紹介
本書は朝鮮の近代思想に関する論文を集成し、合わせて比較軸を示す意味から日本の近代思想や対外認識・国家認識に関する論文も収録した、著者による思想史研究の集大成である。朝鮮では丸山眞男が日本思想史に見出したような形では、政治と道徳は容易に分離せず、儒教の伝統的な民本主義が近代思想の受皿となった。しかしそうであるがゆえに、かえってそれは現実を批判する契機を内包させていた。民本主義は士を政治の主体とするため、一面権威主義を付随したが、しかし小国主義や民国思想を生み出し、やがて植民地期には無政府主義や社会主義などと結びつき、解放の思想となっていく。日本の近代思想と同じ文脈では捉えられない朝鮮独自の近代思想史を描き出す試み。
目次
まえがき
第1部 近代朝鮮の小国主義
一 朝鮮における大国主義と小国主義の相克
二 朝鮮近代のナショナリズムと東アジア
三 朝鮮における日本帝国主義批判の論理の形成
四 朝鮮の国民国家構想と民本主義の伝統
五 近代朝鮮の小国思想
六 近代朝鮮の民国思想
第2部 近代朝鮮の思想家
一 朴珪寿における実学から開化への思想的転回
二 金允植における民衆観の相克
三 李沂における道義と国家
四 安重根の思想と行動
五 朴殷植における国家と民衆
六 申采浩における国家主義の形成と転回
第3部 近代日本の対外認識と国家意識
一 近代日本における道義と国家
二 日本/朝鮮におけるアジア主義の葛藤
三 パン・ツングーシズムと東アジア
四 近代日本における朝鮮蔑視観の形成と朝鮮人の対応
五 植民者の朝鮮観
六 宗教と国体の相克