目次
口絵 カラー図版十四点収載
序にかえて─あるアイヌ絵の解釈
序編 アイヌ絵という概念
第一章 アイヌ絵の概念
第二章 アイヌ絵の世界
第一編 蝦夷のイメージ
第一章 聖徳太子伝説と蝦夷
第二章 坂上田村麿伝説と蝦夷
第二編 描かれたアイヌの世界
第一章 蛎崎波響と『東武画像』
第二章 秦檍麿とアイヌ
第三章 村上貞助、F・シーボルトとアイヌ風俗
第四章 松浦武四郎とアイヌ—『蝦夷漫画』の世界
第五章 平沢屏山とアイヌ
第六章 富岡鉄斎とアイヌ─近代アイヌ絵の萌芽─
図版編 モノクロ図版三三四点収載
結語
前書きなど
「アイヌ絵」とは、越崎宗一氏によれば「アイヌの生活風俗を表現せる絵画の総称」であるし、桜井氏の定義(アイヌ風俗絵」)のほか、泉靖一氏は「アイヌを描いた絵……」とする。アイヌ絵の定義としては泉氏のが最も妥当な表現であろうと考えている。
アイヌ絵とは、要するにシャモがアイヌを描いた絵なのである。だからアイヌの人びとの民族芸術ではない。アイヌの人びとが画題となっていれば、その画技の巧拙、内容の真偽を問わない。ただし、そこに絵画としての鑑賞性なり、アイヌ文化を探る資料性なりが備わり、あるいはどちらかのウェイトが高ければ申しぶんないとしておくべきか。(中略)
日本の近世における風俗画の発生は庶民勢力が社会的経済的に台頭してきた事実を反映しており、絵そのものも庶民が享受するものであった。が、アイヌ絵にはそうした背景はない。シャモに対するアイヌの勢力が高まり、アイヌ文化の復興を基としてアイヌ絵が描かれたのではない。かえって、アイヌ絵の全盛期はシャモによる抑圧の強化された時期であり、北辺の脅威感が一層拡大した時期なのである。
さらに、重大なことは、アイヌ絵というのはアイヌ自らが描き遺した作品群ではなく、民族芸術としてのARTとして評価される分野のものでもない。このことはアイヌ絵をみるときに忘れるべきではない(本書「序編」より)