紹介
私たちの身体の感受性を基点に、ひらかれたコミュニケーションを通じて、
明るく柔らかい空間をつくり続けて来た建築家・長谷川逸子。
菊竹清訓事務所、東工大篠原一男研究室を経て独立、
抽象的にまで切り詰めた空間構成による初期の住宅作品をはじめ、
戦後はじめての大型公共建築コンペを、建築そのものを地面に埋めるという前衛的な案で制し、
こうした施設を日本ではじめて女性建築家が手がけること、
たびかさなる住民集会、太田省吾の芸術監督招聘など竣工まで話題を集めつづけた〈湘南台文化センター〉。
オーブアラップと協働した溶接接合の鉄骨ドームにより世界的なライト・アーキテクチャーの潮流を先導した〈山梨フルーツミュージアム〉。
大小のホールを緩やかに包み込み、ひらかれた「はらっぱ」としての公共空間を実現した〈新潟市民芸術文化会館〉。
時代を画する幾多の作品によって建築界に大きな影響を与えてつづけてきた世界的建築家の、
半世紀におよぶ思考の軌跡を鮮やかに描き出す著作集を刊行します。
論考・作品解説・講演・インタビューのみならず、
対談や鼎談、多木浩二らによる批評をも組み込み、
作品概要図面、年譜なども添えた全4部。
ITSUKOは、自然と幾何学との合体に挑戦した、勇気あるチャレンジャーである。──隈研吾
日本の女性建築家の道をしなやかに力強く切り開いてきた。
その建築に真摯に向かう姿は清く美しい。──永山祐子
時代の転換点にいつも長谷川逸子の建築があることに驚く。──藤村龍至
「長谷川逸子の思考」第1部では〈新潟市民芸術文化会館〉をめぐる論考、対談やインタビュー、エッセイ、多木浩二や小嶋一浩らの批評などを集成。動線計画から植栽、外周部の太陽光に反応して作動するオーニング、空間のボリュームから手摺りにいたるまでさまざまな工夫が詰め込まれたコンサートホールなど、技術的にも空間的にも長谷川建築の頂点をなし、開館以来の高い稼働率と専属ダンスカンパニーNoismの活動でも知られるこの大型文化施設の経験の全貌を伝える。多数の写真に加え、巻末には本巻関連作品の概要図面を付す。
公共とはなにか。市民参加とは何か。グローバリズムにいかに対峙すべきか。1993年に実施されたコンペによって始まった〈新潟市民芸術文化会館(新潟りゅーとぴあ)〉の経験には、専門技術的な事柄にとどまらず、ひろく私たちの現在に直接つながるいくつもの論点を見いだすことができる。
目次
持続するプレイスをつくること
第一回ロイヤルアカデミー建築賞受賞に寄せて[今村創平]
序章 新潟市民芸術文化会館とその後
アーキペラゴ・システム[比嘉武彦+長谷川逸子]
継承されてきたものを未来に引き継いでいく建築
第一章 プログラムとコンペ
新潟市公開コンペへの挑戦
公共建築とコンペティション
建築としてのソフトを立ち上げる
プログラムのコンペへ向けて
第二章 建築がつくる公共性
形式としての建築から公共としての建築へ[多木浩二+長谷川逸子]
真のローカリティはグローバルに開く
世界に開く建築を求めて
アクティビティを喚起する等身大の公共建築[小嶋一浩]
第三章 市民参加ワークショップ
建築と社会[多木浩二+長谷川逸子]
N-PACワークショップに託すもの
市民参加ワークショップのコラボレーション
劇場芸術講座による市民参加のシステムづくり
形式とプログラム[多木浩二]
第四章 アーキペラゴ・システム
浮遊するパブリックスペース 新潟市民芸術文化会館の設計にあたって
アーキペラゴ・システム あるいは都市の編集 新潟市民芸術文化会館
公共建築と都市
アイランド・ホッピング 塩竈ふれあいセンター
プレゼンス・オブ・ハセガワ[比嘉武彦]
第五章 つくる側の論理から使う側の論理へ
生きられていく公共空間[多木浩二+長谷川逸子]
「つくる側の論理」から「使う側の論理」へ
つくるより使う側の論理で建築を考える 袋井月見の里学遊館
公共建築の評価に思う
第六章 ランドスケープ・アーキテクチャー
ランドスケープ・アーキテクチャー
ポピュラーミュージックのように 日常生活からのまちづくり 珠洲多目的ホール
日本の高い技術がつくる表層建築への批判を聞く ケネス・ブラウン汎太平洋建築文化賞を審査して
地域の環境モデルとしての建築 静岡ふじのくに千本松フォーラム
公園のなかのオフィス 上海漕河経三号地オフィス
海外で起こったこと
第七章 続いてきたものから
続いてきたものから新しい考えをつくる[古谷誠章+長谷川逸子]
ゆらゆらと漂うように、でも、しなやかな芯を持つような[古谷誠章]
ブリリアンス・オブ・ハセガワ Brilliance of Hasegawa[比嘉武彦]
『長谷川逸子の思考』の構成について
初出一覧/作品概要/主要関連作品一覧、写真家一覧、人物・第一部執筆者一覧