imachangeさんの書評 2015/09/07 4いいね!
名古屋市美術館で今(2015年7月18日~9月23日)、「画家たちと戦争:彼らはいかにして生きぬいたのか」展が開催されている。その物販のところにも本書は置かれていた。他に置かれている本を見てみても、藤田嗣治に関する本が多い。近く彼を描いた映画も公開される。密かなフジタ・イヤーが到来している。
藤田の傑作、戦争画でも最高のものと評価されているのが「アッツ島玉砕」だ。本書はそのアッツ島玉砕にまつわる幾多のエピソードを通して、今日の画家、描いた画家、描かせた軍部、それを見た人、戦後に断罪する人、弁護する人、評価する人、玉砕した人、その遺族、天皇、植物学者etc...関わっていた人々のそれぞれの「戦争」を浮かび上がらせる。
イシグロの小説のように、戦後、価値観は転換する。忠君愛国は「昨日の敵は今日の朋」という日本人的処世術を前に一億総ざんげ、否定されるものとなった。フジタの戦後もそれに翻弄される。ついに彼は日本を棄て、二度と戻ることはなかった。そのことを読むとき、私たちはまた今日のことを考える。戦後70年、藤田の絵は全く美術的価値を失わないかのように見えるが、それが時勢の中でどのように受け止められるのか、受け止め方はどのようにも変わりゆくものだということを教えられる。読んでいて、昨今のフジタ・リヴァイバルに、注目していきたくなった。
この書評がいいと思ったら、押そう! »
いいね!