紹介
1986年、東京の砧の森に世田谷美術館が開館した。編者の髙橋直裕はここで学芸員として、「日常と美術」をテーマに地域に密着した果敢な活動を行ってきた。子どもたちが「美術館はぼくらの遊び場だ!」と感じられるよう、ぐちゃぐちゃのどろんこ遊び、絵の具に溺れるようなお絵かき、夏休みに連続7日間かけて台本から衣装・舞台装置まで子どもたちでつくりあげる演劇、館内をバックヤードまで見せるミュージアム・オリエンテーリングなど、とにかく「面白い」を企画の中心に据える。一方、大人向けには、身近なモノに関心を寄せ、あらたな眼差しを獲得しようと街へ。色街を集団でゾロゾロ歩き、銭湯を巡れば富士山のペンキ絵まで体験。
とんでもない企画を大まじめに考え、とつぜん大物アーティストに電話をかけて口説き落とし、人前で絵を「描かせる」ワークショップに引っ張り込む髙橋。ひとつのワークショップが次のワークショップを呼び寄せ、常連の参加者はリーダーとなり、ゴム草履で館内を駆け回っていた子どもはボランティアとして戻ってくる。
本書では、代表的な8つのワークショップを髙橋とゲスト著者の両者が執筆。多彩なゲストはアーティストや演劇人、写真家や研究者はもちろん、ワークショップをささえたボランティアや参加者。「ワークショップなんて、何のためにやるのか分からない」という方にこそ、本書をオススメしたい。
目次
まず、はじめに
序章 世田谷美術館のワークショップ
二五年間の軌跡 (高橋直裕 以下❖印)
第1章 開館記念展第四部「子どもと美術」ワークショップ
ここからすべてが始まった!(❖)
土の襞を作るこどもたち(伊藤公象)
第2章 公開制作
まずは人集めから(❖)
観客とぼくと何者かによる共犯作品(横尾忠則)
第3章 ゲンキニ・エンゲキ
夏休みの想い出を…(❖)
「世田谷遺産」は一粒で三度おいしい(生田 萬)
第4章 ミュージアム・オリエンテーリング
美術館を楽しむ・美術館に遊ぶ(❖)
この“どうしようもない感覚”の虜(郷 泰典)
第5章 バック・トゥー・ネイチャー
美術館を出て自然の中で(❖)
自然に帰ろう!(スタン・アンダソン)
第6章 日常即美術也
「日常と美術」を考える(❖)
ワークショップの鉄人(太田三郎)
第7章 建築意匠學入門
オトナのための怪しくも楽しい街歩き(❖)
街に自らの痕跡をもとめて(大竹 誠)
第8章 TOKYOパノラマウォーク
写真家の眼で歩く健全でオシャレな街歩き(❖)
その時、とつぜん知らない過去が匂いだす(飯田 鉄)
終章 「日常と美術」は二五年間の活動で実現できたのか?
変わりゆく日々とともに(❖)
ぼくらの世田谷美術館(須藤訓平)
おわり
参考文献
世田谷美術館ワークショップ1986-2010