紹介
著者「はじめに」より
大阪弁に興味を持ったのは、高校生の時だった。それまでは船場の平野町育ちの上品な北船場言葉が、私の言語生活の中心であった。船場から堺に嫁いで来た母の使う言葉であるが、私が子どもの頃通っていた堺市立熊野小学校、同殿馬場中学校の校区も旧堺市内にあり、友人の母たちも母同様のおっとりとしたしゃべり方をする人が多かった。ところが、府立泉陽高校に入学するとカルチャーショックが待っていた。なにしろ泉州地区や河内地区からも生徒が通学してきていた。
「これなにけぇ」とか、「ここに書くんけっ」という河内弁があるかと思えば、「わい、行ってきちゃらしよ」という岸和田弁、「ま一個えれて(もう一個入れて)」という和泉弁、「おませなして」「そうでございまさして」という岸和田の奥あたりにあった言葉づかい。(恐らくこういう言い方は滅びてしまっているであろう。)
とにかく聞いたことのない単語と言葉づかいに、いきなり囲まれてしまったのだ。まだその頃は逐一メモにしなかったが、近畿大学に入学し講談を先代南陵に習いはじめてから、大阪弁を集めておかねばならないという義務感を持ちはじめて収集しはじめた。
本書はその集大成である。牧村史陽さんの『大阪ことば事典』を参考にして、そこにない単語を本書に載せた。ここに紹介(笑解)した大阪弁の収集について、私は本当に恵まれた環境にあった。近大、大阪府大の大学院の農学部で学んでいた頃は、アルバイトで農家の種々の調査をしたおかげで、府下全域をまわることができた。また、古い大阪弁を使う皆川真智子さん(ご主人は名球会入りを果たした皆川睦夫氏)、北の新地の芸妓で踊りの名手西川梅十三姉さん、作家の田辺聖子さん、同じく藤本義一さん、イラストレーターの成瀬國晴さんたちと話をしている内に私の知らない大阪弁を自然と教わることができた。
幸い初版は品切れ、そして次々と現れる聞いたことのない大阪弁、増補改訂版を出すに至りました。嬉しいかぎりです。
今、大阪の芸人の中できちんとした大阪弁をしゃべれるのは、何人もいない。講談師では私だけという自負があるのも、今、名をあげた皆様や一杯のみ屋の女将さんや古い商売人の皆様のおかげと感謝している次第である。
目次
1.事典にない大阪弁
2.大阪弁笑解
あいたらあかん
いかれこれ
えろうなんなら
大入袋とおから
大阪弁と首都
猫と大阪弁
おくやまくわす
おけいはんは、まちがいか
おためがよろしゅう
かたくま
かんてきもん
けぇへんとこうへん
けんざりとじぼたれる
こころ悪る
こんこんさん
シマ
島之内の大阪弁
じゃんけん(1)
じゃんけん(2)
十分と十手
小路の発音
しわんぼの柿の種
すっくり
そんじょそこら
チャチャくる
通天閣の歌
つんけん
テッカリ
ドドンパと、いろいろあった大阪締め
南都雄二さんの芸名の由来
肉まんと豚まん
にぬきとなたね
ヌケソかます
はしもばしもある
ばんばとおがくず
ふたと箱
ほどらい
ホルモンと焼き肉
もうかりまっか考
山手と山手
よろしゅうおあがり
れんこんの天ぷら
ろくどり
3.大阪弁笑解 リターンズ
いらっしゃい
もうかりまっか 再考
大阪弁とら抜き言葉
島之内の言葉と船場の言葉
大阪のまじない
貧乏神と焼きみそ
地蔵流し
大阪のしゃれ言葉
干支と株の格言
ノレンの違い(暖簾の東西)
前垂れのひもの色
だんじりと御座船
人力車
大阪の長屋と家移り
ぼんち考
下駄かくしの歌
今はない竹がえし
夜店と古本屋
借用書の文言
またも負けたか八連隊
千人針
通天閣の名づけ親
花菱アチャコさんの芸名
寛美さんと法善寺の看板
法善寺横丁
戎橋異聞
橋のナゾナゾ
阪急梅田駅の謎
小林一三氏の罪
大阪のおばちゃんと負けてんか
五郎八(ごろはち)
かんかん虫
4.大阪のうまいもん薀蓄帳
おでんと関東煮
おでんと広東だき
くるみ餅
ちょぼ焼考
ほいろ昆布
5.大阪のうまいもん薀蓄帳 リターンズ
大阪寿司と森の石松(再考)
おでんと関東煮
松前すし
ご飯たべ放題
すき焼きと神仏
お茶漬け
つけもん
天王寺蕪と野沢菜は無関係
串カツと二度づけ
ソース談義
紅しょうがの天プラ
モダン焼の由来
ミックスジュースの由来
堺の和菓子
6.大阪の昔(昭和)の風景
7.残っていない(昔の)大阪