紹介
“開国”を断行したのは、井伊直弼ではない。
誰よりも海外情勢を認識し、徳川斉昭や井伊と対立して開国・交易を推進。そして養蚕業の輸出の基盤を造った松平忠固。その歴史的真相と実像を初めて明らかにする。
確実な史料・文献を用いた「日本開国史」への異議申し立て
松平忠固こそが、日本「開国」の舵取りだったとし、これまでの「日本開国史」に異議申し立てを行なう。大奥や上田藩の生糸輸出の話も興味深い。忠固の未刊日記や確実な史料・文献を用い、読みやすい工夫も随所に施されている。 岩下哲典(東洋大学教授。歴史学者)
明治維新を神話化するためには「幕府は無能」でなければならず、“開国の父”松平忠固は、闇に葬られる運命にあった。〈交易〉を切り口に、日米修好通商条約の「不平等条約史観」を鮮やかに覆す。世界資本主義へデビューする日本の姿を克明に描いた“開国のドラマ”。
佐々木実(ジャーナリスト。大宅壮一ノンフィクション賞、城山三郎賞ほか受賞)
目次
[はじめに]〝開国〟を断行したのは、井伊直弼ではない、松平忠固である
――政敵たちと熾烈な闘いを繰り広げ、開国・交易を推進した老中
・松平忠固とは誰か?
・「開国」を断行し、交易を推進した老中・松平忠固
・「不平等条約史観」の虚構
・忠固に対する悪評
・松平忠固についての先行研究
・歴史学の領域における忠固研究
第1章 日米和親条約の舞台裏――徳川斉昭と松平忠優の激闘
・姫路酒井家から上田松平家へ
・襲封直後の大飢饉
・養蚕奨励
・水野忠邦批判と最初の失脚
・大坂城代と「御城代縞」
・老中就任
・ペリー来航と忠優の家臣たち
・徳川斉昭の参与就任に反対する
・大奥と徳川斉昭の確執
・徳川斉昭の軍事知識
・忠優と斉昭の交易問答
・応接場所を横浜に決定し、小倉藩と松代藩に警護を命じる
・忠優から林復斎への密命
・忠優と斉昭の直接対決
・議論は交易開始で決していた
・阿部正弘が交易開始を覆す
・交易論者は、忠優一人であった
・日米和親条約調印
・忠優と吉田松陰
・ディアナ号事件
・「下田三箇条」問題
・安政二年の政変――忠優の失脚と徳川外交の行き詰まり
・上田藩の家臣団と忠優
第2章 日米修好通商条約の知られざる真相──井伊直弼と松平忠固の攻防
・「忠固」と改名し、老中再任
・誰が忠固の老中再任の後押しをしたのか?
・一橋慶喜の擁立運動
・条約問題に専念したかった忠固
・松平慶永の贈賄工作
・井伊直弼の贈賄工作
・大奥vs斉昭
・日米条約交渉と忠固
・関税率の決定
・備中と伊賀は腹を切らせ、ハリスの首を刎(は)ねよ!
・条約勅許問題
・井伊直弼の大老就任と忠固陰謀論
・忠固中立説と両義説
・忠固の真意
・忠固の日記から読み取れること
・井伊を大老にしたのは家定
・家定による堀田罷免の提案
・井伊直弼の報復人事
・一橋派の忠固主要打撃論
・井伊による忠固排除工作
・大奥が忠固を支えていた
・家定が忠固罷免を決断
・密偵・西郷吉之助の大奥報告
・アロー戦争の終結と英仏艦隊来航情報
・岩瀬忠震の忠固罷免工作
・京都からの返書隠匿事件
・失脚と引き換えの条約調印
・交易は世界の通道なり
・中居屋重兵衛と忠固
・横浜開港
・解明されない歴史の闇
・忠固の遺志を継承した子どもたち
第3章 〝不平等〟でなかった日米修好通商条約
・教科書の「定説」
・日米条約交渉と関税率の決定
・輸出税の賦課と片務的最恵国条約
・関税自主権は存在した
・関税率二〇%は国際水準だった
・低税率を強要された清国とインド
・米国の関税保護主義
・領事裁判権
・通貨問題は、日本側の判断ミス
・新二朱銀発行とその失敗
・大英帝国の自由貿易帝国主義
・不平等の端緒は日英修好通商条約
・開港後の貿易黒字
・関税収入の推計
第4章 日本の独立を守った〝市井の庶民〟たち
・右派と左派に共通する「不平等条約史観」
・貿易に積極参画しようとする庶民こそ独立の原動力
・上田城下商人の「出府日記」
・中居屋重兵衛の開港準備
・中居屋に出入りしていた諸藩
・紀州・会津・上田藩の輸出物産候補
・横浜開港と貿易事始
・中居屋の営業停止処分
・上田藩の商人たちの処分
・物価高騰の影響は限定的
・日本生糸の品質の高さ
・フランスを救った日本の蚕種
・上塩尻村の蚕種開発と養蚕書
・上田藩の蚕種輸出
第5章 日本の独立を脅かした〝尊攘志士〟たち
・多発する外国人襲撃テロ
・テロを生んだ水戸学思想
・水戸学の薩摩への拡散
・水戸学の長州への拡散
・水戸学・国学は、近代を歪めた
・エスカレートする攘夷派のテロ
・一橋慶喜と松平慶永の迷走
・下関海峡無差別砲撃事件
・長州の敗戦と賠償金の請求
・四か国艦隊兵庫沖進出と関税削減要求
・小栗忠順の奮闘むなしく、ついに関税自主権喪失
・田辺太一の回想
・イギリスの戦意を挫いた庶民たち
・関税率削減によって失われたもの
終章 近代日本の扉を開いた政治家、松平忠固
・一橋派正統史観の誤り
・忠固と斉昭の闘いの軍配はどちらに?
・忠固の記憶を蘇らせるのは、日本の未来を照らすため
・過ちを繰り返さないために
・女性権力の必要性
あとがき
松平忠固(忠優)年譜
人名索引
推薦文(岩下哲典・佐々木実)
著者紹介