目次
序 章
1 国際法思想史への視角
2 戦間期の国際法論をいかに理解するか
3 国際法学と国際政治学
4 本書の構成
第1章 国際政治学的思考の特質
――勢力関係の動態的把握について
はじめに
1 国 益
2 勢力均衡
3 勢力関係の表現としての法
おわりに
第2章 国際法懐疑論によって提起された問題
――ラッソンによる勢力関係の動態的把握
はじめに
1 「国際法否定論者」
2 ラッソンの国際法懐疑論
3 勢力関係の動態的把握
補論 ラッソンにおける国際秩序構想の類型化
(1)マキアベリ主義と教皇権至上主義
(2)「リアリズム」と「アイデアリズム」
第3章 事情変更原則という視座
――エリヒ・カウフマンによる動態的国際法構想
はじめに
1 実証主義における問題の回避
(1)ベルクボーム
(2)イェリネック
(3)ニッポルト
2 法を支える社会的関係への関心――「社会学的」方法の試み
3 事情変更原則の意味
4 カウフマンによる事情変更原則への着目
(1)私法学における事情変更原則の客観的理解
(2)国際法における事情変更原則
5 上下関係秩序と並列関係秩序――国際法の構造について
(1)国家間合意の法的拘束性
(2)カウフマンにおける条約の法的効力の基礎
6 国際秩序における法と力
(1)戦争の意義
(2)国際裁判の限界
おわりに
第4章 国際法の限界
――モーゲンソーによる政治的紛争論
はじめに
1 「紛争の裁判可能性」問題の意義
(1)連盟期における平和の諸構想
(2)紛争の種別
2 モーゲンソーの政治的紛争論
(1)政治的紛争の構造
(2)動態的紛争論の系譜
(3)モーゲンソーの動態的紛争論の特徴
補1 国際調停委員会について
補2 「政治的なもの」の概念
3 法律学的思考の限界としての政治的紛争
(1)形式的無欠缺性
(2)実質的無欠缺性
(3)動態的解釈可能性
(4)欠缺なき法体系の動態的限界
4 力と利益の相違
(1)「力として定義される利益」
(2)権力闘争の体系としての初期モーゲンソー理論
(3)合理的な自己保存欲求と非合理的な権力欲求
(4)「力として定義される利益」という定式の由来について
5 国際政治学と左派
(1)左派とのつながり
(2)ジンツハイマーの労働法思想
(3)ジンツハイマーの労働法論とモーゲンソーの政治的紛争論
(4)個人史的文脈の位置
おわりに
第5章 イギリスにおける動態的国際秩序思考
――ブライアリとカー
はじめに
1 ブライアリの国際法構想
(1)国際関係における法の領域
(2)平和的変更論に対する評価
2 連盟体制末期における平和的変更論
3 カーの国際秩序構想
(1)国際法学から継承された国際法の限界論
(2)平和的変更論
(3)リアリスト/ユートピアン、革新派/保守派
(4)労働法のアナロジーとしての『危機の二十年』
おわりに
終 章
あとがき
初出一覧
注
参考文献
索 引
前書きなど
国際秩序に関する構想の歴史を、いかなる視角から描き出すべきなのだろうか。歴史上、幾多の国際秩序構想が存在し、それぞれが時代に固有の特性と、時代を越えた連続性を有している。それらの諸構想を、いかにして、ひとつの意義ある歴史という形で提示することができるのだろうか。
国際法思想の歴史は、しばしば、自然法論と実証主義との対抗関係を基軸として描き出される。すなわち、普遍的な価値や理性に根拠を持つ超国家的な法規の体系として国際法を構成する思考と、法制定権者たる国家の意思や行為によって定立された実定法規範によって国際法体系を構成する思考との相克を、国際法諸学説の意義と関連を理解するための視角とするのである。二〇世紀以降の私たちの関心が、一方において、戦争を引き起こす主権国家を効果的に規制しうるような国際法秩序を形成することにあり、他方において、普遍性を標榜する思弁的議論のイデオロギー性を克服して客観的・実証的な国際法学[「学」に傍点]を構築することに向けられていることからすれば、このような視角が歴史解釈の基軸とされることは、決して偶然でもなければ、誤ったものでもない。……
[「序章」冒頭より/注は省略]