紹介
ここに、1つの逆説的な事実があります。前述したようにマネジメントの学会では、現在の統計学の大ブームが起こる前から統計学をベースにした研究が主流であり、多くの論文が学術雑誌に掲載されてきました。記憶に残らないような示唆しかもたらさない仮説であっても、それを検証できれば掲載されるという統計調査の方が有利で、掲載比率では、全体の約9割を占めています。つまり事例研究の掲載比率は1割にも満たないのです。量的には存在感が薄いといえるわけです。
しかし、その反面、ベストアーティクルとして学会賞を受賞するような論文となると、事例研究の存在感がぐっと増します。最近の傾向を見ると、米国の学会、アカデミー・オブ・マネジメントが発行する『アカデミー・オブ・マネジメント・ジャーナル』(Academy of Management Journal、通称AMJ)では約50%が事例研究によるものです(2000年代から2013年現在)。マネジメント関連で、権威ある学術雑誌として名高い『アドミニストラティブ・サイエンス・クオータリ』(Administrative Science Quarterly、通称ASQ)では、発行後の5年間の影響力を評価して最優秀論文賞を決定しますが、受賞論文の約70%を事例研究が占めています(2000年以降から現在)。
(中略)
目次
第1章 「UFOが来る」と信じる人にも理由がある
因果関係を解き明かす事例研究の力
第2章 凋落した教会で起きた「例外的な再生劇」
通説を覆した「たった1つの事例」
第3章 新聞社の意思決定に生じた「ねじれ現象」
脅威に直面したときの「慣性の法則」
第4章 ハリウッド脚本家の「創造性判定」
無意識に行われている「2つの判断プロセス」
第5章 「優れた医療イノベーション」が普及しない理由
専門家集団を遮る「見えない壁」
第6章 ベンチャー企業のM&Aにおける「裏切り」
売り手と買い手の「信頼」の非対称性
第7章 ビジネスの実務に役立つ事例研究の方法
「こだわり」と「わりきり」の選択