目次
後小松天皇
賀歌・祝言
たちかへる 代の春や しるからし たかまが原に 霞みたなびく
日と照らし 土とかためて この國を 内外のの まもる久しさ
よろづ代と なべて花には 契るとも 春へむとしぞ 猶ぞ限らじ
すゑとをき 雲ゐにこゑを つたへてや はこやの山に たづもなくらん
大 御 心
呉竹の はしに我が身は なりぬとも うゑてや世世の 影をまむ
あはれなり 小田もの庵に おくかびの 煙や民の 思なるらむ
みゆきせし 千代の古道 あととぢて ただいたづらに 茂る夏草
國柄・國體
葦かびと 見えしかたちを はじめにて 國つやしろの のかしこさ
蘆原の 國とこだちの 初めにて 幾代をまもる となりぬる
祭祀
きえかへる 命をに まかせても のつゆの かかるしらゆふ
さびて うたふゆだちの 本末も よりあひの音 いづれともなく
みそぎせし 袖の名殘の 川風や 秋のひなみを 今朝はかくらむ
御祓する ぬさのみだれは 取り捨てて そよやかへさの 袖の秋風
とにかくに 身にもおぼえぬ 年くれて なやらふ夜にも なりにける哉
春歌・夏歌
袖ふれし 去年の匂を 忘れずば 思ひもいでよ のしたかぜ 等 後花園・後土御門・後柏原・後奈良天皇の和歌250余首を掲載・解説
前書きなど
はじめに
「天皇御製」とは、天皇がお作りにならゐるといふた和歌のことを云ひます。天皇は、建國から百二十六代、二千七百年に亙つて國家元首として世界最長の史を積み重ねて來られてゐます。初代武天皇から始まり、九割の御歴代天皇は御製を作詠されて遺されてゐます。その歌數は十萬首を優に超えます。
この御製を代表する和歌は、話の時代まで遡る日本獨自の世界最古の言葉文化です。そして、和歌の髓は一般的には「己れの心情の吐露」にこそあり、古來よりいかに美しい世界を描くかといふことを目指して來ました。しかし、御製は、これらの一般的な和歌とは一線を劃すものです。
私の尊敬してゐる今泉定助師は「言靈」について次のやうに述べてをられます。
「言靈とは、私達が發する一音一語には靈が存してゐるといふ事なのである。そして、それは全ての言葉に實質實體が存するといふことでもある」
「私達の先は語り部に代表されるやうに言語の一音一語を尊重し、深甚なる注意を拂つてゐた事は間違ひのないことである。古今東西、世界の民族はそれぞれ言葉によつて表現される意味には皆注意を拂つてはゐる。しかし、我が國ほど深く心を配つてきた民族はないと斷言出來る。私達の先民族は宇宙萬有を悉く靈魂より成立すると見てゐたのである。そして、言靈とは人間の靈魂の分派分出した分靈分魂と信じてきたのである」(『皇道の本義』より)
これを前提として考へた時、究極の和歌である御製は、その靈力の基となる言靈の集約されたものと云へます。天皇は、祭祀を齋行するに、そのお持ちになられてをられる最高の靈力を發揮されて御事を齋行されることは想像に難くありません。その最高境地となられるにあたつて和歌の創作は缺かせぬものであらうかと思ふのです。言葉を換へたならば「言靈磨き」こそ御製になります。
天皇といふ御職責は、「國安かれ民安かれ」の宮中祭祀に於ける最高主祭者であらせられます。その宮中祭祀は、當然ですが其許には大きな靈力を必要とされます。
紀貫之の言ふところの「天地を動かし、鬼を泣かす」といふ靈力を必要とするからです。それ故に、その靈力を強力なものとしなければ祭祀は成立しません。
ですから、天皇とは強力な靈力を持たれて祭祀に臨まれてをられる存在なのです。そこに御製によつて御親らの靈力を保持し高める爲に御製をお作りになられてゐるのです
今囘、謹解させて戴いたのは室町戰國時代の五人の天皇の御製です。
この室町戰國時代は歴史上最も混亂混迷の時期に當り、皇居である京都御所も數囘に亙つて戰亂によつて燒失する中で、この時代の天皇は、世の平安と國民の安寧のりを籠めた御製を數多く遺されてをられます。
本書に收したものは、それ等のほんの一部です。
本書は、もう一つ史年表についても現代の歴史學者達の作つた年表ではなく、天皇を中心とした年表を新たに作成しました。
現代の歴史年表は天皇を輕視した權力思想に染まつた、眞實からほど遠いものになつてゐます。それに一石を投ずることができればといふ希ひもあります。それ故に、本書は、現代に於て流布されてゐる歴史年表とは一線を劃してゐます。
當然歴史學會や歴史育の認識からは違つたものになつてゐますが、私達の先人達が積み上げてきた大切な歴史を、といふ思ひからですので、その邊を御理解戴いて御讀み戴ければと考へてをります。
辯護士の内野経一郎先生からは、「御謹解」ではなく「大御心を推し量る」にすべきだとの助言を戴きました。
本書を上梓するに當たつては、様々な史資料の閲覧に際して、宮内庁書陵部の御協力をいただきました。心から感謝申し上げます。
又、内野経一郎先生、文藝評論家小川榮太先生、國語問題協議會會長の加藤忠郎先生ほか同志、先達の方々の勵ましがなければ本書の刊行は不可能でした。
更に、本書の底本とも云へる『皇室文學大系』を私に貸與戴き、私に御製謹解をするのであれば前につてから御謹解をしなければならないとの御助言をいただいた日本育再生機構の亡き宮崎正治常務理事と恩師岩嶋一雄先生のお二人の御靈に對し奉り心底より深い感謝を捧げる次第です。
願はくは本書によつて、この日本國の眞の國體が覺醒する一助になれば幸ひです。