目次
沖縄の十年とそこで得た作物のこと、それにこの先 自省 今なら間に合うヤンバル探検隊 編集は楽しい 与那国島は世界の中心 沖縄人のための越境のすすめ 変わるとしたら沖縄から 敗軍の将に会う 談話 のびのび野球と「悲願」 おろかな魔物は直進する 沖縄料理原論、の序説みたいなもの 地元の食材 泡盛にあって他にないもの 村の暮らし 四軍調整官による講演の計画に抗議する 島影を追う おきなわことわざ豆絵本 『南島文学発生論』谷川健一 『八重山生活誌』宮城文 沖縄移住後の「読書日記」抄 『よみがえれ黄金の島』小山重郎 『シマサバはいて』宮里千里 『西表島自然誌』安間繁樹 「水滴」目取真俊 『基地の島から平和のバラを』島袋善祐:述 宮里千里:録/補記 「恋を売る家」大城立裕 『てるりん自伝』照屋林助 『〈日本人〉の境界』小熊英二 映画『豚の報い』〈原作・又吉栄喜 監督・崔洋一〉 『ドキュメント沖縄返還交渉』三木健 『鰹節』宮下章 『ゆらてぃくゆりてぃく』崎山多美 『沖縄おじぃおばぁの極楽音楽人生』中江裕司 『街道をゆく沖縄・先島への道』司馬遼太郎 『与那国島サトウキビ刈り援農隊』藤野雅之 『新南島風土記』新川明 『沖縄だれにも書かれたくなかった戦後史』佐野眞一
『海の沸点/沖縄ミルクプラントの最后/ピカドン・キジムナー』坂手洋二 『琉日戦争一六〇九』上里隆史 「沖縄は、『鉱山のカナリア』なんですよ」一九九五年 異文化に向かう姿勢 「ぼくは帰りそびれた観光客だから」二〇〇四年 斎場御嶽 沖縄への短い帰還 土屋實幸さんとモダニズム 太平洋に属する自分 オトーシの効き目 マヅルおじいの買い物 一人寝
前書きなど
序 沖縄の十年とそこで得た作物のこと、それにこの先
池 澤 夏 樹
ボーダーインクがぼくの本を出してくれることになった。
この沖縄の出版社とは長いつきあいだ。まずは読者としてここが刊行したたくさんの名著を読んで沖縄を深く知ったし、ぼく自身の『沖縄式風力発言』という本を出してもらったこともある。編集者・新城和博とは親しい友人、正に水魚の交わり……と言ってからさてどっちが魚でどっちが水かと考えた。たぶんきみが水だ。
今回の本はぼくがこれまでに書いてきたエッセーや書評、インタビューや講演の記録、さらにはショートショートなど、沖縄に関わるものを新城くんが博捜して一冊にまとめてくれたもの。単行本になったのを除いてもこんなにあったかと自分でも感心している。
これを機に、ぼくと沖縄の行き来を短い文にまとめてみた。これをもって序の代わりにしよう。
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ぼくは一九九四年の四月から二〇〇四年の八月まで沖縄で暮らした。そのほぼ半分のところで、具体的には一九九八年の十一月に、那覇から知念村(今の南城市知念)に移ったが、ともかく十年と少しの間、沖縄県の住民だった。
もともと腰の軽いたちで、生まれてから今まで一つの家に六年以上住んだことがない。借家ならばともかく家を建ててさえ長続きしないのだ。
沖縄に行ったのは単純に憧れたからだった。移住の前の年、一九九三年の暮れに振り返ってみたところ、その一年で計九回沖縄を訪れていたことに気付いた。歌や芝居などの文化、海や密林などの自然、料理、耳にする言葉、どれもおもしろくてすっかり夢中になった。年に九回も通うのだったら居を移して用事がある時だけ上京すればいい。飛行機代はかかるがたぶん家賃など物価の差額で補えるはず。
友人たちが手引きしてくれるのが心強かった。―略―