目次
はじめに
巻頭座談会
「多拠点で働く」ことのすすめ
西田司・永田賢一郎・勝亦優祐・丸山裕貴・大沢雄城
横浜=立科町
「不在」を想像しデザインで人や場所をつなぐ
永田賢一郎/YONG architecture studio
郡上八幡=練馬・杉並
惚れたまちで伝統的なまち並みを残す
藤沢百合/スタジオ伝伝
富士=日本橋馬喰町
建築と伴走しながらエリアと設計事務所を成長させる
勝亦優祐+丸山裕貴/勝亦丸山建築計画
横浜=五島列島
客観的視点をもつことで島でこそ可能な建築のつくり方を探る
石飛 亮/WANKARASHIN
京都=世界各国
世界中の都市を転々としながら育む〝ここではないどこかへの想像力〟
杉田真理子/for Cities、ホホホ座浄土寺座
高円寺=新庄=佐賀
三拠点の暮らしの延長にまちをつくる
加藤優一/銭湯ぐらし、最上のくらし舎、オープン・エー+公共R不動産
新潟=横浜
キャリアを活かしネイバーフッドに貢献する
大沢雄城/オンデザインパートナーズ
東京都区部=水戸
「生涯を通して取り組むべき課題」を見つけるために
中山佳子
函南町=日本全国/世界各国
旅する建築家を目指して
梅中美緒/Unknown Meets Ethnography
あとがき
図版クレジット
略歴
前書きなど
はじめに
本書に登場する九組の建築・まちづくりの実践者は、たまたま同時代に多拠点で働く価値を見出し、自分なりの手法やプロセスを用いて、地域を移動しながら働くことを最大限に楽しんでいる。コロナ禍を経て在宅勤務やオンライン会議が一般的になったことで、住む場所を新たに選択したり、出社日を減らして自宅や気に入った場所で働く日数が増えている人も多いようだ。ただ本書で紹介する九組は、ほかのどの職種の人たちより、クリエイティブに、よりアクティブに、多拠点で働く意味や価値を引き上げ、建築・まちづくりの職種のポテンシャルを使い倒しているといえるのではないだろうか。
そもそも建築・まちづくり分野は、地域との関わりが強く、その土地にあるものや、その土地だから生み出せるものを形にしたり、その土地だからこそ活かせる環境や運用方法や仕組みを、リサーチしつつトライアンドエラーで実践していくことが多い。それにもかかわらず、実践を考えている若い建築・まちづくりのプレイヤーは、大学や企業が多い都市部に数多く存在し、地域にいくほど圧倒的に減少する。そのバランスの悪さは以前からいわれていたが、移住はハードルが高く、地域のプレイヤーを増やす方法論が待ち望まれていた。その方法こそ、地域に完全移住をするわけではなく、多拠点で働くことではないだろうか。コロナ禍によってオンラインでのコミュニケーションが一般的になったいまだからこそ、地域と都市の両方に関わることができる。仕事も辞めずに、副業的に、とりあえず思い立ったら、地域にある建築・まちづくりの実践フィールドに身を投げ出してみる。本書は、そんな地域に入っていく人が増えていく未来を見越してまとめられた。
ここに登場する実践者には自らつくり上げたメソッドを赤裸々に公開しながら、メリット・デメリットを整理し、多拠点で働く際に頭を悩ませる課題やリスク(会社に勤務しながらイレギュラーな働き方をすること、家の見つけ方、移動の費用をどう節約するかなど)をどうクリアしたのかできるだけ網羅してもらえるよう努めた。これら実践をまとめて一覧すると、読んだ人の頭のなかに、自分と近い部分や、真似したい感覚など、ピンとくる感覚がどこかで芽生え、自分好みの拠点で働くイメージが紡がれることだろう。
本書がそのような新しい働き方や地域活動の一歩を踏み出す一助になることができれば嬉しい。
西田司・永田賢一郎・勝亦優祐・丸山裕貴・大沢雄城