紹介
「この季節だけ集まる独特なイカが/まるで鳥のように海中を泳いでいる」
流動する世界のなかで、土地からも時間からも自由になる。
一度遠景に退いた風景が、ふたたびくっきりと存在しはじめる。
詩人管啓次郎の新たな展開を告げる待望の第5詩集。
祖父江慎装幀、ポケットの底に、いつも詩集を。
78 57 37
意味なき数字が脳裏で明滅する
海峡を行く白い小型フェリーに
夕方の黄金の光があたって美しい
息子がこっちを見て手をふっているのもわかる
海岸にはアフリカ原産種の大木の赤い花が咲いて
それは何かを祝っているようだ
(「数と夕方」より)
われわれの生のすべての瞬間がそのときその場での地形と気象に左右されているのは、思えば驚くべきことだ。だがそれに驚きつづける人は、いったいどこにいるのだろう。
(略)
生に耐えられなくなった者たちは叫びを上げる。その叫びがつぶやきやささやきや沈黙というかたちをとる者もいる。地形と気象に対する反応が、その背景をなす。ぼくは沈黙に似た無音の情景を、文字で構成しようとした。
(あとがきより)
目次
四川
移住論
海辺へ
数と夕方
Red River Valley
かかしの神
淡海へ
流域論
安土、水郷
ヨハネ挽歌
佐渡 after Dazai
ケベック少年
ブレーメン革命
春と修羅 modified
からす連作
花の科学
十二月が真夏の国では
眠り踊りのはじまり
「遠いアトラス」より
リスボン
フジツボのように
ワリス・ノカンへの手紙
午前三時の川
あとがき