目次
はじめに
1時間目 旧約聖書の構成、成立、伝達
1.聖書のよみ方
批判的に聖書を読む
批判と非難
「歴史を学ぶ」とは?
聖書との対話を通して
2.「旧約聖書」とは何か
「旧い契約」「新しい契約」
「契約を切る」
四つの契約
70人訳聖書
構成について
新共同訳聖書
五書の成立、ヴェルハウゼンの提唱
スピノザの排斥
マルチン・ノート——『モーゼ五書伝承史』
書記の誕生
正典化・キャノナイゼイションの過程
正典化の必要性
公的朗読
死海写本
ソーフェリーム・数える人々
2時間目 天地創造物語
はじめに神は天地を創造した
闇から光りを
希望の光
パターンのくり返しと、言葉による創造と行為による創造
左右対称に込められたメッセージ
クリエーショニズム—創造主義と進化論
信仰の告白
生きることの意味
バビロニア捕囚
バビロニアの信仰体系との対決
バビロニアの創造物語
神々の奴隷としての人間、「神の似姿」しての人間
神の像の「民主化」
3時間目 アダムとエバ物語
「人間は土の塵から造られた」
「エデンの園」
「マイムマイム」
地に仕える僕
善悪の知識の木
エバの創造
父母を見捨てて
蛇の誘惑
関係の崩壊
原因譚
エバ、「命」
アダムとエバの関係
問題の箇所
アーダームは男か
ケネグドー——彼と向き合う助け手
男性だけの翻訳委員会
4時間目 ノアの洪水物語
カインとアベルの物語
二資料仮説によるノアの洪水物語
J版洪水物語
P版洪水物語
増補改訂仮設
神による継続的創造
古代オリエントの洪水物語
5時間目 バベルの塔物語
物語のような歴史、歴史のような物語
通時的研究・共時的研究
著者が託した主張
バベルの塔物語を読む視点
嫉妬による殺人
人間の悪への裁き
バビロニアのバベルの塔
多様性の祝福
多様性を生き抜く
むすび
おわりに
参考文献
前書きなど
「いま、私たちは日本の現況を問わないわけにはいきません。日本固有の問題としての原理主義が息を吹き返してきているのではないかと思うからです。小泉首相は、イラクに侵攻したアメリカをいち早く支持し、イラク特措法や有事三法を整備し、ついに憲法に違反してまでイラクに自衛隊を派兵しました。そのようなアメリカの戦争犯罪に歩調を合わせる在り方の根っこには、同じように原理主義の問題があると思われてなりません。
小泉首相は、中国をはじめアジア諸国の懸念を顧みることなく、内閣総理大臣として靖国神社に強引に公式参拝を続けています。これに対して違憲訴訟が起こされ、福岡地裁ではすでに違憲の判決が出ました(2004年4月7日)。なお、大阪、千葉、東京での違憲訴訟が続けられております。それでもなお、小泉氏は毎年靖国参拝を続けると豪語してはばかりません。
教育の現場では、「日の丸・君が代原理主義」の押しつけが、目を覆わんばかりの強制力をもって、心ある教師たち、生徒たち、保護者たちの良心を踏みにじっています。過去の戦争において日の丸・君が代が果たした役割を思うとき、どうしてもこれを掲げ、歌うことはできないという良心の叫びを、強権を持って弾圧しているのです。
・・・・・・・中略・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
その日本社会の地金とは、首相の靖国公式参拝や教育現場における日の丸・君が代強制に現れている原理主義にほかなりません。この原理主義は、いまや「戦争ができる国づくり」を狙って、憲法改悪、教育基本法改悪、愛国心教育復活、国民精神作興運動への動きとなって噴出してきています。かつて1930年代から40年代にかけて日本社会に吹き荒れた原理主義の嵐が、ふたたび激しさを増してきているのです。
一つの価値観を絶対化して押し付け、自由な批判的精神を育てることを圧殺していくという点で、日本社会の地金である原理主義とキリスト教原理主義は通底しています。この原理主義が権力を生み出す力となり、権力を支持し正当化する機能を強力に果たしてきているのです。このような日本の現況をも視野の中に入れながら、原理主義克服のために、原初史物語に託された著者(たち)からのメッセージを聴き取りたいというのが、本書の目指すところです。」あとがき