紹介
養護教諭は今、岐路に立っています。これから先、どのような道を歩むことになるのでしょうか。今こそ、養護教諭は、「子どもにとっての“最後の砦”である」とか「子どもの“代弁者”である」と言われることの意味を考えていかなければなりません。養護教諭の存在意義は、そこにあるのですから。 (中略)
どんなにすぐれた「実践」を養護教諭が行なったかに見えても、その行為の根底・基盤に「養護」の本質がなければ、養護教諭の実践とは言えないものです。「本当の“養護”とは」と、問い直さなければなりません。その行為の基盤にあるものは何かということが問われるのです。
(中略)
それをしていくためには、その主張を支えることができる根拠(学問)が必要です。どのようなことが「養護」なのか、どのように進めていくことが「養護」なのかを探究することが必要です。それらを体系化したものが「養護学」ということになります。
本書は、その「養護学」の構築を目指していきましょうと呼びかけることをねらいとしています。ですから、本書の書名を『養護教諭のための養護学・序説』ということにしました。序説の次には本格的な「養護学」の内容を盛り込む本ができることを期待しての命名です。
目次
10 序章 養護教諭として歩んできた道・学び続けた道
1)学生の頃の養護教諭観
2)自分の性分にあった職業
3)小倉学先生との出会い
4)研究者魂を教えられ
5)世に伝えることの責任
第1章 養護教諭の専門性とはなんだろう
22 1.養護教諭の専門性をめぐって
~今、養護教諭のアイデンティティが揺れている~
1)なぜ「仕事」を見つめ直すのか
2)スクールカウンセラー、看護師、栄養教諭が学校に
25 2.養護教諭の歩んできた道のり
1)学校看護婦が学校に配置された理由
2)専門性の根拠“養護をつかさどる”
3)法令に見る養護教諭の自律性
32 3.養護教諭の専門性と教育学
1)教育職員であることの法的根拠
2)学校における「教育」とは
3)教育の中の「養護」の位置
44 4.専門性探究のはじまり
1)「IFEL(養護教育)」の開講
2)健康教育に対する養護教諭のあり方
3)養護の専門家としての真価とは
48 5.養護教諭の専門的機能
1)小倉学の「養護教諭」論
2)試案作成に苦渋の跡
3)「養護」が持つ「人間形成の教育機能」
4)「養護」を通して子どもたちを見る
5)ヘルスプロモーションという視点
58 6.子どもたちが今、最も必要としていること
1)専門性を有効に活用する
2)“心に火をつける”養護教諭
3)「養護」された子ども
第2章 「養護」とはなんだろう
66 1.「養護」の意味すること
1)子どもの「思い」を知ること
2)「生きる」「育つ/育てる」ことのエピソードから
78 2.養護実践が子どもにもたらすもの
1)保健室での対応場面
2)対応についての分析
3)養護教諭の関わり方
4)「養護」の作用
第3章 健康教育に関わるということ
96 1.健康教育を担うということ
1)保健管理を担当するだけではない養護教諭
2)「健康教育と養護教諭」を論じていた先達たち
100 2.養護教諭の行なう健康教育
1)目指すこと、実現できること
2)「養護」の方法による健康教育
3)専門性を活かした健康教育の進め方
110 3.保健の授業を担当するということ
1)教育職員免許法改訂(1998年)の特徴と問題点
2)免許法改訂と教員養成審議会答申の意味
3)論争:保健の授業を担当すること
第4章 日本国憲法との関わりから
124 1.今、「養護教諭」が注目されている
1)素直に喜べないこと
2)問題の背後に戦争があった
128 2.学校看護婦の時代
1)学校医に従う立場
2)学校看護婦の願いと国策
132 3.教育職員になった養護訓導
1)認められた自律性
2)戦争のための身体検査
134 4.養護訓導の時代をどう捉えるか
1)希望に応えてしまう怖さ
2)歴史から学ぶこと
138 5.養護教諭の誕生
1)憲法と教育基本法の制定
2)養護の目的とは何か
142 6.現代の養護を考える
1)あの時代と重なる今
2)健康は自己責任か
3)データ管理、情報交換の怖さ
4)現代的な課題の捉え方
149 7.養護教諭の仕事とは
1)子どもたちの代弁者として
2)憲法は養護教諭の羅針盤
第5章 養護教諭の実践と研究から
154 1.養護教諭にとっての研究の意味
1)専門職であるための条件としての「研究」
2)日常の実践の中で研究することの意義
156 2.実践の中で研究すること
1)自分の対応について述べること
2)その対応の根拠を述べること
3)対応の効果・成果を述べること
4)これは「養護」か? と問うこと
162 3.研究の手法と目標
1)いろいろな「研究」の手法
2)大学とは異なる実践の場での研究
3)養護実習の時の研究
4)学校現場における研究の手法と目標
166 4.「質的研究」の具体例
1)KJ法
2)分類法(カテゴリー法)
3)具体例「養護教諭が悩み苦しんだ時に支えとなったこと」
第6章 養護教諭と教員評価制度とは
174 1.専門性が問われる評価制度
175 2.教職員間に見られる「評価制度」の波紋
1)養護教諭と担任のズレと溝
2)協働関係を壊しかねない「評価制度」
177 3.職務を「評価」するとは
1)評価の目的と方法
2)養護活動の過程における評価
3)「養護」を評価することの難しさ
186 4.養護教諭を評価する時
1)学習の評価項目を参考に
2)ある哲学者の教師観から
3)マザーテレサが行なったことの意味から
第7章 養護教諭の養成で問われていること
190 1.養護教諭養成制度の変遷について
1)現行の養護教諭養成制度
2)これまでの養護教諭養成教育
3)養護教諭養成の現状と課題
196 2.養護教諭教育に関する研究
1)これまでの養護教諭教育の研究
2)養護教諭養成大学協議会の設立
199 3.養成教育の中身
1)独自性・専門性の確立
2)養護の専門性から養成教育内容を考える
209 4.養成教育におけるモデル・コア・カリキュラム
1)他の関連職種の研究の動向と養護教諭の場合
2)モデル・コア・カリキュラムを考えていく場合の条件
3)養護の実践の理論化作業
4)教大協・全国養護部門のモデル・コア・カリキュラムの内容
220 5.養成教育の展望
1)養護をつかさどる教育職員としての独自性・専門性の明確化
2)養護の専門性に立脚した養成教育内容の構造化とは
3)カリキュラム全体の連関を目指して
4)関連法令の整備に向けて
230 あとがき
232 参考文献