について
【古典教育の諸問題】
2 古典との向き合い方─中等教育の現場から(中村 唯)
1 言葉を楽しむ体験/2 「古典が嫌い」とは何か/3 古典作品を読むということ
【役に立つ学問とは】
3 「現代社会」が古典文学をつくる─歌枕〈わかのうら〉受容の歴史から(宇治田健志)
1 専門外の立場で古典とかかわる/2 加速する社会、学問の消費期限/3 〈わかのうら〉は誰がつくった/4 〈わかのうら〉の舞台芸術と観光/5 古典の教養は共有のイメージ/6 現代社会が古典をつくる
第4部 読むことでなにがはじまるのか
堀切克洋・パリュスあや子・木ノ下裕一・丸井貴史
なぜこの座談会を企画したのか
どういう創作活動をしているのか
創作のモチベーション
「やばい」言葉との遭遇
現代語訳は乾燥わかめ
どこから古典を「読んだ」といえるのか
古典を「読んだ」というのは勇気がいる
現代語訳でわかった気になってしまう怖さ
点数化できる古典はやる気がなくなる
「おしゃべりな古典教室」で意識していること
国語は冷静さと情熱のバランスが難しい
古典を学ぶことの意味はどこにあるのか
言葉が足りていないという感覚
使うことによって言葉が息を吹き返す
古典にこちらからアプローチしていく
古典がなくなると生きづらくなる人は確実にいる
出会ってはいけないものに出会ってしまった感じ
古典が役に立つといわれている方が怖い
古典不要論に対して
外国で日本文学を説明する時どうするのか
夏井いつき現象と松山の俳句を使った試み
批評の大事さ
何を教えるのかというセレクト
フランスの芸術教育
あとがき(丸井貴史)
執筆者プロフィール