目次
序章 私有林問題の歴史・経営認識と分析方法(志賀和人)
1 森林資源の循環利用と研究課題 1
(1)循環利用のパフォーマンス評価と分析視点 5
(2)森林資源の循環利用に関する地域性 7
(3)国産材産業・林業組織と行政施策の相互関係 10
2 私有林研究の歴史・経営認識と実践性 10
(1)古典林学体系における林政論と森林管理論 13
(2)私有林問題の研究史と時空・経営認識 14
(3)私有林研究における実践性の回復 16
3 私有林問題の分析対象と構成 16
(1)私有林の保有構造と分析対象 18
(2)本書の分析対象と構成 18
(3)分析事例の地域・経営対応と時期区分 20
第1章 現代日本林政と私有林問題
第1節 日本林政の展開と私有林問題(山本伸幸) 30
1 戦前期日本林政における私有林問題 30
(1)私有林問題の胎動 30
(2)戦中期の展開 31
2 1951年森林法による私有林問題の顕在化 31
(1)占領期林政 31
(2)1951年森林法 32
3 林業基本法の成立 34
(1)高度経済成長下の展開 34
(2)林業構造改善事業 35
4 森林計画制度の軛 38
(1)森林施業計画制度 38
(2)低成長期への移行 39
5 地域林業施策から森林・林業基本法へ 40
(1)地域林業施策 41
(2)森林・林業基本法以降 45
第2節 林業財政と自治体林政(石崎涼子) 45
1 林野公共事業と公共投資 45
(1)公共事業とは何か 45
(2)林野公共事業と非公共事業 46
(3)公共投資拡大政策 47
2 森林・林業財政の展開 48
(1)国,都道府県,市町村の財政支出 48
(2)林野公共事業の推移 49
(3)非公共事業の推移 51
(4)地方単独事業の推移 53
3 自治体林政と財政 55
(1)地方林政から自治体林政へ 55
(2)市町村森林行政の基盤と森林環境譲与税 57
第3節 木材市場と木材産業の展開(早舩真智・岩永青史) 60
1 日本の素材生産と消費動向 60
(1)国産素材生産量の減少と民有林材比率の増加 60
(2)国産材自給率の低下と輸入製品の増加 61
2 製材品輸入の増加と国内製材工場の大規模化 62
(1)素材輸入の盛衰と製材業の国産材回帰 62
(2)製材工場の減少と大規模化の進展 64
3 合板産業の国産材利用への展開 65
(1)南洋材利用からの転換 65
(2)技術革新による国産材利用の促進 66
4 製紙産業における国産針葉樹チップと輸入広葉樹チップの利用 67
(1)紙・パルプ需要の増加と使用原料・調達地域の多角化 67
(2)輸入チップ調達システムの変容と新たな国産チップ需要 69
5 木材産業の新たな展開 70
(1)木材産業の大規模化による取引関係の再編 70
(2)高次加工製品の利用拡大 71
(3)国産材輸出の展望 71
第4節 森林管理の国際化とSGEC認証規格(志賀和人) 75
1 PEFC森林認証の展開と国際標準化 75
(1)PEFC森林認証の展開と日本 75
(2)PEFC規格改正の目的と検討過程 78
2 2018年PEFC規格改正と日本の対応 79
(1)SGECグループ認証とグループ主体 79
(2)2018年PEFC規格改正の内容 82
3 SGEC規格改正と「緑の循環」 84
(1)国際的枠組みと「緑の循環」 84
(2)SGEC規格の改正方向 85
(3)国際標準の適用と認証規格の改善 87
第2章 山林保有と林業経営体の統計把握(志賀和人)
第1節 林業センサス体系の再編と林業経営体の統計把握 94
1 林業経営体の統計把握 94
(1)山林の所有・保有と調査客体 94
(2)2005年センサス体系の再編と統計表象 96
2 林業センサスの調査客体と変動要因 100
(1)2000年林業センサスまでの40年 100
(2)林業事業体・経営体の定義と外形基準 102
(3)2005年林業センサス体系の再編と問題点 103
第2節 林家による山林保有 106
1 林家の性格変化と保有山林 106
(1)保有山林面積の変動と大山林保有 106
(2)林家の階層変動と自営林業従事者 108
(3)保有山林の所在地と林家の特徴 113
2 保有山林の森林資源と林業生産活動 116
(1)保有山林の森林資源 116
(2)保有山林の施業管理と林産物販売 118
(3)山林作業の委託・請け負わせと管理委託 122
3 人工林管理への林家対応 126
(1)人工林率80%以上の林家 126
(2)林業主業林家 128
(3)委託・請け負わせと家族労働による間伐実施 131
第3節 会社・慣行共有による山林保有 134
1 林家以外の林業事業体による山林保有 134
(1)林業事業体の区分と事業体数の動向 134
(2)保有山林面積と地域分布 135
(3)事業体区分別の保有山林面積規模 138
(4)保有山林作業と林産物販売の実施状況 140
(5)保有山林作業と管理の委託・請け負わせ 144
2 会社による山林保有 146
(1)業種・地域別保有山林の特徴 146
(2)保有山林作業と管理の委託・請け負わせ 152
3 慣行共有による山林保有 153
(1)名義区分・地域別の特徴 153
(2)慣行共有の権利者と権利関係 156
(3)保有山林作業と林産物販売の実施状況 158
第4節 林業センサス体系の再編と帰結 162
1 2005年再編の検討過程と論点 162
(1)検討の枠組みと検討過程 162
(2)農林業センサス等研究会 164
(3)統計審議会・農林水産統計部会 165
2 2005年再編の帰結と経営体把握 167
(1)経営体数の変動と捕捉率 167
(2)経営主の認定基準と経営管理の重層性 169
3 林業経営体の統計把握と森林・林業統計 172
(1)林業経営体概念と統計把握 172
(2)林業統計の役割と検討課題 174
(3)情報基盤としての森林・林業統計の課題 176
第3章 後発地拡大造林の展開と農林家(志賀和人)
第1節 群馬県上野村農林業の変貌と農林家 180
1 周辺地域化と世帯員の動向 180
(1)戦前期の山村地域 180
(2)戦後の農林家労働力流出と周辺地域化 180
2 農林業の構造変化と養蚕・木炭生産の衰退 182
(1)農林業の構造変化と市場環境 182
(2)養蚕の衰退と農家対応 184
(3)木炭生産の衰退と製炭者 185
3 こんにゃくいも作・椎茸生産の普及と停滞 189
(1)こんにゃくいも作の拡大と行き詰まり 189
(2)椎茸生産の普及と頭打ち 190
第2節 調査集落農林家の存在形態と拡大造林 192
1 調査集落林家の存在形態 192
(1)調査集落農林家の区分 192
(2)大規模林家 192
(3)専業農林家 195
(4)農林業主業林家 196
(5)賃労働主業林家 197
2 上野村の森林所有形態と森林資源構成 197
(1)森林の所有形態と資源構成 197
(2)人工造林の展開と農林家の対応 199
3 拡大造林の展開と林家対応 200
(1)調査集落農林家の所有山林 200
(2)大規模林家の造林資金と労働力調達 203
(3)専業農林家の経営対応 204
(4)農林業主業林家の造林動向 205
(5)賃労働主業林家の人工林管理 206
第3節 造林施策と公社・公団造林の展開 208
1 造林施策の展開と補助対象者 208
(1)造林面積の推移と補助制度 208
(2)造林補助制度の改正と補助対象者 209
2 公社・公団造林の対象者と労働組織 210
(1)公社・公団造林の事業対象者 210
(2)上野村森林組合の事業展開と労働組織 213
(3)当時の林業経済研究の論調 214
第4章 戦後造林地の利用間伐と森林組合
第1節 森林整備施策の展開と森林組合事業(志賀和人) 218
1 森林整備施策の展開と利用間伐 218
(1)造林施策の沿革 218
(2)1980~90年代の間伐施策 219
(3)1990年代後半の自治体間伐施策 220
(4)「高性能機械」導入と利用間伐の推進 221
2 森林境界問題と森林管理関連事業 223
(1)森林境界問題の起源と森林資源情報 223
(2)地籍調査と山村境界保全事業 224
(3)森林組合の森林管理関連事業 225
第2節 耳川流域林家による間伐材生産(志賀和人) 227
1 耳川流域の特徴と森林組合 227
(1)耳川流域の特徴 227
(2)森林組合の林産・販売事業量の推移 228
(3)森林組合の作業班と労働条件 229
2 東郷町・諸塚村林家のアンケート調査分析 231
(1)東郷町・諸塚村の就業構造と農林家 231
(2)回答林家の就労形態と育林作業 231
(3)育林作業と間伐の実施状況 232
(4)作業道投資の階層性と間伐材の搬出技術 235
(5)主伐の実施状況と今後の意向 238
3 林家の間伐実施基準と間伐材生産費 239
(1)林産事業による素材生産費 239
(2)林家の間伐実施基準 242
第3節 提案型施業の展開と施業集約化(志賀和人) 244
1 利用間伐の推進と団地手法の展開 244
(1)1990年代の利用間伐と団地化 244
(2)団地化手法の普及過程 245
2 日吉町森林組合による提案型施業の展開 246
(1)「日吉の森復活作戦」と間伐推進組織 246
(2)労働組織と現業職員の労働条件 248
3 提案型施業の普及と地域連携 250
(1)日吉型提案型施業と施業集約化施策 250
(2)提案型施業の普及と展開 251
(3)豊田市と森林組合・団地組織の連携 253
第4節 林産事業の展開と雇用労働者(都築伸行) 257
1 主伐移行期における森林組合 257
2 戦後森林組合の林産事業の動向 257
3 利用間伐を中心とした林産事業の展開した事例 262
(1)高知県香美森林組合 262
(2)鳥取県八頭中央森林組合 264
4 主伐を中心に林産事業の展開する地域 266
(1)外部委託で主伐を行う北海道の森林組合 266
(2)大規模層で主伐率の高い九州の森林組合 267
5 雇用労働者の動向 269
6 主伐への移行と管理体制 271
第5節 共有林・生産森林組合と地元対応(山下詠子) 275
1 入会林野の地盤所有名義の成り立ち 275
2 本節の課題 276
3 生産森林組合の数と近年の解散問題 277
4 森林組合統計にみる生産森林組合の現状 279
5 事例にみる生産森林組合の現状 281
(1)奈半利町郷分生産森林組合 281
(2)川上生産森林組合 282
(3)田中生産森林組合 283
(4)小括 284
6 入会林野と生産森林組合 285
第5章 大規模社有林の経営管理と企業組織
第1節 大規模社有林の沿革と保有企業(志賀和人) 290
1 大規模社有林の動向と特徴 290
(1)会社保有山林の地域・階層分布 290
(2)会社の保有山林作業の実施状況 291
2 大規模社有林の管理組織と動向 294
(1)大規模社有林の管理組織と統計把握 294
(2)製紙・財閥系企業社有林の沿革と管理組織 296
第2節 三井物産社有林の管理と企業組織(齊藤政子・志賀和人) 299
1 三井物産社有林の歴史的展開 299
(1)三井物産社有林の概況 299
(2)産業備林期における木材事業の展開と縮小 301
(3)産業備林期の社有林管理 303
(4)社有林保有意義の後退と模索 306
2 CSR経営の展開と社有林管理 308
(1)全社的CSR経営の推進 308
(2)社有林に関する全社的議論 309
(3)社有林におけるCSR経営の展開 310
3 社有林管理再編の基本戦略 313
(1)グループ企業山林の所有統合 313
(2)社有林の管理と森林施業方針 315
(3)社有林管理組織の再編 320
4 三井物産社有林の経営組織と現業管理 322
(1)社有林管理の業務組織と職員体制 322
(2)社有林管理に関する意思決定と現場管理 324
(3)内部統制体制の拡充 327
第3節 三菱マテリアル社有林の管理と企業組織(志賀和人) 331
1 三菱マテリアル社有林の沿革 331
(1)戦前期三菱グループの山林集積 331
(2)三菱鉱業・三菱金属の社有林管理 331
(3)鉱山備林期の社有林管理規則・規程 333
(4)三菱マテリアル発足以降と社有林管理 335
2 三菱マテリアル社有林の現況と管理組織 336
(1)社有林の分布と管理組織 336
(2)社有林管理体制と業務分担 338
3 社有林経営計画と主要山林の管理方針 339
(1)社有林経営計画の策定と実施過程 339
(2)主要山林の概況と管理方針とSGEC認証の運用 340
(3)社有林活用計画による「持続可能な美しい森林」の追求 344
第6章 戦後造林地の主伐・再造林問題
第1節 人工林資源の成熟化と市場経済・制度対応(志賀和人) 348
1 2010年代の素材生産と地域動向 348
(1)素材生産と人工造林の動向 348
(2)大規模林産事業実施森林組合の動向 350
2 「循環利用」施策と組織間関係 352
(1)都道府県「循環利用」施策の展開 352
(2)東北・九州の主伐・再造林動向と組織間関係 354
(3)大分県の主伐・再造林と組織関係 356
第2節 北海道カラマツ人工林の主伐・再造林問題(志賀和人・志賀薫・早舩真智) 361
1 北海道カラマツ林業研究の視点 361
(1)研究視点と調査対象 361
(2)構成と現地調査 362
2 北海道のカラマツ林業と自治体施策 363
(1)主伐・再造林の地域動向 363
(2)カラマツ人工林の資源構成 365
(3)北海道人工林資源管理方針と再造林施策 367
(4)道・市町村再造林施策と人工林資源保続基金 369
3 オホーツク・十勝における主伐・再造林事業 372
(1)対象地域と森林組合の概況 372
(2)オホーツクの主伐対象地と主伐林齢 374
(3)人工林の齢級構成と再造林の動向 376
(4)十勝大雪森林組合の委託者と再造林事業費 379
(5)主伐材の販売と素材生産・再造林費 381
4 主伐・再造林と人工林資源の循環利用 383
(1)主伐・再造林の拡大と地域多様性 383
(2)循環利用と育林資金ファイナンス 385
第3節 九州スギ素材生産の展開と木材産業(川﨑章惠) 389
1 先行研究と課題 389
2 九州を理解するにあたって 390
3 九州における木材流通構造の変容 393
(1)木材流通構造の概観 393
(2)木材流通構造の特徴的変化 398
4 大分県における森林組合の動向 405
(1)大分県林業の概況 405
(2)2010年代後半における森林組合の動向 407
5 九州の特徴と資源循環 410
終章 森林管理の持続性と組織・制度形成(志賀和人)
1 森林管理制度の官僚支配と市場・地域の相反 415
(1)森林利用・経営・管理の歴史的基層と問題局面 415
(2)国有林官僚組織による民有林統治の構図 418
2 林業組織による制度運用と国際標準化 423
(1)林野官僚組織の政策形成と自治体林務組織 423
(2)森林管理の国際標準化と制度・組織対応 428
(3)循環利用の低下と鎖国林政の克服 431
3 国際標準に依拠した長期持続性の追求と地域実践 433
(1)林政の革新と「経営管理」論の克服 433
(2)地域実践の重視と意思決定過程の革新 437
(3)自治体行政権限と地域管理組織の基盤形成 439
(4)循環経営の構築と経営組織・資金循環 441
文献目録 449
執筆者紹介 451
索引 453
前書きなど
私有林所有者の森林管理機能の低下に対応するため、政府は2018年に森林経営管理法を制定し、同法による森林経営管理制度の導入に併せて、2019年度から市町村・都道府県に森林環境譲与税の交付を開始した。本書は、戦後林政・森林整備施策の展開過程に対応した戦後造林地の造林、保育、間伐、主伐への移行過程における私有林所有者と森林組合等の施業受託組織の経営・施策対応から私有林問題解決に向けた課題と対応を検討した。戦後林政の歴史的総括を踏まえた政策理念と法体系及び行政・経営組織改革の重要性を提起し、長期的視点からの私有林問題の抜本的解決と林政研究の実践性の回復を目指した。
本書を構成する調査研究は、東京教育大学大学院修士課程(1975~77年)から全国森林組合連合会職員(1977~2001年)、2018年までの筑波大学教員(2001~2018年)時代に行った私有林管理に関する現状分析を改めて現時点の問題意識に基づき再構成し、戦後林政転換の方向性を提示したいと考えた。本書の作成過程で私が追い切れていない最近の動向や関連分野の執筆は、研究分野・年齢構成の多様な30代前半から50代前半の9人の共著者にお願いした。快くご協力いただいた皆様に厚くお礼申し上げたい。
本書の第1章から第6章の私の担当した章・節は、調査時点及び初出論文公表段階と現在の私の私有林問題の分析視点に大きなずれが生じているにも関わらず、現時点の問題意識に基づく再調査は十分行い得ないまま、本書をまとめた部分も多い。大学院生・団体職員時代も含めその時々の時代的・職場的制約と筑波大学における「暗黒の50代」の研究的惰眠を反映し、行政・市場経済・地域の交錯する汽水域を対象とした研究の未熟を悔いることになった。改めていうまでもなく本研究の成果は、著者自らの見解に基づくものであり所属研究機関や資金配分機関の見解を反映するものではない。特に序章と終章の現状認識や展望は、編者の見解に基づき私以外の分担執筆者の責任に帰するものではない。
本研究は、JSPS科研費18H03422及び19H04344の助成を受け、本書の刊行に当たり令和2年度(2020年度)科学研究費助成事業(研究成果公表促進費)学術図書(20HP5228)の交付を受けた。同科学研究費の執行に関しては、一般財団法人林業経済研究所の手厚い支援を受けた。前回同様、出版に当たり株式会社日本林業調査会の辻潔社長には、大変お世話になった。心からお礼申し上げる。
志賀和人