紹介
カルタとしても楽しまれ、いまや皆に親しまれている『百人一首』。
いつ頃に作られ、どのようにして広がったのでしょうか。
そもそもそれらは簡単に答える事ができるものなのでしょうか。
実は『百人一首』の成立や伝来は、確定できる記録が残っておらず、依然として謎に包まれています。
断片的な資料の検討の継続によって様々な解釈が出され、理解の更新が重ねられ今に至っているのです。
本書はそんな『百人一首』の謎を解き明かし、魅力を深く自在に解きほぐせるよう、全部で5つの視点(成立・力・ビジュアル・翻訳・研究の手引)からリサーチしていきます。
第Ⅰ部「どのように成立したのか」では、謎めいた成立事情を探り、第Ⅱ部「百人一首が持つ〈ちから〉」は、さまざまな百人一首の受容に関して探ります。第Ⅲ部「ビジュアル・カルチャー」は、絵入り絵本、浮世絵、漫画などに展開されてきたのかた百人一首について紹介。第Ⅳ部「どのように翻訳してきたか」では、東西ヨーロッパにおける「百人一首翻訳史」をたどります。第Ⅴ部「百人一首研究の手引」は研究史をたどり、現在にのこる主要本文を比較検討できるように、掲載しています。ここでは最新の研究についても学ぶことが出来ます。
執筆は編者の海野圭介、神作研一、ジョシュア・モストウ、ミシェル・ヴィエイヤール゠バロンのほか、今西祐一郎、Orsolya Karolyi、木村孝太、小山順子、舘野文昭、Daniel Struve、寺田澄江、徳原茂実、村尾誠一、山下則子、吉海直人。
これから『百人一首』をどう読んでいくのか。必携のリサーチブックです。
目次
はじめに─『百人一首』リサーチ─(海野圭介・神作研一)
1 謎に包まれた『百人一首』/2 いつ頃に作られ、どのようにして広がったのか?/3 本書の構成
凡例
総論
1 小さな百人一首の大きな力─百人一首国際化の視点─ 付、恋歌として「かささぎの」歌を読む(吉海直人)
はじめに/1 百人一首の成立と享受史/2 小さな百人一首の大きな力/3 かるたとの融合/4 国際化に向けて/5 百人一首の翻訳について/6 百人一首の問題点/まとめ
付●問題提起/1 「かささぎ」の初出は?/2 七夕と霜の取り合わせ/まとめ
Ⅰ どのように成立したのか
2 『百人一首』の未来─非定家撰説の是非を問う─(吉海直人)
はじめに/1 『百人一首』非定家撰の是非/2 『百人秀歌』の発見/3 二条流歌道における権威付け/4 田渕の発言集成/5 その後の微妙な軌道修正?/おわりに(本論執筆の意図)
3 和歌史・短歌史の中の『百人一首』(村尾誠一)
はじめに/1 正岡子規/2 浮世風呂/3 百人一首宗祇抄/4 和歌史の一五世紀と『百人一首』/おわりに
4 百人一首はいつ、何のために作られたか(徳原茂実)
はじめに/1 『百人一首』成立の下限について/2 文暦二年五月二七日のエピソード/3 『百人一首』の制作意図についての一仮説/4 詞書の長い歌について/5 実績が乏しい歌人たちについて/6 和歌の教訓性について/7 『秀歌大体』とのかかわり/8 『百人一首』から『百人秀歌』へ
5 和歌史の中の秀歌撰─百人一首と時代不同歌合─(寺田澄江)
はじめに/1 撰歌基準としての勅撰集/2 公任の評価/3 撰歌の在り方/4 今を生きる歌、未来を生きる歌
Ⅱ 百人一首が持つ〈ちから〉
6 「このたびは幣もとりあへず」は誰の歌だったのか─『百人一首』菅原道真歌私見─(今西祐一郎)
1 道真の歌/2 従来の解釈/3 和歌の代作/4 詠歌の場/5 道真の歌にして道真の歌にあらず
7 『百人一首』の講釈と伝受(海野圭介)
はじめに/1 〝小さな伝授〟としての『百人一首』講釈/2 三部抄というまとまり/3 『百人一首』講釈から連歌・聯句へ/4 『百人一首』講釈と和歌を学ぶこと、詠むこと/5 三部抄切紙/おわりに
8 浮世草子における『百人一首』─『好色一代男』の中の『百人一首』─(ダニエル・ストリューブ(翻訳 寺田澄江))
はじめに/1 八例の検討/結論
Ⅲ ビジュアル・カルチャー
9 江戸の百人一首─絵入り本と〈和歌絵本〉と─(神作研一)
はじめに/1 絵入り本と〈和歌絵本〉と─歌仙絵の継承と革新─/おわりに
10 江戸時代後期の絵入り注入り『百人一首』版本とジェンダー(ジョシュア・モストウ(翻訳 今井和彦))
はじめに/1 天智天皇歌の注釈/2 持統天皇歌の注釈/3 大伴家持歌の注釈
11 国文研蔵浮世絵『小倉擬百人一首』を読み解く(山下則子)
はじめに/1 天智天皇「秋の田の〜」の見立て/2 持統天皇「春すぎて〜」の見立て/3 山辺赤人「田子の浦に〜」の見立て/4 猿丸太夫「奥山に〜」の見立て/5 藤原興風「誰をかも〜」の見立て/6 見立ての考案者・社会背景・意義
12 百人一首と漫画─学習漫画、『超訳百人一首 うた恋い。』、『ちはやふる』─(小山順子)
はじめに/1 『百人一首』関連の学習漫画/2 杉田圭『超訳百人一首 うた恋い。』/3 末次由紀『ちはやふる』/4 名探偵コナン『から紅の恋歌』/結び
Ⅳ どのように翻訳してきたか
13 『百人一首』のハンガリー語訳(カーロイ・オルショヤ)
はじめに/1 なぜハンガリー人は日本に興味をもったか/2 初期ハンガリー語訳の特徴/3 『百人一首』ハンガリー語訳史/まとめとこれからの課題
14 『百人一首』の仏語訳の歴史(ミシェル・ヴィエイヤール゠バロン)
はじめに/1 フランスにおける『百人一首』翻訳者たち/2 フランス語訳を読む/結び
Ⅴ 百人一首研究の手引
15 『百人一首』研究史(成立論)(舘野文昭)
1 成立論に関わる主要な資料/2 有吉論以降/総括
16 『百人一首』の本文について─本文整理に対する問題意識─(木村孝太)
はじめに/1 『百人一首』『百人秀歌』の違い/2 『秀歌型一首』の存在/おわりに【『新編国歌大観』所収『百人一首』の本文を見出しに上げたうえで、冷泉家時雨亭文庫蔵『百人秀歌』、国文学研究資料館蔵紹巴筆『百人一首』(紹巴筆本)、宮内庁書陵部蔵堯孝筆『百人一首』(堯孝筆本)、国文学研究資料館蔵梁盛筆『百人一首』(堯恵奥書本)、を列記したものを掲載】
おわりに
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