目次
『アナと雪の女王』の光と影 宮崎駿とジョン・ラセターその友情と功績
前書きなど
まえがき
二十一世紀に入って十四年が経過した。この間、日本のアニメーション映画の興行は二人の人物を中心に展開されて来た。
宮崎駿とジョン・ラセターである。
言うまでもなく、宮崎駿はスタジオジブリを率いて幾多の名作を世に送り出し、世界の賞賛を浴びている。ラセターは、ピクサーとディズニーの双方のCCO(チーフ・クリエティブ・オフィサー)として、二社の全作品を指揮している。日本で興行収入一〇〇億円を超えた長編アニメーションは、宮崎駿監督の『もののけ姫』『千と千尋の神隠し』『ハウルの動く城』『崖の上のポニョ』『風立ちぬ』の五作品、ジョン・ラセター製作総指揮の『ファインディング・ニモ』『トイ・ストーリー3』『アナと雪の女王』の三作品だけである。この二人の作品は突出して支持されていると言って良い。
特に二〇一三年から一四年の一年間は、二人をめぐる幾つもの劇的なニュースがメディアを駆け巡った。一三年夏の『風立ちぬ』と『モンスターズ・ユニバーシティ』の日本興行対決、九月の宮崎駿監督の長編アニメーション制作からの引退会見、十月のピクサーの第二スタジオ「ピクサー・カナダ」の閉鎖、一四年三月の『風立ちぬ』と『アナと雪の女王』のアカデミー賞長編アニメーション賞対決、『風立ちぬ』ソフト発売のCMへのラセター起用、アメリカを起点として日本が終着点となった『アナと雪の女王』の世界的大ヒット、スタジオジブリの制作部門凍結、九月の宮崎駿監督のアカデミー名誉賞受賞決定、『アナと雪の女王』続編制作決定、十月の東京国際映画祭へのラセター来日、十一月のアカデミー賞授賞式、十二月の『ベイマックス』日本公開と、枚挙にいとまがない。
これらのニュースを俯瞰すると、日本のアニメーション興行が大きな節目を迎えていることが分かる。トップランナーの宮崎駿が退けば、セカンドランナーのラセター作品が繰り上がるのは必然かも知れないが、それは同時に伝統的な2Dセル・アニメーションから3D‐CGアニメーションへ王座が移動することを意味する。アメリカを筆頭として世界各国では十年前からCGの圧勝であったが、最後の砦である日本も2D作品の旗色は徐々に悪くなりつつある。今後は、2Dであれ3Dであれ、ラセター指揮の作品にどう対抗するかが、国内アニメーション興行の要となろう。
本書は、「『アナと雪の女王』の光と影」「宮崎駿とジョン・ラセター─その友情と功績」の二つの長文原稿で構成されている。前者は、映画『アナと雪の女王』を技術・歴史・スタッフワーク・テーマ・背景・興行などの多角的な視点で分析する意図で書かれた。後者は、二人の出会いと交流が日米のアニメーションに何をもたらしたかを、主にラセター側の経緯を中心に展開したものである。それぞれ、連載や寄稿などで記された各原稿を大幅に加筆・改稿して再構成した。元は別の意図で書かれたものだが、この機会に一冊にまとめさせてもらった。二つの原稿から、別の視点で各作品が絶大な大衆的支持を集めた根拠があぶり出されていれば、立体的な解析が成立するかも知れないと目算を立てたからだ。結果として、筆者自身がこれまで断片的にしか捉えられていなかったディズニーとピクサーの歴史や人の流れを概括する内容となっていると思う。
本書が、日米で支持を集めるアニメーション作品群の知られざる魅力や新たな価値を少しでも発掘出来ていれば幸いである。