目次
001はじめに
004「学力危機 北海道」を推薦する 北海道教育大学学長 本間謙二
【第1部 札幌の格差】
016第1回 学校間二極化の現実
020第2回 授業力不足 自覚薄く
022第3回 校長奮闘 土曜の教室
024第4回 教員同士 授業を見学
026第5回 「競いたい」 塾で満たす
028第6回 生活面まで指導 重荷に
030第7回 地域で支える学習会
032第8回 担任「苦手な理科」も指導
034第9回 体力作りで「粘り」養う
036第10回 近郊自治体 一歩先へ
038読者の反響 「子育てしていて不安」
【私の提言】
041進歩阻む「平等偏重」 FM北海道常務取締役 中田美知子さん
043切磋琢磨する環境を 鶴雅グループ社長 大西雅之さん
045指導力向上 学校全体で 兵庫教育大学教授 日渡 円さん
047教員の熱意を全面支援 私立北嶺中学高校校長 粥川昭弘さん
049公教育に数値目標を 北海道文教大学准教授 鈴木重男さん
051紙上対談 高橋教一道教育長×北原敬文札幌市教育長
【第2部 札幌の〝常識〟】
058第1回 違い知る 教員交流
062第2回 人気の校区へ 転居選ぶ
064第3回 進学実績「3K2F」健在
066第4回 公立不安 私立中に追い風
068第5回 人材活用 近隣が先行
070第6回 敏腕教諭が私学転身
072第7回 わかる授業 意欲生む
074第8回 「北大が頂点」 内向き志向
076第9回 学びたい教員 負担重く
078第10回 「地域守るため」動く市町
080第11回 教師も学ぶ「北欧流」
082読者の反響 「自主性任せ」に不安の声
086政令市調査 札幌「独自テスト」消極的
【私の提言】
093学力、全員調査で把握 元北海道教育長 吉田洋一さん
096図書館で「わかる」実感 八洲(や しま)学園大学教授 高鷲忠美さん
098子どもに「成功体験」を 「釧路の教育を考える会」副会長 三木克敏さん
【第3部 教師のチカラ】
102第1回 初任者に辛口指導
106第2回 広域異動 若手磨く
108第3回 組合内 学び場減少
110第4回 教委指導に組合側「多忙」
112第5回 「授業バトル」で意欲向上
114第6回 「達人の背中」追い続ける
116第7回 有志で「塾」 自ら高める
118第8回 指導力 伸ばせぬ現場
120第9回 IT活用 独自に模索
122第10回 教える自覚 学生時代に
124第11回 個別指導 ネットも力に
126第12回 「みんな一緒」からの卒業
【私の提言】
128「学ぶ教師」管理職が範を 植草学園大学教授 野口芳宏さん
131周囲の期待 教師は意識を フリーアナウンサー 鶴羽佳子さん
134開かれた学校ほど質高く 国立教育政策研究所総括研究官 千々布敏弥さん
136シンポジウム 北海道の『学力危機』を考える
【第4部 低迷の深層】
146第1回 学校力 鍛える試み
150第2回 中3授業 100時間超す差
152第3回 北教組と札幌市 重なる姿勢
154第4回 校長 指導力発揮に本気
156第5回 授業研究 問われる成果
158第6回 ゆとり求め「中高一貫」
160第7回 無難に終始? 進路指導
162第8回 道教大改革 学生と距離
164第9回 全児童底上げ 成果着々
166第10回 組合政治活動 負の遺産
168PTAアンケート 「学校間に格差」9割
172釧路教育フォーラム 釧路の学力危機 討論
【私の提言】
178PTA 学校の支え役に 札幌市立札幌開成高校PTA会長 朝岡敏春さん
181教えること 積極的に 東京大学教授 市川伸一さん
【私の体験】
183ゆとり教育過ぎて不安 中国札幌総領事館領事 蒋 春さん
【第5部 基本に返る】
188第1回 深刻な語彙力不足
191第2回 放課後 貴重な学習時間
193第3回 ノート書き取り 知識定着
196第4回 「見習い制」新教員育てる
198第5回 事務職員の力 フル活用
200第6回 理科の授業で五感育む
202第7回 数値目標 軽視しない
204第8回 諦めない心を育む
206第9回 「凡事徹底」成績底上げ
208第10回 教員の甘さ 低迷招く
【私の提言】
210独自教材作りに力を 大阪府教育委員長 立命館大学教授 陰山英男さん
2122012年度全国学力テスト結果 学力の格差 縮小傾向
【明日への提言】
220学力向上 北海道一丸で
222第1回 農業 体より頭使う
225第2回 数値公表 忌避する教委
227第3回 基礎力の保障 行政模索
229第4回 学校あげて教育向上を
231第5回 札幌市の向上策 不足
234あとがき
前書きなど
本書は、読売新聞東京本社北海道支社が2011年8月から13年3月まで、50回以上にわたって連載した企画「学力危機」をまとめたものだ。国が実施する全国学力・学習状況調査(全国学力テスト=学テ)で不振が続く北海道の現実を受け、その理由を分析して学力向上の「処方箋」を示すことを目指した。
北海道は学テの都道府県別平均正答率で、07年から10年まで4年続けて、ほとんどの教科で40位台だった。たまりかねた道は11年6月になってようやく、「14年度の全国調査までに学力を全国平均以上にする」という目標を打ち出した。
しかし、肝心の教育関係者は、危機感が乏しいように見えた。「学力危機」というタイトルで連載を始めたのは、こうした北海道の状況に警鐘を鳴らしたい思いからだ。
連載初回は、関係者の危機感の欠如を端的に示す、こんな言葉から書き出した。
「勉強だけの子どもを育てたくありません」
札幌市郊外のある小学校で、学力向上のために授業改革を提案した校長に、教員が反論した言葉だ。
「学力向上」がなぜ、「勉強だけの子ども」という負のイメージにすり替わるのか。この意識の根底にはいったい何があるのか──。
各校の校長や教諭、教育委員会の関係者らに幅広く、徹底して取材を重ね、現場の声を集めた。連載では、タブーを設けず、北海道の抱える問題点を率直に指摘するよう心がけた。
「市教委は競争排除」、「授業力不足 自覚薄く」、「組合政治活動 負の遺産」。連載の見出しを振り返ると、刺激的な言葉が並んでいる。
それまで道内ではほとんど報じられなかった問題を取り上げ、道の教育の実態が明らかになるにつれ、支社には大きな反響が寄せられた。教育関係者の信頼も得られるようになり、「教育の読売」という評価をいただくことができた。
学テは、07年に発足した第1次安倍内閣が、教育再生の柱の一つとして08年に復活させた。復活後初の実施を1週間後に控えた同年4月17日の衆院本会議では、野党議員が「競争の教育を一層激しいものにし、全国の学校と子供たちを序列化する」と学テの中止を求めたが、安倍晋三首相は「義務教育については、全国どの地域においても一定水準の教育を受けることができるようにし、その成果もしっかり把握、検証する仕組みが必要だ」と反論し、学テの意義を訴えた。
その安倍氏は昨年、首相に返り咲き、今年1月の所信表明演説でこう語った。
「国の未来を担う子どもたちの中で陰湿ないじめが相次ぎ、この国の歴史や伝統への誇りを失い、世界に伍していくべき学力の低下が危惧される、教育の危機。このまま、手をこまねいているわけにはいかない」
学力危機は今や、全国に広がりつつある。それが最も早くから、最も鮮明に現れていたのが北海道だ。
学力そのものは生きるための道具に過ぎないが、あれば助かる「便利グッズ」などではない。なくてはならない「サバイバルツール」なのだ。その「ツール」を、すべての子どもたちが義務教育を終えるまでに与えてやれなければ、教育に携わる者として怠慢のそしりを免れないだろう。
北海道支社では、道が学テの全国平均達成の目標時期に掲げた14年度が近づく中、学力危機の取材を続け、新シリーズの連載を始めている。その第一歩となる本書を、この機会にお読みいただければ幸いである。