目次
序 章 歴史教育を比較史する[近藤孝弘]
第1章 中国(1)[岡本隆司]
――史学から俯瞰する
はじめに
1 史学という前提
2 宋学という教育と歴史
3 史学の変遷――明清時代
4 歴史教育へ
むすびに代えて
第2章 中国(2)[武 小燕]
――共和国の歴史教育:革命と愛国の行方
はじめに
1 東洋史学の影響と主体性の追求
2 実証史学の影響と民族主義教育の高まり
3 唯物史観の優位とその動揺
おわりに
第3章 オスマン帝国/トルコ共和国[小笠原弘幸]
――「われわれの世界史」の希求:万国史・イスラム史・トルコ史のはざまで
はじめに
1 普遍史の時代――中世・近世のイスラム世界
2 万国史とイスラム史の相克――近代オスマン帝国
3 トルコ史的世界史叙述の挑戦――トルコ共和国
おわりに
第4章 ドイツ[近藤孝弘]
――果たされない統一
はじめに
1 多様性のなかの一体性
2 学校における歴史教育の始まり
3 ドイツ帝国における爆発的な拡大
4 緩慢な変容
おわりに
第5章 アメリカ合衆国[貴堂嘉之]
――近代から始まった国として
はじめに
1 アメリカ合衆国の独立と市民教育――一七世紀から一九世紀
2 分水嶺としての南北戦争と愛国教育――南北戦争~二〇世紀転換期
3 革新主義期の教育改革から現代の歴史教科書へ
おわりに――二一世紀アメリカ歴史教育の行方
終 章 歴史教育学の展望[近藤孝弘]
あとがき
図表一覧
索引
執筆者紹介
前書きなど
本書は、世界史教育と自国史教育という表裏一体をなす二つの教育活動に注目し、中国、オスマン帝国/トルコ共和国、ドイツ、アメリカの四ヵ国におけるそれらの発展過程を描き出すことで、歴史を教えるという行為が持つ歴史的な多様性に光を当てるものである。
日本の高校に学んだことがある者なら、誰でも一度は、なぜ世界史と、自国史としての日本史が分けて教えられているのかという疑問を抱いたことがあるのではないだろうか。中学校の教育課程にそのような区別はなく、逆に大学では日本史学や東洋史学、そして西洋史学を学べる学科は普通に存在するのに対し、世界史学を掲げる機関は今も限られる。そもそも日本は世界の一部ではなかったのかという素朴な疑問は、多くの高校生にとってそれほど遠いものではないはずである。
このありふれた疑問は、なぜ日本史・東洋史・西洋史の三科目ではないのかという問いと、反対になぜ一科目にまとめられないのかという問いの二つの側面を持っているが、それらに同時かつ的確に答えることは容易ではない。
もちろん、今日の世界史―日本史体制が成立した経緯を説明することは、ある程度できる。ある程度と限定をつけたのは、特に世界史という科目が成立する経緯については必ずしも明確ではないところがあるためだが、基本的……
[「序章」冒頭より]