目次
序 章 戦時期私立大学を再考する
1 苦難の時代だったのか
2 戦時期の私立大学像
3 本書の視座と対象
4 本書の構成
第1章 組織と規模
1 私立大学の変貌――日本大学と上智大学
2 組織構成の変化
3 在学者数の変化
4 変動の背景
第2章 戦争と財政
1 苦難か、バブルか
2 集計データの分析
3 機関データの分析(1)――収支決算表
4 機関データの分析(2)――資産・負債表
5 おわりに
第3章 戦時期と進学熱
1 苦難と進学熱
2 進学熱の実態
3 進学熱の背景
4 進学熱と統制
5 なぜ進学熱は容認されたのか
6 おわりに
第4章 政策の展開
1 「私学問題」の登場
2 「指導監督」体制の構築
3 構造改革の時代
4 おわりに
第5章 政策対応の諸相
1 政策と私立大学
2 修業年限短縮への対応
3 定員厳守通牒への対応
4 「戦時非常措置方策」への対応
5 キリスト教系大学と政府
6 おわりに
第6章 連携とその組織化
1 忘れられた私立大学団体
2 連合会の誕生とその背景
3 連合会の組織と活動
4 おわりに
第7章 敗戦と苦難
1 戦後初期の私立大学
2 政府と占領軍
3 組織と規模
4 財政危機の時代
5 収入拡大策の模索
6 拡大戦略と進学需要
7 おわりに
終 章
1 本書の知見
2 成長と苦難の時代
3 政府・私立大学関係の変化と特性
4 残された課題
付表
注
あとがき
参考文献
図表一覧
索引
前書きなど
戦時期は私立大学にとって苦難の時代だったのだろうか。
一九四一(昭和一六)年に早稲田大学総長の田中穂積は、全官立高等学校の入学志望者総数が「我早稲田学園の入学志望者の総数と伯仲の間にある」こと、そして入試倍率も官立高校と早稲田がほぼ同水準であることを「之は争うことの出来ない数字が証明して居る」と誇らしげに語っていた。同じく四一年に東洋大学学長の大倉邦彦は、「本学は貧乏だと皆云ふ。然し今はもう学校の経済も完全に独立しました。……本年は相当裕福になり、貯蓄も出来る様になりました」と大学の財政が大きく好転したことを報告していた。あるいは翌四二年に立命館総長の中川小十郎は、「何処の学校でも校外(ママ)に広い地域をもって学校を設置して遣って居る。うちもさうせんならん」と述べ、そして京都市郊外の敷地を「二万五百坪」買い増したこと、さらにそこに「大学予科を独立させ、高等商業学校を独立さす」ことの将来計画を披露していた。
戦時期の私立大学が、平時に増して政府からのさまざまな介入を受けていたことは間違いない。そうした介入が強化されたのは三五年前後からであった。同年の天皇機関説問題に端的にみられるように、この時期には、マルク……
[「序章」冒頭より/注は省略]