紹介
どのような人物が、どのような演奏を行っていたのか。
上方と江戸の体系的な歌舞伎音楽史を把握し、日本音楽史、近世文化史を考え直すために。
江戸歌舞伎のみ注目され歌舞伎音楽研究が進められてきた結果、上方を含めた近世歌舞伎音楽や演奏家の通史的な研究、あるいは上方に特化した歌舞伎音楽史や舞踊史は現在まで行われてこなかった。
そこで本書は、江戸時代の上方歌舞伎を支えた囃子方(唄、三味線、鳴物の演奏者)の芝居小屋出勤とその上演演目について各種の演劇書(興行関係史料)から把握し、囃子方の関わった音楽や舞踊の実態を史料に基づき明らかにする。対象は十八世紀(江戸中期)、天和期から天明期まで(一六八一〜一七八八)である。
漠然と捉えられていた時代の上方歌舞伎の音楽を明らかにしただけでなく、上方歌舞伎の囃子方とその音楽に焦点を当てることで、中世から近世へという芸能の過渡期的な様相や、上方・江戸の文化交流・発信の諸相など、時代のダイナミズムを具体的に見定めることが可能になることをも示した画期的労作。
資料「江戸中期上方歌舞伎囃子方一覧(天和〜寛政)」「江戸後期上方歌舞伎囃子方一覧(顔見世番付、役者評判記)(享和〜慶応)」付き。
【本書で扱うのは、そうした上方の歌舞伎が活気づいていた頃の囃子方や音楽の様子である。たとえば、元禄期を代表する上方役者、初代坂田藤十郎(一六四七〜一七〇九)や初代芳沢あやめ(一六七三〜一七二九)のバックで演奏していた人たちはどのような人物で、どのような演奏活動を行っていたのだろうか。また少し時代が下った十八世紀後半には、どのような変化がもたらされるのか。もはや史料からしか浮かび上がってこない、忘却された数多の囃子方の軌跡をたどることが本書の目的である。】
目次
はじめに
本書凡例
序論
一 研究の背景と問題の所在
二 本研究の目的と対象
三 史料について
四 本論の構成
第一部 囃子方の変遷
第一章 寛延以前の囃子方
第一節 囃子方概観
はじめに
一 肩書き
二 座組の規模と構成
三 座組の変遷─タテの動向─
四 姓と芸系
五 主要囃子方の業績
六 主要囃子方出座期間一覧
おわりに
第二節 囃子方をとりまく環境とその性格
はじめに
一 屋号を持つ囃子方
二 囃子方と役者─脇狂言を例に─
三 その他
おわりに
第三節 囃子方の東西交流とその影響
はじめに
一 往来囃子方一覧
二 東西往来の囃子方の事例
三 囃子方の東西交流がもたらしたもの─江戸における坂田兵四郎─
おわりに
第二章 宝暦以降の囃子方
第一節 囃子方概観
はじめに
一 肩書き
二 座組の規模と構成
三 座組の変遷─タテの動向─
四 姓と芸系
五 主要囃子方の業績
六 主要囃子方出座期間一覧
おわりに
第二節 囃子方をとりまく環境とその性格
はじめに
一 屋号を持つ囃子方
二 囃子方と頭取・振付
三 その他
おわりに
第三節 囃子方の東西交流とその影響
はじめに
一 往来囃子方一覧
二 東西往来の囃子方の事例
三 囃子方の東西交流がもたらしたもの
おわりに
第二部 音楽の変遷
第一章 芝居に関わる音楽演出
第一節 『落葉集』と絵入狂言本にみる芝居歌─元禄期上方歌舞伎の調子選択─
はじめに
一 『落葉集』各巻の内容
二 絵入狂言本との照合
おわりに
第二節 上方歌舞伎の囃子名目とその用法─『歌舞伎台帳集成』および劇書を手がかりに─
はじめに
一 台帳にみる囃子名目一覧(未定稿)
二 囃子名目の初出と変遷
三 音楽演出に関わる覚書
おわりに
第二章 舞踊・所作事の展開
第一節 上方の脇狂言
はじめに
一 番付上の記載例
二 上演機会と内容
三 担い手
四 音楽的特徴
五 宝暦以降の変化
おわりに
第二節 都風流大踊の所演状況
はじめに
一 都風流大踊一覧と呼称
二 内容
三 担い手
四 音楽的特徴と舞台の実際
五 宝暦以降の変化
おわりに─都風流大踊の位置づけ─
第三節 大切所作事考─詞章にみる江戸との関わり─
はじめに
一 安永八年三月大坂角の芝居「鐘恨重振袖」(正本)
二 天明五年正月大坂中の芝居「七変化七艸拍子」(台帳)
三 天明五年四月大坂中の芝居「恋闇卯月の楓葉」(絵尽し)
四 天明七年九月大坂大西芝居「梅紅葉浪花丹前」(正本)
おわりに
【翻刻一】安永八年三月大坂角の芝居「鐘恨重振袖」(正本)
【翻刻二】天明五年正月大坂中の芝居「七変化七艸拍子」(台帳)(部分)
【翻刻三】天明五年四月大坂中の芝居「恋闇卯月の楓葉」(絵尽し)
【翻刻四】天明七年九月大坂大西芝居「梅紅葉浪花丹前」(正本)
結論
資料篇
資料凡例
資料一 江戸中期上方歌舞伎囃子方一覧(天和〜寛政)
資料二 江戸後期上方歌舞伎囃子方一覧(顔見世番付、役者評判記)(享和〜慶応)
付論 東西歌舞伎における小歌と長唄呼称の推移─顔見世番付にみる地域差─
初出一覧
あとがき
索引(書名・人名)