紹介
グローバリゼーションが進展し,社会が大きく変貌しつつある現在,人々のつながりや絆を再構築する宗教の役割が注目されている。本書は,そうした今日的な宗教の役割を考える狙いから,アジア諸国における仏教の社会的役割の多様な実態を明らかにし,また,その実態を規定する各国特有の政教関係(政治と宗教の関係)を検証する。本書では,まず「はじめに」のなかで,近年脚光を浴びる「社会参加仏教(Engaged Buddhism)」という概念を手がかりに理論的な考察が示され,近代以降の世界における社会と宗教の関係や,国家と宗教の関係を捉える諸論点が整理される。「第Ⅰ部 東アジア」「第Ⅱ部 東南アジア」「第Ⅲ部 南アジア」では,各地域の諸国における宗教事情・仏教事情に関して,法や行政制度の変遷についての情報,統計情報,フィールド調査で得られた情報などが提供され,それら諸情報に基づいた議論が展開される。「宗教と社会」学会創立20周年記念企画テーマセッションから生まれた,宗教研究の最新の成果にして,比較研究の地平を切り開く1冊!
目次
はじめに…櫻井義秀・外川昌彦・矢野秀武
1 社会参加仏教(Engaged Buddhism)について
2 宗教の社会活動と政治
3 アジアの政教関係と国家の介入
4 本書の概要
第Ⅰ部 東アジア
第一章 東アジアの政教関係と福祉…櫻井義秀
――比較制度論的視点――
一 はじめに
二 宗教文化の構造と政教関係
二-一 東アジアにおける宗教文化
二-二 東アジアの政教関係
三 福祉制度の確立と多元化
三-一 東アジアの福祉レジーム
三-二 経済・人口・福祉制度とケアの領域
四 東アジア諸国の政教関係と宗教による社会事業
四-一 日 本
四-二 中 国
四-三 台 湾
四-四 韓 国
四-五 香 港
五 おわりに
第二章 近代日本の政教関係と宗教の社会参加…小島伸之
一 はじめに
二 近代国家日本の統合原理
三 日本型政教関係
三-一 神道国教化政策とその挫折
三-二 「信教自由」・「政教分離」・「祭教分離」
三-三 大日本帝国憲法と政教関係
四 帝国憲法下の仏教・神社の社会参加
四-一 仏教と社会参加
四-二 神社(諸社)と社会参加
五 「宗教団体法」と政教関係
五-一 「宗教団体法」成立の意義
五-二 「宗教団体法」と政教関係の再定位
六 戦後の宗教法制
六-一 「宗教団体法」の廃止と「宗教法人令」
六-二 「宗教法人法」
六-三 オウム真理教事件と「宗教法人法」改正・「団体規制法」
七 おわりに
第三章 妹尾義郎と新興仏教青年同盟の反戦・平和運動…大谷栄一
一 問題の設定
二 近代日本の仏教徒の社会参加の特徴と通史
二-一 日本の近代仏教と社会参加仏教の接点
二-二 近代仏教と改革的志向性
二-三 日本の近代仏教史における社会参加
三 新興仏教青年同盟の概要
三-一 新興仏青の組織
三-二 妹尾の「新興仏教」思想
三-三 新興仏青の活動
四 新興仏教青年同盟の反戦・平和運動
四-一 反ナチス・ファッショ粉砕同盟と極東平和友の会
四-二 第二回汎太平洋仏教青年大会の開催
五 若干の結論
第四章 現代中国の宗教文化と社会主義…長谷千代子
一 はじめに
二 公的言説における諸宗教の関係性の変化
三 民間における新たな仏教観
四 中国の市民宗教?――まとめに代えて
第五章 チベット問題をめぐる宗教と政治…別所裕介
――ダライ・ラマの非暴力運動との関わりから――
一 はじめに――ダライ・ラマにおける非暴力の水準
二 仏教王権政治からの脱却――ダライ・ラマのローヤリティと民主化
二-一 聖俗両界を統べる王・ダライ・ラマ
二-二 宗教界の再編――ゲルク派中心の不平等構造の改善
二-三 チベット政治の民主化――ダライ・ラマの権限移譲
三 中国政府との交渉――チベット問題をめぐる政教関係
三-一 「中道のアプローチ」の提唱
三-二 非暴力の見解に基づく交渉
三-三 本土チベットにおける仏教ナショナリズムの形成と興隆
四 おわりに――民族のための真理か、人間性のための真理か
第六章 戦後台湾の社会参加仏教…五十嵐真子
――佛光山を事例に――
一 はじめに
二 台湾仏教と佛光山
二-一 佛光山とは
二-二 台湾仏教概史
三 「人間仏教」の実践としての佛光山の活動
三-一 佛光山の活動内容
三-二 佛光山の発展過程と背景
三-三 佛光山と「人間仏教」
四 おわりに
第七章 韓国の政教関係と社会参加仏教の展開…李賢京
一 韓国の宗教概況――「宗教人口統計」を中心に
二 韓国の社会変動と宗教政策の変化
二-一 李承晩(イ・スンマン)政権の宗教政策
二-二 軍事政権の宗教政策
二-三 民主化以降の宗教政策
三 韓国社会と社会参加仏教の展開――「メンター」の台頭と仏教の対応
第Ⅱ部 東南アジア
第八章 東南アジアの政教関係…矢野秀武
――その制度化の諸相――
一 東南アジア諸国の概況
二 政教関係の留意点
三 東南アジア大陸部の国々と上座仏教・大乗仏教
三-一 ミャンマー
三-二 タ イ
三-三 ラ オ ス
三-四 カンボジア
三-五 ベトナム
四 東南アジア島嶼部の国々とイスラーム・キリスト教
四-一 シンガポール
四-二 マレーシア
四-三 インドネシア
四-四 ブルネイ
四-五 フィリピン
四-六 東ティモール
第九章 タイにおける国家介入的な政教関係と仏教の社会参加…矢野秀武
一 本稿の目的と概要
二 タイの政教研究の概要
三 国家体制理念におけるタイの政教関係
四 タイ国憲法における宗教関連条項
五 行政組織と宗教行政事業
六 国家仏教・公認宗教論と協同的(Cooperative)政教関係
七 公定宗教と三つの型――公設型・公認型・公営型
七-一 公 設 型
七-二 公 認 型
七-三 公 営 型
八 まとめと展望
八-一 なぜ国家が宗教の統制に介入するのか
八-二 国家介入的な政教関係の変革可能性と社会参加
第一〇章 タイの「開発僧」と社会参加仏教…櫻井義秀
一 経済発展から民主的ガバナンスの時代へ
二 公共圏へ参与する仏教と距離を置く仏教
三 開発僧はどこから来てどこへ行くのか
第一一章 ミャンマーの社会参加仏教…藏本龍介
――出家者の活動に注目して――
一 はじめに
二 出家者の社会参加活動①――出家者の政治的活動
三 出家者の社会参加活動②――出家者による在家者向けサービス
三-一 世俗的サービス
三-二 仏教的サービス
四 社会に参加しない出家者たち
第一二章 ベトナムの政教関係…北澤直宏
――戦争と社会主義の下で――
一 はじめに
二 南北統一以前――社会参加仏教誕生の背景
三 南北統一後の社会主義政権――公認宗教制度の展開
三-一 一九八〇年代
三-二 一九九〇年代
三-三 二〇〇〇年代
四 公認宗教制度による軋轢
五 おわりに
第一三章 インドネシアの政教関係と仏教の展開…蓮池隆広
一 はじめに
二 インドネシアの仏教復興の歩み
三 インドネシアの宗教政策と仏教
四 華人の伝統と公認宗教のはざまで
五 仏教の組織化とスハルト後の展開
第Ⅲ部 南アジア
第一四章 南アジアの政教関係…外川昌彦
――宗教とセキュラリズムの相克――
一 南アジアの政教関係の概況
二 南アジア諸国の宗教別人口の特徴
三 インドの概況
四 パキスタンの概況
五 バングラデシュの概況
六 周辺諸国の概況――スリランカ・ブータン・ネパール・モルディブ
第一五章 スリランカの民族紛争と宗教…田中雅一
――ソーシャル・キャピタル論の視点から――
一 はじめに
二 ソーシャル・キャピタルとしての宗教再考
三 スリランカの人口構成
四 シンハラ・ナショナリズムの展開
五 武装闘争への道
六 排外的仏教
七 LTTEにおける新たな宗教実践
八 ソーシャル・キャピタルからカリスマへ
九 おわりに
第一六章 近現代インドの仏教に見る「社会性」…舟橋健太
――B・R・アンベードカルの仏教解釈から現代インドの仏教改宗運動まで――
一 「世俗国家」インドと仏教改宗
二 インドにおける「社会参加仏教」、カテゴリー、留保制度
三 アンベードカルの「仏教」解釈
三-一 指導者・アンベードカルの経歴
三-二 独自の「仏教」解釈とヒンドゥー教の否定
四 現代インドの改宗仏教徒と仏教改宗運動
五 「社会的認知」を求めて
第一七章 バングラデシュの政教関係とマイノリティ仏教徒…外川昌彦
一 概 況
二 バングラデシュにおける宗教政策の変遷
二-一 ムジブル・ラフマン政権(一九七一―七五)
二-二 ジアウル・ラフマン政権(一九七五―八一)
二-三 エルシャド政権(一九八二―九一)
二-四 一九九一年以降
三 民主化以降の政教関係
三-一 拮抗する二大政党
三-二 イスラーム政党
四 マイノリティ仏教徒
第一八章 政治的締めつけと文化的創造力…山本達也
――ネパール在住チベット難民ポップ歌手と仏教――
一 社会的存在としてのチベタン・ポップ歌手
二 ネパールの政教関係がチベタン・ポップ歌手に与える影響
三 マントラCDと新たな宗教的意味づけ
あとがき
索 引
執筆者紹介