紹介
高校に古典は本当に必要なのか。
「高校生の声を伝えて、肯定派の目を開きたい。高校生という新たな視点で否定派の心を開きたい」
現役高校生が、当事者として高校生にアンケートを実施し、議論の場を作り、考えたことは何だったのか。2020年6月6日にオンライン開催された、高校生が高校生のために考えたシンポジウム「高校に古典は本当に必要なのか」の完全再現+終了後のアンケート+企画に至るまでの舞台裏+編者による総括です。
2019年、明星大学でシンポジウム「古典は本当に必要なのか」は、本書の編者の高校生にとっては、話がかみ合わない上に、問題点や疑問が放置されたと感じられ、とても満足できるものではありませんでした。そして開催されたのがシンポジウム「高校に古典は本当に必要なのか」です。
議論は果たしてどこまで進んだのか。現役高校生という視点は有効だったのか。これを読む私たちは、高校生たちの考えをどこまでくみ取ることが出来るのか。
古典不要論を考える際の基本図書ともなった、勝又基編『古典は本当に必要なのか、否定論者と議論して本気で考えてみた。』(文学通信)の続編ともいうべき本です。
編集は、長谷川凜、丹野 健、内田 花、田川美桜、中村海人、神山結衣、小林未來、牧野かれん、仲島ひとみの各氏。
【昨年わたしは6つの大学のオープンキャンパスに行き、国文学科や日本文学科を見てまわりました。そこで学生さんたちに次のように聞きました。
「古典は本当に必要なのかと問われている、この状況をどう思うか」。
古典が好きで大学で学んでいる最中の若い学生さんたちが、どう思っているのか気になったのです。熱心に答えてくださる学生さんも数人いました。しかし多くの場合、答えは次のようなものでした。
「古典が好きかどうかは人それぞれだから、あなたが古典を好きなら周りは気にしないで古典をやればいい」。
この答えはショックでした。否定派を無視できなくなっているのが現状です。それなのに国文学科の学生さんたちは、ただ好きな古典を読んでいるだけなのでしょうか。これでは古典は、否定派が言う通りのマニアックで閉ざされた世界です。どうかもっと学びの深い国文学科になってください。
高校生の声を伝えて肯定派の目を開きたい。また高校生という新たな視点によって否定派の心を開きたい。これは高校生にしかできないことです。だから3月に予定していたシンポジウムが延期されて、いまは受験生になってしまいましたが、このような形で開催することにしました。】
目次
はじめに(仲島ひとみ)
凡例
メンバー紹介
第1部 議論の土台を整える
――「高校に古典は本当に必要なのか」を考えるまえに
1.「高校に古典は本当に必要なのか」のコンセプト
2.前回のシンポジウム「古典は本当に必要なのか」論点まとめ――近藤泰弘先生、ツベタナ・クリステワ先生の主張も加えて
①猿倉先生の論点
②前田先生の論点
③渡部先生の論点
④福田先生の論点
⑤近藤先生の論点
⑥ツベタナ先生の論点
3.現役高校生の視点――高校生に実施したアンケート結果発表
(1)アンケートの性質
(2)アンケートの質問と回答結果
(3)各問の相関関係
(4)学年、選択科目と各問への回答傾向
4.ディスカッション――否定派・肯定派の認識を問いただす
(1)古典でしか学べないものは何か
(2)古典の授業は将来どのように役に立つのか
(3)その後のディスカッション
1.古典は優先順位が低いと考えるのはなぜか/文学的教養は必要とされていないのか
2.国語を教える際のリテラシーと芸術をどういう基準で区別するか
3.論理、論理的思考とは何か/「芸術・哲学・文学・古典・情緒的」の捉え方
第2部 高校に古典は本当に必要なのか
1.ディベート――高校の授業で古典を学ぶことに意義はあるか
ディベートを始めるにあたって
ルール■論題と肯定派否定派の立場ついて
ルール■「古典」とは何か
ルール■「授業」とは
ルール■「意義」と「論理」
ルール■「必修・選択」という言葉は使わない
①肯定派 第一立論/②否定派 第一立論/③肯定派 第二立論/④否定派 第二立論/作戦タイム中/⑤否定派→肯定派 反対尋問/作戦タイム中/⑥肯定派→否定派 反対尋問/⑦肯定派 最終弁論/⑧否定派 最終弁論/感想戦
2.ディスカッション――自由討議
(1)神話が教えられていないことについてどう思うか/外国の文学者が日本の古典について語ったことが、古典の必要性をサポートするのか
(2)古典のような教養やアイデンティティと、実用性を、教育においてどう両立させていくのか
(3)大学入試の問題点
(4)未来を生きるための「無用の用」/
3.閉会のあいさつ
(1)古典の現在に向き合う──「古典は本当に必要なのか」の衝撃から
(2)よりよい古典教育へ ──生徒からのバトンパス
第3部 アンケート集計
問1.シンポジウム終了後、現時点で、あなたは「古典を高校で学習する」ことについて肯定派ですか? 否定派ですか?
問2.シンポジウムに参加する前と、後で意見は変化しましたか?
問3.高校で古典を必修科目にするべきだと思いますか?
問4.授業で古典を原文で読む必要はあると思いますか?
問5.高校の授業で古典を学ぶことは、現代日本語の能力向上に役に立つ?
問6.古典の授業で論理的思考を学ぶことは可能である?
問7.文語文に自らアクセスできるリテラシー(文語文を自分で読む能力)は必要である?
問8.古典の内容は原文を読まないと理解できない?
問9.古典に含まれる、差別的な思想や表現は、有害性はあるが、だからこそ高校で学ぶべきだ?
問10.古典を通して昔の人に共感したり、古典のリズムに触れることで、人生が豊かになる?
問11.古典は国際社会を生きていくうえで有害性はあるが、だからこそ高校で学ぶべきだ?
問12.肯定派のあげた「先人の知恵」を学ぶことは、生きる上で役に立つ?
問13.否定派のあげた「実用的なスキル」を学ぶことは、生きる上で役に立つ?
問14.より役に立つのは「先人の知恵」と「実用的なスキル」では、比較できない?
問15.古典のナショナリズムへの利用に気づくには、どのような古典の授業が必要だと思いますか?
問16.今回のシンポジウムは、オンライン上での開催となりましたが、オンライン上での開催について、いかがでしたか?
問17.今回のシンポジウムのプログラム構成について良かった?
問18.今回のシンポジウムに先立って、Twitterアカウントを作成し、発信してきました。シンポジウム「高校に古典は本当に必要なのか」についてのツイートはご覧になりましたか?
今回のシンポジウムについて感想等があれば、自由にお書きください。
第4部 シンポジウムに至るまで
――こてほんプロジェクト一同(長谷川・丹野・内田・田川・中村・神山・小林・牧野)
1. シンポジウムの出発点
2. 企画の骨組みが決定
目的(1)高校生の声を議論の場に届ける
目的(2)「こてほん2019」での問題点を指摘する
目的(3)高校生に古典教育について興味を持ってもらう
3. ゲストパネリストとのやりとり
ゲストパネリストの決定/まとめ作成/リハーサル
4. 高校生に実施した「こてほんアンケート」
5. 申し込み・Twitterでの発信
6. プログラム③――高校生パネリストとゲストパネリストによるディスカッション
7. プログラム④――高校生パネリストによるディベート
一般的な「ディベート」の落とし穴/ディベートを実施した理由/先生方の役割・ディベートの実施形態/論題・前提の決定/肯定派・否定派とは何か/特記事項
8. プログラム⑤――フロアとパネリストによるディスカッション
9. プログラム全体の流れ
10. 積み重ねてきた対話
ともに考える仲間の存在/対等な関係/「まじめ」なことを話せる/考え続ける精神力/主体性とは何か
11. オンライン開催
Zoomミーティングを使用/誰が議論しているかをはっきりさせる/セキュリティー/円滑な進行のための工夫/記録
12. おわりに
第5部 共に社会を作る仲間として後進を育てようとするのなら(仲島ひとみ)
1. まとめにあたって
2. 「こてほん2019」をどうとらえていたか
3. 今回出た論点の整理
高校生アンケートから見えるもの/パネリストの論点―否定派・猿倉信彦氏/否定派・前田賢一氏/肯定派・渡部泰明氏/肯定派・福田安典氏/肯定派・近藤泰弘氏/肯定派・ツベタナ・クリステワ/一致しない点―教育の目的/単位数と優先順位/論理・論理的/ディベートの論点―論題について/各論点/リテラシー/コンテンツ/アイデンティティー
4. 教育学的な観点から
いまある古典の授業はいつから?/教育格差と必修・選択
5. 当事者の声をどうとらえるか
6. まとめと展望
分断を超えて/誰がボールを受け取るか/学習指導要領/教科書編纂/授業の工夫/①暗記よりも活用/②精読だけでなく多読も/③創造的な表現の場を/④本物を見る機会を/大学入試
あとがき
「必要」とは何か(長谷川 凜)/誰が為の教育か(丹野 健)/高校生役の高校生(内田 花)/こてほん2020に寄せて(田川美桜)/試験という絶対的存在(中村海人)/古典物語(神山結衣)/Identeifying 古典(小林未來)/私の身勝手な「意義」(牧野かれん)/未来へのささやかな一歩(仲島ひとみ)
【付録】資料集
1. こてほんプロジェクト企画書
2. こてほん 校外アンケート 依頼文書
3. 協力してくださった先生方の主張