紹介
総力戦対応に向けた国家総動員体制の確立に、「宣伝」はどのような影響を与えたのか?
陸軍の情報・宣伝政策と大衆化を牽引した新聞・雑誌・ラジオ・映画・展示等のメディアの関係性を分析。従来の研究では等閑視されてきた戦間期の陸軍・民間・大衆の相互関係を理解する枠組みを提示する。
◎シベリア出兵時、極東ロシア・東シベリアとハルビンで陸軍が行った新聞操縦の意図は?
◎小説「肉弾」で知られる桜井忠温の陸軍省新聞班長就任がもつ意味は?
◎浜口内閣期、国内外の軍縮論調の中、陸軍はいかなる手法で民間・大衆へ接近したのか? そして民間・大衆はどのようにそれを受容したのか?
◎満洲事変前後の陸軍の宣伝政策の変化を「軍人と政治」という観点から分析
◎1930年代後半、陸軍の情報統制と戦時情報・宣伝体制はどのように構築されたのか?
◎陸軍省記者倶楽部閉鎖に焦点を当て、戦時体制下における記者クラブ内の新聞社間の関係性と当局との権力構造を考察
目次
序 章 視角と課題
一 本書の問題意識
二 研究史の整理と本書の課題
(一)日本近代史研究における軍と社会
(二)軍の宣伝に関する研究と本書の課題
三 本書の構成 21
第一部 軍事活動の多義化と大衆社会への順応 一九一八~一九二九
第一章 シベリア出兵下の新聞操縦
はじめに
一 新聞操縦に向けた機運の高まり
二 極東ロシア・東シベリアでの露字紙操縦
三 ハルビンでの邦字紙創刊
小 括
第二章 陸軍省新聞班の設立
はじめに
一 日清・日露戦争期の新聞界
二 日露戦後から第一次世界大戦までの陸軍の新聞対策
三 寺内内閣の臨時新聞局設置構想と陸軍の姿勢
四 新聞班と記者クラブ
小 括
第三章 桜井忠温と軍事の大衆化
はじめに
一 軍人作家桜井忠温
二 大正期陸軍の社会認識
三 新聞班長桜井忠温
(一)宇垣軍政と桜井新聞班長
(二)民間活用から軍民協働へ
小 括
第四章 済南事件の善後処置
はじめに
一 山東出兵と国内外世論
(一)済南事件に対する欧米・中国メディアの反応
(二)田中内閣の対中政策を巡る国内世論
二 陸軍による対内外宣伝
(一)宣伝体制の確立と対外・在外宣伝の展開
(二)対内情報統制と出兵の娯楽的受容
三 衛戍地熊本における世論形成
(一)銃後の形成
(二)銃後の安定
小 括
第二部 陸軍宣伝の変容と国策主導に向けた展開 一九三〇~一九三九
第五章 浜口内閣期軍制改革問題と「満二十五年陸軍記念日事業」
はじめに
一 国防思想普及委員会の本格始動
二 宣伝媒体化される日露戦争の記憶
三 陸軍記念日に向けた軍民双方の動き
四 陸軍記念日の反響と満洲事変への布石
小 括
第六章 満洲事変前後の陸軍宣伝
はじめに
一 国防思想普及運動と陸軍中央
二 「満蒙の危機」と親陸軍世論
(一)万宝山事件・中村大尉事件を巡る報道と陸軍中央の姿勢
(二)満洲事変の勃発と親陸軍世論の形成
三 満洲事変の終息と政治宣伝の萌芽
小 括
第七章 日中戦争前後の陸軍宣伝
はじめに
一 粛軍期陸軍のメディア対策
(一)「陸密第七四一号」による記者対応改革
(二)改革の要因Ⅰ 報道検閲体制の転換
(三)改革の要因Ⅱ 陸軍省官制改革
(四)改革の要因Ⅲ 内閣との連携
二 日中戦争と「政戦両略一致ノ宣伝」体制
(一)大本営陸軍報道部の編成
(二)内閣情報機構と陸軍宣伝
(三)「戦略宣伝」の構想
三 日中戦争下の陸軍と民間
(一)陸軍省記者倶楽部の閉鎖
(二)閉鎖の余波と規約改定
小 括
終 章 戦間期の陸軍宣伝と民間・大衆
一 戦間期陸軍宣伝の特質
(一)軍事の多義化と大衆化
(二)宣伝の政治化と先鋭化
二 戦間期日本の陸軍・民間・大衆
人名索引・事項索引