目次
〈序〉語り得るものはすべて語り尽くさねばならない
1章 脳と記憶のしくみ
Q1 脳とはどのようなものか?
Q2 脳で何が起こっているか?
Q3 脳を解く重要ポイントは?
Q4 記憶は何種類あるか?
Q5 【一時記憶】とは何か?
Q6 【エピソード記憶】とは何か?
Q7 【意味記憶】とは何か?
Q8 【運動性記憶】とは何か?
Q9 【プライミング効果】とは何か?
2章 言葉のしくみ
Q10 【ワーキングメモリ】とは何か?
Q11 言葉は脳でどのようにはたらいているか?
Q12 言葉は何で構成されているか?
Q13 思考の最小単位は何か?
Q14 英語のフレーズとはどのようなものか?
Q15 言葉の意味とは何か?
Q16 理解とは何か?
Q17 思考とは何か?
Q18 単語の意味とはどんなものか?
Q19 モノの名前とは何か?
Q20 語の意味はどのように決められているか?
Q21 聞くとは何か?
Q22 言葉の意味はどのように広がるか?
3章 推論のしくみ
Q23 推論するとき脳で何が起こっているか?
Q24 論理的な推論とはどんなものか?
Q25 問題は宇宙のどこにあるか?
Q26 科学とは何か?
Q27 「なぜ」とは何か?
Q28 因果関係とは何か?
4章 感情のしくみ 140
Q29 感情にはどんなものがあるか?
Q30 感情の進化における役割とは?
Q31 感情と脳の関係は?
Q32 【感情記憶】とは何か?
Q33 感情はどのように発達するか?
5章 生存の感情
Q34 【興味】とは何か?
Q35 【楽しさ】とは何か?
Q36 【倦怠感】とは何か?
Q37 【可笑しさ】とは何か?
Q38 ユーモアとは何か?
Q39 ユーモアはどのような構造を持つか?
Q40 進化におけるユーモアの価値は何か?
Q41 【恋】とは何か?
Q42 【嫌悪】とは何か?
Q43 美しさや醜さとは何か?
Q44 【憂鬱】とは何か?
6章 防衛の感情
Q45 【驚き】とは何か?
Q46 【当惑】とは何か?
Q47 【怒り】とは何か?
Q48 【恥】とは何か?
Q49 【軽蔑】とは何か?
Q50 【不平不満】とは何か?
Q51 【憤り】とは何か?
Q52 【恨み】とは何か?
Q53 【悔しさ】とは何か?
Q54 【焦燥感】とは何か?
Q55 【恐怖】とは何か?
Q56 【安心】とは何か?
Q57 【不安】とは何か?
Q58 【畏怖】とは何か?
Q59 勇気とは何か?
7章 人間性の感情
Q60 【愛】とは何か?
Q61 【幸福】とは何か?
Q62 【誇り】とは何か?
Q63 【悲しみ】とは何か?
Q64 【淋しさ】とは何か?
Q65 【嫉妬】とは何か?
Q66 【憎しみ】とは何か?
Q67 【哀れみ】とは何か?
Q68 【罪悪感】とは何か?
Q69 【希望】とは何か?
Q70 【失望】とは何か?
Q71 【羨望】とは何か?
Q72 【自信】とは何か?
Q73 【無力感】とは何か?
Q74 後悔とは何か?
Q75 【喜び】とは何か?
Q76 懐かしさとは何か?
Q77 【感謝】とは何か?
Q78 【照れ】とは何か?
8章 性格のしくみ
Q79 他人を理解するには何が必要か?
Q80 気質とは何か?
Q81 性格とは何か?
9章 心のしくみ
Q82 脳はなぜ生まれたか?
Q83 思考の集中力はどのように生まれたか?
Q84 記憶とは何か?
Q85 脳は交換可能か?
Q86 心とは何か?
Q87 脳と心の関係は?
Q88 植物や動物の心とはどんなものか?
Q89 心には種類があるか?
Q90 人間の回路とコンピュータの違いとは?
Q91 死とは何か?
Q92 心は分割することができるか?
Q93 同一人物であるというのはどういうことか?
Q94 心はどんな形か?
Q95 心はどこにあるか?
Q96 自由と意志の関係とはどんなものか?
Q97 色はどこで感じるのか?
Q98 世界とは何か?
Q99 物質とは何か?
Q100 宇宙とは何か?
※【】で括られた語彙は、7つの記憶システムと、4種38個の感情システム
〈あとがき〉にかえて: 人は何のために生きるのか
参考書籍
前書きなど
〈序〉 語り得るものはすべて語り尽くさねばならない
語り得ぬものについては沈黙しなければならない。
ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタイン
(オーストリアの哲学者〈1889~1951〉)
心の謎にすべて答える
この本は、心理学で扱われるテーマ――愛、勇気、性格、思考、生命、記憶などさまざまな心の謎のすべてに、明快な解答を提示します。それは何なのかという、根源的な問いに答える本です。
この本で列挙された問いのほとんどは、科学的な結論が出ていないものです。それどころか科学的な研究の対象にならず、哲学で議論されているだけのものもあります。そうした最先端の研究テーマを、ダーウィニズム、すなわち生物進化の観点から考察すると、どのような解答が得られるかを提示した本が、この『ダーウィニズム心理学』です。
もちろん、ただ心理学と生物学における研究成果を紹介するだけでは、心の謎のすべてに答えることはできません。
そこで登場するのが、次のダーウィニズムの観点から生まれた3つの理論です。
1 感情のロジック・ツリー理論(系統発達の原理)
2 意識のトポロジカル・ループ理論(4段階の幾何学的構造)
3 言語の意味の身体運動感覚説
1の感情のロジック・ツリー理論は、この本の最も重要な理論です。
ヒトが持つさまざまな感情は混沌とした曖昧なものではなく、それぞれが進化、発達して分岐し、感情全体としては樹形図の構造を持つという考えです。生命の進化、個体の発達のどちらでも同じなのはこれは論理関係だからです。すなわち感情の論理構造を提示する理論です。著者独自の考えであり、この考えを発表して15年になりますが、いまだにあまり知られていないのが残念なところです。
2の意識のトポロジカル・ループ理論は、無生物回路、生物回路、知覚意識回路、思考意識回路という意識のしくみを位相幾何学的な違いで説明する理論です。
古代においてアリストテレスや荀子がこの世に存在する物の4段階の違いを主張したものの、それがどういう原理に基づくのかについての考察はありませんでした。この理論も、この本独自の考えであるといえるでしょう。
3の言語の意味の身体運動感覚説は、1と2の考えの根本にあります。
私は1の感情のロジック・ツリー理論(系統発達の原理)を分析したときに、感情を身体行為という観点から整理できることに気づきました。そして、それがあらゆる語彙でも可能ではないかと考え調べると、すでに多数の研究者から類似の指摘がありました。動物学者ユクスキュルの「意味のトーン」、知覚心理学者ギブソンの「アフォーダンス」、哲学者廣松渉の「用在論」、論理学者フレーゲの「意義」などです。記号論にも類似する考えがあります。
この本の目的について
この本の目的は、前に述べた3つの理論を主張することにあります。そしてその方法として、アブダクションと呼ばれる、仮説推論の方式を用いています。
論理思考には大きく3つの方法があるとされます。演繹推論、帰納推論、仮説推論です。
演繹推論とは、確実な論理を積み重ねて推論する方法です。
AならBである。BならCである。故にAならCである。
(例1)よく勉強すれば成績がよい。成績がよければ大学に受かる。故によく勉強すれば大学に受かる。
帰納推論とは、広く一般の出来事を集めてそこから共通する点を取り出し法則化するものです。CのときAはBだった。DのときAはBだった。EのときもAはBだった。故にAはBであるに違いない。
(例2)数学で彼は成績がよかった。英語でも彼は成績がよかった。物理でも彼は成績がよかった。彼はどの科目も成績がよいに違いない。
仮説推論とは、最初に仮説を置いて説明する方法で、科学的発見の推論法と考えられています。AならばBはCである。AならばDはEである。AならばFはGである。事実BはCだったし、DはEだったし、FはGだった。故にAは正しいに違いない。
(例3)彼が賢ければ数学の成績がよいだろう。彼が賢ければ英語の成績がよいだろう。彼が賢ければ物理の成績がよいだろう。事実、彼は数学、英語、物理の成績がよかった。彼は賢いに違いない。
仮説推論では、説明すべき範囲において、事実に合致することが多ければ多いほど信頼性が増します。
この本で示される右記の3つの仮説は、心全体に関わる理論です。したがってこの本では、その信頼性を主張するために心のすべてを扱います。「語り得るものはすべて語り尽くさねばならない」のです。
ここにはすべての物事の原理がある
この本はぜひ、たくさんの人に読んでもらいたいと思っています。心のしくみを知ることは、万人に役立つことだからです。
もし、あなたが学生で勉強の能率を上げたいと思っているなら、この本を読むことをお勧めします。なぜなら、勉強とは記憶の一種であり、記憶の方法は脳の構造、心のシステムによって決まります。心のシステムに逆らわない勉強方法が最も効率的なのです。
もし、あなたにお子さんがいるなら、この本を読むことをお勧めします。子供の感情を育てるのは、現代社会では両親の役目です。それには、感情とは何かを正しく知らなければ、その成長をチェックできないのです。
もし、あなたに人間関係の悩みがあるなら、この本を読むことをお勧めします。人間の行動を引き起こすものは感情です。あの人はどうしてこんなことをするのか、私は一体どうすればよいのか、これらも感情を知ることによってわかります。この本には、人間の感情がすべて記載されています。そのため、どのような人間の行動であろうとも、その原因を知り、次の予測ができるのです。
もし、あなたが性格の悩みがある、自分をもっと知りたいというのなら、この本を読むことをお勧めします。性格とは感情記憶の組み合わせです。感情を一つ一つチェックすることにより、自分を知ることができます。
もし、あなたが学問的に何か研究している方なら、この本を読むことをお勧めします。特に心や人間について研究する人にとって、この本は避けて通ることのできないものになると断言します。心の学問の周辺分野においても重要です。心の学問についての本はその学問から離れると無関係になりますが、この本は学問についての本ではなく心そのものについての本であるため、無視することはできないのです。
この本はまさしく、万人が読むべきものということができます。心がすべての人間に関わるものである以上、当然のことといえるでしょう。
本の構成
図1は、感情が分岐、成長する手順を示した図です。縦に線が長いものほど古い感情で、上から下に時間が進んでいます。
図2は、脳の各部分のつながり方を示した図です。脳とは配線のかたまりで、この図ではだいたい時計回りに信号が流れています。
1章~3章は、記憶、言語、論理の種類としくみについて述べます。記憶のしくみを知ることで、記憶の効率化についてのヒントが得られます。また、言語のしくみを知ることは、外国語の学習にも役立つでしょう。論理のしくみを知ることは、物事を正しく理解し、真実を見抜く技術を得ることにつながります。
4章~8章は、感情のしくみとその進化発達、性格などについて述べます。人間の行動について理解することができます。
9章は、意識、心、生や死など根源的な問題について述べます。哲学的問題に解答するにとどまらず、最もスケールの大きな思索が繰り広げられます。
学問の種類で分類すると、Q1からQ10は神経科学、認知科学、Q11からQ28は分析哲学、認知言語学、科学哲学、論理学、Q29からQ78は進化心理学、発達心理学、社会心理学、Q79とQ80は性格心理学、Q81は性格心理学、臨床心理学、精神医学、Q82からQ84は生物学、進化論、神経科学、Q85からQ98は神経心理学、認知哲学、Q99とQ100は物理学、認知哲学で研究されているテーマです。
この本は、ダーウィニズムを基礎とした論理的な推論を展開し、それぞれの研究に対して数多くの新しい考えを提唱しています。しかし、科学的研究に不可欠である証明実験はなく不完全なものです。今後、研究者による科学的な検証が行われることを期待しています。
この本では、主張をわかりやすくするためにQ&Aの形式にしてあります。個々のページで言いたいことは、Q&Aの内容そのものです。本全体で言いたいことや、この本はなぜ書かれたのかなども、誤解が生じないようにここで述べておきました。
大事なことなので二度言いますと、1「感情のロジック・ツリー理論」、2「意識のトポロジカル・ループ理論」、3「言語の意味の身体運動感覚説」、この3つを提唱するのがこの本を執筆した目的です。
またこの本では、心に関する基本的な部分についてのみ答えることとしました。個人が集まった社会の問題、たとえば、芸術、差別、神、いじめ、犯罪、国家、戦争、経済なども心に関する重大な問題ではありますが、この本の内容から解いていくことができる派生的な問題なので、割愛しています。