前書きなど
はじめに
「全国学力テスト」(全国学力・学習状況調査)が二〇〇七年、約六十年ぶりに実施された。対象は全国すべての小学六年生と中学三年生で、教科は国語と算数・数学である。沖縄ではこの約二十年間学力向上対策に取り組んできたこともあり、関係者はその結果に期待を寄せた。
しかし、期待は見事に裏切られた。順位が都道府県の最下位というだけならまだしも、正答率はすべての教科において全国平均を大幅に下回っていた。他の都道府県は順位でこそ一喜一憂しなければならなかったが、正答率では大きな開きがあったわけではない。
例えて言うなら、他の都道府県はドングリの背比べである。しかし、沖縄県については種類の異なった小さなドングリがポツンと一つ混じっているという感じであった。
もちろん二〇〇九年の第三回の結果ではうれしいことに小学校の国語B問題が四十六位、算数が四十一位と最下位を脱している。しかし、中学校数学を中心に状況は大きく変わってはいない。
それから、沖縄の教育界も大きく動き始めた。学力向上対策の取り組みもギアチェンジがかかったのである。
二〇〇七年の十一月に私は「沖縄県検証改善委員会」委員に委嘱された。文部科学省の「学力調査の結果に基づく検証改善サイクルの確立に向けた実践研究」の委託研究として、全国の都道府県・政令指定都市ごとに「検証改善委員会」が設置されたが、私はその委員となったのである。
委員会の目的は「全国学力テスト」の結果を活用・分析し、教育委員会や学校における効果的な取り組みや課題を明らかにし、改善につなげることである。そのために「学校改善支援プラン」を作成し、沖縄県でのいっそうの学力向上対策を推進することが役割とされた。
沖縄県の児童・生徒の危機的な結果を受け、検証改善委員会の設置は当然のごとく受け入れられ、会合には緊迫感が漂っていた。
学力問題は教育方法学を専攻する立場から関心を持ち続けてきたテーマであったことと、大学という教員養成機関で二十年近く教員養成に携わってきたことの責任感から、私は委員の委嘱を身の引き締まる思いで受け止めた。
検証改善委員会は「授業改善」に焦点があてられており、ゴールもそこに定められていた。私が委員に推挙されたのも教育方法学専攻のためであると自覚し、主としてその立場から発言してきた。
しかし一方で、私は小学生の娘を持つ親でもある。日頃考えている家庭教育や地域での子育て、父親から見た学校のあり方についてもかなり立ち入って発言した。
委員会は沖縄県の教育事業五カ年計画である『夢・にぬふぁ星プランⅡ』の補完版として「『確かな学力向上』支援プラン」を作成するなどの任務を遂行し、二〇〇八年三月をもって解散した。
その後、委員会での発言などがきっかけとなり、市や町の教育委員会主催による教育シンポジウムや教育講演会で学力向上対策について講演を依頼されることが増えた。その度に沖縄の児童・生徒の学力を向上させるにはどうするべきか、真剣に取り組まざるをえない状況に直面した。
本書は、検証改善委員会に提出したペーパーを下敷きにしながら、これらの講演で話した内容を加えて構成したものである。
本書には奇抜なアイディアや、世間をうがったともとれる見解もあるが、検証改善委員会の場においては出席者はとても寛容で、特別な反論もなく、むしろ多くは賛同していただいたという空気があった。
本県においては、そのような奇抜な見解も検討の俎上に乗せなければならないほど、学力問題が深刻に受け止められていると言ってもよいだろう。
本書は沖縄県で学力向上対策に乗りだす上での必携書である。本書一冊で学力向上策のすべてがわかることであろう。関心のあるどのページから読み始めてもよい構成になっている。
本書が学力向上のための指針として、教師、保護者、教育行政と一般行政の関係者、県民の皆様、そして教員をめざす学生の皆様に役立てていただければ幸いである。