前書きなど
2010年11月に八重山毎日新聞紙に第1回の「データでムヌカンゲー」のコラムを掲載させていただいてから1年あまりが経ちます。この本はそのコラムに加筆・修正して新たにまとめたものです。
「ムヌカンゲー」とは、沖縄の方言で「ものごと(ムヌ)」と「考え(カンゲー)」を合わせた言葉です。一言で共通語にするのは難しいですが、意訳すれば、「いろんなものを見て、聞いて、感じて、次に活かすための思考」のことです。
八重山病院をはじめ六つの沖縄県の県立病院は2009年から経営改革を行っています。 スペースの都合上、具体的な経営改革の内容は書けませんが、各県立病院の経常収支の黒字化を目標に改革を行っている最中です。2009〜2011年度の3 年間の県立病院の経営改革の状況次第で、場合によっては県立病院の「独立行政法人化」も止むを得ない、という沖縄県の方針の中で改革を継続しています。改革の成果でなんとか2012年度からの「独立行政法人化」は回避できましたが、県立病院の経営はその中で働いている医療従事者だけでは良くならない、というのが私の考えです。つまり、県民の皆さんの協力も必要だということです。
それでは「県民としてどんな協力ができるのか?」という疑問につながるかと思いますが、その答えは「こうすればいい」と一言で表せるほど単純なものではありません。県民ひとり一人が「どんなことができるか」を考えて、それを実践してもらうしかありません。そして「どんなことができるか」を考えるためには、その前に県立病院を知らなくてはいけません。その上で「県立病院を守らなければいけないのか」「県立病院を今後も存続させる意味があるのか」を考えてほしいのです。
マスコミの記事には県立病院の話題が紹介されますが、県民の皆さんはあまりその中身を理解されていないのではないのでしょうか。八重山でもそんな感じがします。私は八重山病院で働く麻酔科医師ですが、八重山病院の中身を少しでも八重山の住民の皆さんに知っていただこうとこのコラムを書き始めたのです。
コラムの内容は八重山病院のデータが中心ですが、中には沖縄県全体の、あるいは日本全体のデータもあります。また八重山病院のデータを通して沖縄県の県立病院全体、あるいは日本の病院全体の状況を知ることができるものと私は考えています。
2007年4月に、兵庫県丹波市に「子どもを守ろう、お医者さんを守ろう」をスローガンに活動しているグループが発足しました。その名は「県立柏原病院の小児科を守る会」。 このグループは兵庫県立柏原病院の小児科の存続の危機を救った地域のお母さんたちのグループで、結局小児科だけでなく柏原病院そのものを存続させてしまいました。その地域のお母さんたちにとって柏原病院はなくてはならない病院だったからです。
私は八重山地域の医療を良くしたいと思って八重山病院で働いています。それが八重山の住民のためにもなると思うからです。そして八重山病院が八重山地域の住民になくてはならない病院であってほしいからです。
しかし、私一人では病院を良くすることはできません。私にできることは、八重山病院がその機能を果たせなくなったらどんな状況になるのかを予測し住民の皆さんに伝えることです。この本はその「伝える」という作業をしているつもりです。「八重山病院が頑張っていること」、「八重山病院はこんなに大変なんだということ」を伝えているつもりです。そしてそれは八重山病院だけではなく、沖縄県のそのほかの病院、日本全国の病院にもあてはまることだと思います。
この本を読んで、「県立病院は守る必要があるのか」、あるならば「誰が守るのか」「どうやって守るのか」などの答えを県民の皆さんがムヌカンゲーする材料に少しでもなっていただければ幸いです。
なお、本書中の文章表現、特に意見や感想の部分はあくまで私個人の私見であり、八重山病院とは無関係であることをこの場でお断りさせていただきます。