紹介
人口減少、超高齢社会、働き手不足――
小磯修二と10人の対談者が語るそれぞれの「地方論」
誰もが経験のない未来に立ち向かう地方の10のミカタ
国土の5分の1を占める広大な“地域”北海道の在り方を通し、持続可能な地域づくりへのアプローチを探る。
地域政策をはじめ、地域の経済、雇用、文化、観光、食など、それぞれに専門性を有する識者と、地域を支える事業者の声を収録。多彩な対談者との対話には、自ら将来像を描く地域として進むヒントがちりばめられている。
※本書は公益財団法人北海道市町村振興協会の設立45周年に向け、2022~23年度に行われた対談をもとに構成したものです。なお、対談日以降に変化があった内容については一部加筆修正しています。
目次
はじめに
空間経済学と地域政策
・対談者 京都大学名誉教授 藤田昌久
チャレンジとレスポンス/長寿を生かす社会づくり/東日本大震災の経験/
大震災から考える中央と地方/パンデミックの教訓/グローバルな立ち位置/
地方の多様性を生かす
地方からの国づくり
・対談者 衆議院議員 橘慶一郎
貴重な北海道開発政策の経験/高岡市長の経験から/
北海道開発政策を進化させた復興庁/地方創生を振り返って/夢を描く議論を
地方政府のあり方
・対談者 北海道大学公共政策大学院教授 山崎幹根
地方政府のあり方を考える研究会/分県論と道州制/支庁制度改革の反省/
市町村合併の評価/スコットランドから学ぶべきこと/広域行政の展開に向けて/
地方創生の教訓
社会保障と雇用
・対談者 中央大学法学部教授 宮本太郎
福祉における二重の縦割り構造/多様な働き方/地域主体の雇用政策/
生活困窮者自立支援法と「新しい生活困難層」/ベーシックアセットの提言
文化政策と地域の活性化
・対談者 東京大学大学院人文社会系研究科教授 小林真理
戦後の文化行政と地域づくり/近年の文化政策と地方行政の変化/
文化資源を活かしたまちづくり/これからの文化政策と北海道
地域経済政策としての観光
・対談者 國學院大學観光まちづくり学部教授 塩谷英生
観光産業を探る/インバウンドと国内市場のバランス/地域の横連携と経済効果/
教育旅行の効果/観光を担う政策マンの育成/これからの観光政策に向けて
地域密着による地域経済の自立戦略
・対談者 株式会社セコマ 代表取締役会長 丸谷智保
原点は卸、物流の視点/地域の生活を支えるインフラ/地域資源を深掘りする/
地域産業をつなぐ役割/食戦略の方向/ローカルが輝くために
地域のエネルギー戦略
・対談者 北海道ガス株式会社 代表取締役会長 大槻博
省エネと地域密着/分散型社会の構築/DXの推進/我慢しない、快適な省エネ/
地域に貢献できる企業/森林資源の可能性/地域エネルギー企業の先駆的挑戦
日本の食、農業を支える地方の役割
・対談者 東京大学大学院 農学生命科学研究科長・農学部長・教授 中嶋康博
戦後の農業政策と地域政策/食料安全保障を考える/食資源による輸出産業の創出/
人口減少と高齢化/脱炭素と生物多様性/「地域政策の総合化」と、食と観光
地方からのイノベーション
・対談者 北海道大学公共政策大学院教授 村上裕一
地方の現場から/地域公共交通と鉄道問題を考える/フランスの広域行政と地方分権/
インフラ老朽化問題/地方からの科学技術・イノベーション/
政策人材の育成と大学の役割/ラピダスの立地
新たな潮流に向けて 小磯修二
1 対談を終えて/2 歴史的文脈からの理解と洞察/3 内発的な成長戦略/
4 市場メカニズムの活用/5 雇用環境の変化に向き合う/
6 共生社会へのアプローチ/7 地域政策を支える科学的探究
前書きなど
はじめに
二一世紀に入って四半世紀が経過しようとしていますが、近年の国内外の地域政策を取り巻く環境の変化には驚かされます。少子化の一層の加速、労働力不足の深刻化、デジタル化と生成AI等の普及による新たな社会システムの変革、そしてグローバルな政治、経済環境の不安定化など、予想を超える変化が急速に進行し、先行きの不透明感も増しています。これらの課題や不安は、地域社会にも幅広く影響を及ぼしてきています。私たちが直面している多くの現実の課題について、これまでの経験則や政策、ルールで解決することは期待できなくなっています。地域社会が安定的に未来を築いていくためには、地域自らが各分野での深い洞察力を持ち、研鑽を重ねて未知の領域に挑戦することが一層強く求められているように感じます。
本書は、そうした時代の流れに向き合いながら、さまざまな分野の専門家たちとの対談を通じて、地域政策に関する洞察と解決に向けた手掛かりを探求することを目指したものです。地域ごとに異なる歴史、文化、課題を抱えるなかで、その多様性を生かした地域主体の政策提起と推進の重要性がますます高まってきています。専門家の知見、経験のなかから、地域が目指すべき、持続可能性、地域経済の活性化、地域のアイデンティティ形成など、多角的な視点から、考察のヒントを得ようとするアプローチでもありました。
対談した専門家の方々は、それぞれの分野で卓越した成果を上げておられ、その知識と経験は、地域社会が直面する課題への対応を考える上で貴重な資源でもあります。本書を通じて、地域が自らの課題を解決し、新たな未来を切り拓くためのヒントを提供することができれば幸いです。また、この対談が読者の皆様にとって、地域社会の発展に向けた新たなアイデアや方策を生み出す契機となることを願っています。それぞれの地域にふさわしい政策や戦略を見つけ出す道のりは、決して容易なものではありませんが、この本がその一助となることを願っています。
(後略)
編著者 小磯修二