目次
第一部 岡山藩流通史
第一章 藩財政の窮乏と商品流通史
1 財政窮乏
2 藩札
3 運上銀体系の成立
4 振売 (ざるふり) 商人
第二章 藩領域市場の特産物と中央市場
1 油の流通
2 綿問屋
3 藍玉流通
4 薪問屋
第三章 藩領域市場と株仲間
1 諸問屋の株仲間
2 塩問屋の運上と株仲間
3 魚問屋の株仲間
4 茶問屋・鮎鱒問屋・炭問屋・材木問屋・樒問屋の株仲間
5 朝鮮人参の流通と薬種問屋の株仲間
6 成物問屋の株仲間
7 成物問屋と諸問屋の株仲間
第二部 長州藩塩業史
第一章 三田尻塩田と筑豊炭の藩際交易
1 石炭焚きの始まり
2 筑前炭旅出禁止
3 石炭運上
4 十州塩田の石炭焚き
5 化政・天保期の九州炭移入
6 休浜替持法開始の燃料
7 幕末期の石炭
第二章 三田尻塩田における諸問題
1 支配と塩浜共同体
2 休浜三八法と二九法
3 持越塩
4 塩販売圏
5 塩浜の度量衡
史料編
「弘化二巳正月 諸事書留控 大会所」
前書きなど
一 本書の問題意識
近世の岡山藩・長州藩の流通史、 塩業史の分析を試みるのであるが、 まず問題意識としては次の点を明らかにしたい。
本書の第一部では、 江戸時代の封建制の解体過程を、 まず藩領域市場の立場から商品流通史としてとらえ、 その崩壊から藩財政の凋落を明らかにすることにある。
第二部では、 藩際交易 (長州藩と筑前藩との) から地方市場 (下関) を明らかにし、 明治維新史研究に寄与することにある。
以上のことを念頭におきながら細やかな研究であるが、 考察したい。
二 本書の研究課題と構成
研究課題
まず、 第一に日本経済史は、 戦後資本主義の発展を明らかにするため、 農業を中心とする生産過程の研究から始まった (一九六〇年代)。
すなわち、 太閤検地論から藤田五郎のいわゆる 「豪農」 論を中心とする江戸時代の地主制へ (1) 。 さらに、 近世後期尾張・畿内地方を中心とするブルジョア的なものの出現による農業の資本主義化である寄生地主制へと (2) 。
以上のような研究成果を踏まえながら、 藩領域市場から上昇転化した地主と、 そうでない者 (小作層) との階層分化をどのようにとらえるかを考えてみたい。
第二に、 同時期、 (中井信彦を中心とする) 近世の経済の動向を市場構造の中で、 いかにとらえるのかという問題として商品流通史が研究されだした (3) 。 このような時、 藩政から商品流通を考えてみようとしたのが、 藤本■士の運上銀研究である。 このような先駆的業績を踏まえながら幕藩体制において藩の領域市場である城下町から在町への商品の流入、 それを許す経済的なものの出現をどうとらえるのか等々研究してみたい。 さらに、 幕藩体制において、 各藩の藩当局は特権商人を使って、 その藩の特産物を買い上げさせ、 大坂市場へ移出させ大きな利益を上げさせようとした藩専売制についても考えたい (4) 。
第三に、 一九七〇年代に入ると、 抽木学を中心とする海運史研究が盛んになってくる (5) 。 特産物を中央市場へ移出する輸送の担い手として出現してくるのであるが、 細やかでも明らかにしたい。
第四に、 株仲間については宮本又次の一連の研究がある (6) 。 江戸時代の中頃になると、 商品流通が盛んになり、 商品貨幣経済の発展に伴って藩当局の保護を受けた特権商人化した問屋商人が出現してくる。 そこで、 問屋の株仲間の成立・維持・衰退について分析し追究したい。
第五に、 幕末において薩長が強大な軍事力をもって倒幕運動を起こすのであるが (7) 、 瀬戸内地域の岡山藩・長州藩を事例に、 商品貨幣経済の発展により藩際交易化した幕藩制の市場構造をどのようにとらえるのか、 等々を考え追究し分析することとする。