目次
Ⅰ 問題を理解する
第1章 自制心とは何なのか
第2章 日常的な問題としてのセルフコントロール
第3章 セルフコントロールの重要性
Ⅱ さまざまな角度から考える
第4章 神経科学の視点から―大脳辺縁系 vs. 前頭前皮質
第5章 行動経済学の視点から―即時報酬 vs. 遅延報酬
第6章 社会的認知研究の視点から―ホットシステム vs. クールシステム
Ⅲ 自制のプロセスを読み解く
第7章 目標に向かう心の仕組み
第8章 大切な目標があることを思い出す―葛藤を促す準備
第9章 「いけない!」と自覚する―葛藤の検知
第10章 気持ちの整理や切り替えをする―葛藤の解消
第11章 意志の力でこらえる―行動の抑制
第12章 誘惑されないようにする―誘惑の予防
Ⅳ まとめと応用可能性
第13章 よりよいセルフコントロールに向けて
前書きなど
「自制心の足りないあなたへ」という本書のタイトルを見たときに、「もしかして、自分のこと?」とドッキリされただろうか。そのドッキリした気持ちによって本書を手にとってみたくなり、今このページに目を通してくださっているのなら、著者としては大変に嬉しい。そのような方々のために、この本を書いているからだ。
しかし、あまり心配しないでほしい。自制心の不足を感じているのは、あなただけではない。あなたの周りにも、この言葉があてはまる人がきっといることだろう。そして世の中全般にも、自分の自制心の足りなさに悩み、それをどうにかしたいと思っている人たちは、たくさん存在していることと思う。
著者である私自身も、恥ずかしながら、例外ではない。本書のタイトルは、自分自身に宛てたものであると言ってもいい。自分の日常を振り返ってみると、もっと自制できればよかったのにと後悔するような出来事をいろいろと思い出す。必要のない服やら化粧品やらを衝動買いしてしまう。おいしいものをつい食べ過ぎたり、うっかりお酒を飲みすぎたりする。皿洗いや洗濯が面倒になり、まぁ明日でもいいかと先延ばししてしまう。締め切り直前になってあわてて仕事に取り掛かる。そんな自分のことは棚に上げ、娘に向かって「ほら! 早くしなさい」とイライラをぶつけてしまう。そのあと、何であんなことを言ってしまったのかしらと、必要以上にくよくよと悩み続けてしまう。「ダメだなぁ、私……」とそのたびに反省し、こんなことは二度とするまいと心に誓うのに、また同じようなことを繰り返してしまう。ここで挙げたもの以外にも、私が自制心不足を痛感した出来事は山ほどある。それらを書き連ねていったら、とてつもなく長いリストになってしまうことだろう。
こうした自制心に関わる問題は、心理学においてセルフコントロール(self-control)という研究トピックとして扱われている。本書では、このセルフコントロールに関する科学的研究をもとにして、私たちの自制心の足りなさに関して、その原因を明らかにしたいと思っている。それに加えて、自制心不足の解消法についても、考えていきたい。
ただし、世の中にたくさん出回っているハウツー本や自己啓発書とは、一線を画したい。たとえば、「私はこれで○○できました!」「これさえあれば○○がピタッとやめられる!」「あなたもできる○○力の高め方!」「天才児の親は○○をしていた!」などといった謳い文句のついた本とは、ずいぶん違う内容であることを、先にお断りしておきたいと思う。
私は、セルフコントロールの成功者として、アドバイスを押し売りするつもりはない。あるいは、科学を振りかざして、こうしなさい、ああしなさいとお説教をしたいわけでもない。どちらかというと、私自身も1人の人間として、自制心の足りなさに悩まされる側の立場から、セルフコントロールの問題と向き合い、その原因をきちんと見つめたいと考えている。こういった姿勢を保ちながら、私がこれまでの研究活動から得てきた知識を、できるかぎりわかりやすく読者のみなさんにお伝えしていきたいと思う。
私自身も、自制心不足の問題に日々気づかされ、それらについて何とか解決したいと願ってきたことは、冒頭にも述べたとおりである。また、子育て中の母親として、どうすれば子どもの自制心の成長をサポートしてあげることができるのかと頭を悩ませることもある。そんな私生活の中で、この本でのちほど紹介するような、セルフコントロールを促進するためのテクニックの数々を、自分自身や、自分の娘にも適用してみた。もちろん、こうした日常生活における取り組みは、科学的な実験手続きとは言えないので、その結果を一般化して論じることはできない。しかし、こういった私自身の経験を、1つの事例、あるいはみなさんにとって身近に感じられる逸話として、本書の中に織り交ぜながら説明を進めていければと思う。
本書を読んでくださる方々に、セルフコントロールに関わる心の仕組みについて考えたり、自分自身の自制心のあり方について見直したりするきっかけを提供できればと願っている。