目次
●もくじ
はじめに
先生、相談です。将来のために今から
1発達障害があっても、普通に働く大人になれるでしょうか
2発達障害があると、大きくなるにつれてどんな問題が生じるのでしょうか
3発達障害があると、仕事をしていくのにどのような問題点があるのでしょう
4将来の自立のために、子育てで心がけるべきことは何でしょう
5ディスレクシアの可能性があるといわれました…
6まわりから孤立しがちです。社交性を育てることはできますか
7日本の学校では、どんなキャリア教育がなされていますか
8発達障害の子の自立に向けての取り組み例はありますか
9小さいうちに身につけさせたいのはどんなことでしょう
10職業生活に向け、ASDの子どもに特に身につけさせたいライフスキルは?
11発達支援のサービスを受けたほうがいいのでしょうか
12知的障害があって特別支援学校在籍。将来、仕事をもつのは難しいでしょうか
コラム
働くうえで必要なスキル
ASD(自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害)の「発見」と現在
ソーシャルスキル・トレーニング
法定雇用率と特例子会社
先生、相談です。進学時、在学中
13なんとか高校には行かせたいのですが、受け入れてくれるところがあるでしょうか
14ほとんどオタクで不登校。本人は高校には行かないと言っていますが…
15成績がいいので、高校、大学と進ませたいと考えています
16障害に配慮したサポートが大学で受けられますか
17アルバイトは経験しておいたほうがいいのでしょうか
18就職に備え運転免許をとらせておきたいのですが、不器用なので迷います
コラム
ASD児にもわかりやすい指導法① ソーシャルストーリーズTM
合理的配慮
ASD児にもわかりやすい指導法② コミック会話
発達障害の子に対する合理的配慮とは
先生、相談です。就労に向けて
19就職に必要な技術習得はどこでできるのでしょうか
20特に発達障害者を対象とした就労支援制度がありますか
21支援機関相互に情報を共有してもらえないのでしょうか
22障害者枠で就職すべきかどうか迷います
23障害者手帳は取得したほうがいいのでしょうか
24ひきこもりが続いていますが、いつまでも親が養うわけにいきません
25自営や起業、研究者への道が合っている気がします
26以前からもっているイメージにこだわり、志望を変えられずにいます
27どんな仕事が向いているか、わかりません
28就職活動の細部にわたってサポートが必要!?
29どうしても苦手なことがある場合、就職先にどう伝えたらいいのでしょう
30障害者手帳を取得して障害者枠でなら、必ず就職できますか
31支援機関の担当者の無理解に苦しんでいます
コラム
親亡きあとの生活を可能にするライフスキル
LDの定義と知的障害
熱心な無理解者
先生、相談です。職業生活のサポート
32専門的技能をもっていますが、仕事や職場に慣れるまでが心配です
33毎日遅刻せずに出勤するのが難しいようです
34ペース配分が苦手で、倒れるまで働いてしまいます
35契約と異なる、不得意な仕事をさせられています
36感覚過敏があって、職場環境に苦しんでいます
37雑談ができずに休み時間がストレスになるなど、職場で苦労しています
38パニックやイライラで仕事が長続きしません
39体調を崩してやむなく退職。受診で障害がわかったのですが…
コラム
ジョブコーチという支援者
サポートノートは本人の「取扱説明書」
個別性が求められる感覚過敏への対応
おわりに
参考図書
前書きなど
●まえがき
はじめに ― 働く将来を見越した子育てを ―
人は大人になると、多くの人が何らかの仕事に就くことになるでしょう。「日本標準職業分類」によると、わが国には約330種の職業分類があり(総務省、2009統計基準設定)、会社の数は大企業が1万1千社、中小企業が380万9千社の計382万社が存在します(中小企業庁、2016)。もちろん誰もが会社員になるわけではなく、公務員などになる場合もありますが、いずれにしても、仕事に対する興味関心や能力を考えて自分に合った仕事を選択するようになります。
しかしながら、コミュニケーションや対人関係が苦手であったり、注意力が欠如していたり、文字や数字などの理解が弱い、いわゆる発達障害の人たちは、就職に困難を示し、なかなか希望どおりの就職ができない現状です。また、たとえ就職しても、さまざまな理由で離職してしまうことが多いのです。その理由としては、その人がもっている能力と実際の仕事とのミスマッチ、職場においての合理的配慮の不備、発達障害が理解されていないための職場内での人間関係などが考えられます。
学校教育では、アカデミックスキルといわれる国語や算数(数学)などの教科教育が中心となっており、とりあえず勉強ができればいいという風潮になっています。しかしながら、大人になると、身だしなみ、交通機関の利用や車の運転、適切なお金の使い方、健康管理、トラブルに巻き込まれないための法的問題への対処、対人関係やコミュニケーションなど、さまざまな社会でかかわっていく能力が必要とされます。
職業リハビリテーションでは、仕事そのものの能力のことをハードスキル、仕事そのものではないものの適切な服装をして遅刻せずに職場に行く力、職場で必要なマナーなどのことをソフトスキルとよびますが、このソフトスキルの問題が発達障害の人たちの離職の大きな要因となっていることが報告されています。そして、このソフトスキルは小さいときから身につけておく必要がある、また身につけることができるライフスキルの上に成り立っています。
ライフスキルとは、地域で幸せに生きていくための術であり、発達障害の人たちの多くは、このライフスキルにとまどいを示し、それが原因で就職や職場定着に困難を示してしまうのです。
実際、大人になって就職したとしても、多くの発達障害者は保護者と生活している人が大多数で、保護者が亡くなったのちに自立した生活ができずに離職してしまう人たちが多いのです。それは、ハードスキルとされる仕事はできても、朝起きてから夜眠るまでの日常生活を保護者がサポートしていることが多く、親亡きあとはこのような日常生活ができないために、それが仕事にも影響を及ぼしてしまうからなのです。
発達障害者が得意としている能力と十分にマッチする職業選択のためには、小さいときからさまざまな体験をすることや、大人になってからの日常生活を考えて家庭や学校でライフスキルを身につけていくことが必要です。それが将来の社会参加、職業的自立につながります。そしてまた、能力と仕事のミスマッチを防ぐためには、小さいときから自分の特性を知ること、得意なものを見つけ伸ばすとともに、苦手な部分については支援を受けることに慣れておくといったことも必要になります。
本書では、将来成人して自分に合った職業に就き、離職せずに定着していくためにどのような家庭での子育て、学校での教育が必要かを、Q&A方式で答える形でまとめました。また、発達障害のある人に向けて、就労と職業生活を支援するしくみがどのように調えられているのか、上手な利用の仕方も含め紹介していますので、将来展望をもつのに役立てることができるものと思います。
2017年1月
梅永雄二