紹介
パワートレインはガソリンエンジンなどの内燃機関や電気モータのような原動機と発進装置、トランスミッションやディファレンシャル歯車のような動力伝達機構から構成される。このパワートレインの使命は要求された駆動力を滞りなく安全に供給することである。パワートレイン制御は快適性や効率を犠牲にすることなくこの使命を実現しなければならない。
原動機においては安全で、連続的安定的にパワーを発生させるための制御が第一であり、次に運転者に要求されたパワーを出すための出力制御である。発進装置と動力伝達機構においては原動機と車両の間のパワーマッチング(特に速度の違いを損失最小条件で合わせる)が必要である。
著者は自動車会社で原動機と動力伝達機構の研究開発に27 年間携わってきた。続いて大学で内燃機関や動力伝達について教えている。その経験から、パワートレインの制御の一部を手がけるにしても、原動機で数十kW のパワーが発生しそれがタイヤに伝達されて車両が運動することを理解しておくことが必要と考えている。そのため制御方法だけ でなくエネルギー変換と伝達過程や運転者の挙動についても記述している。さらに定性的な理解だけでなく、制御を考える上で定量的な理解が必要であるため、パワートレインモデルによる解析も取り上げている。また、数値解析だけでなく数式モデルを解くための数式処理システムの扱い方を説明している。
目次
第1章自動車パワートレイン
1-1自動車とパワートレインの運転範囲
1-2必要駆動力
1-3エネルギー変換
1-3-1熱エネルギーから機械仕事への変換
1-3-2電気エネルギーから機械仕事への変換
1-4駆動方式あるいは原動機
1-4-1原動機の変遷
1-4-2内燃機関による駆動
1-4-3内燃機関駆動から電気駆動へ
1-4-4電動車両のエネルギー供給と変換形態
第2章内燃機関
2-1燃料から機械仕事へのエネルギー変換
2-1-1サイクルの仕事
2-1-2トルク、パワーと内燃機関の性能指標
2-2燃料室内の1サイクル間の温度圧力変化と熱効率
2-2-1熱サイクルの定義と数式表現
2-2-2空気サイクルの理論熱効率
2-2-3内燃機関出力の有効圧表現
2-2-4実際のエンジンサイクルと理論サイクルの違い
2-3燃料の計量と供給
2-3-1理論空燃比
2-3-2燃料の計量と微粒化
2-3-2-1機械式の計量-キャブレター
2-3-2-2電子式計量システム-燃料噴射
2-3-3燃料の微粒化
2-3-4燃料噴射方式
2-4着火制御分割制御
2-4-1放電着火と圧縮着火
2-4-2燃料制御および点火制御の実行タイミング
2-5出力トルク制御
2-5-1応答遅れ:空気輸送過程のモデル
2-5-2燃料エネルギーから機械的仕事への変換
2-5-3エンジン出力トルクモデル
2-5-4ターボ過給過程の伝達関数モデル
2-6排ガス処理のための制御技術
2-6-1空燃比制御
2-6-2触媒の暖気促進制御
第3章電動機
3-1電流とトルク発生
3-2電流供給の相切り替え
3-3モータ速度と誘導起電力
3-3-1誘導起電力の発生
3-3-2界磁弱め制御
3-4電気回路方程式と運動方程式
3-4-1電気系
3-4-2機械系
3-4-3電動機のトルクと速度制御
3-4-4制御系の設計と評価
3-5電流制御
3-5-1電流制御のためのPWM制御
3-5-2トルクリップル
3-5-3インバータと電源電圧の昇圧
第4章動力伝達機構
4-1発進装置
4-1-1発進クラッチ
4-1-2トルクコンバータ
4-1-3発進時の加速挙動と効率
4-1-4効率向上とロックアップクラッチのスリップ率制御
4-2変速機
4-2-1有段変速機
4-2-1-1手動変速機
4-2-1-2AMT
4-2-1-3DCT
4-2-1-4AT
4-2-1-5変速制御
4-2-2無段(自動)変速機
4-2-2-1金属ベルト方式CVT
4-2-2-2トロイダルCVT
4-2-2-3変速制御
4-3油圧制御
4-3-1ソレノイドの動作原理
4-3-2ソレノイドバルブによる流量制御圧力制御
4-3-3弁開度のPWM制御
4-4動力分配装置
4-4-1車輪間の速度とパワーの分配
4-4-2遊星歯車機構による駆動力分配
4-4-3車輪間の動力分配
第5章燃費排ガス法規制とエネルギ管理
5-1世界の排ガス試験サイクルと規制
5-2燃費と排ガス計測方法
5-2-1燃料をエネルギ源とする(内燃機関とHEV)車両
5-2-2電気エネルギ(外部より供給)車両(PHEV及びBEV)
5-3OBD
5-4エネルギ管理
5-4-1原動機の効率
5-4-2エネルギ蓄積による発生と消費の分散
5-4-3原動機出力の最適管理
5-4-3-1最適管理の背景
5-4-3-2計算機シミュレーションによる最適発電制御の探索
5-4-3-3経験的な制御方法
第6章運転制御と快適性
6-1自動化のための駆動力制御
6-1-1駆動力制御技術の歴史
6-1-2自動運転に必要な駆動力制御システム
6-1-3原動機のトルク制御
6-1-3-1内燃機関のトルク制御
6-1-3-2電動機のトルク制御
6-1-4パワートレインの駆動力制御
6-1-4-1電動機とエンジンの駆動力分配
6-1-4-2動力伝達系との協調制御
6-2運転者を含めた制御システムとしての見方
6-2-1運転における人間の能力と制約
6-2-1-1運転者モデルと運転操作の安定性
6-2-1-2運転操作におけるフィードバック安定性
6-2-1-3フィードフォワード:安定な運転操作
6-2-2運転学習アルゴリズム
6-2-2-1操作量系列の発見
6-2-2-2技能につながる効率的な操作の学習
6-2-3運転のしやすさとHMIの視点
6-2-3-1なじみやすさ(認知系と操作系)
6-2-3-2身体の特性による制約
6-2-3-3運転のしやすさのための制御設計
6-3振動騒音
6-3-1発生源としての原動機
6-3-1-1内燃機関
6-3-1-2電動機
6-3-2加減速ショック(駆動軸のねじり振動)
6-3-3動力伝達系の騒音
6-3-3-1ギヤワイン音(GearWhine)
6-3-3-2ギヤの歯打音(ギヤラトル、GearRattle)
第7章パワートレインモデルによる解析と評価
7-1モデル規模と時間
7-2物理式を基にしたモデル
7-3モデルの事例
7-4モデル作成と解析のソフトウェア用ツール
第8章Appendix
8-1微分方程式とその解法
8-2ラプラス変換と周波数応答
8-2-1ラプラス変換と伝達関数
8-2-2周波数応答(BodeDiagram)
8-2-3システムの結合
8-3数値計算と数式処理
8-3-1パワートレイン制御のためのMaxima入門
8-3-2Scilab/Xcos入門
8-4燃焼室内の温度圧力変化(空気サイクル)の計算
8-4-1空気の物理定数
8-4-2ガスの状態変化
8-4-3高膨張比サイクルを含む空気サイクルの熱効率の計算
8-5燃料、空燃比と発熱量
8-5-1燃料の特性指標
8-5-2燃焼反応と空燃比
8-5-3発熱量の計算
8-6スロットルから燃焼室への空気輸送