目次
【収録作品】
『だれが海辺で気ままに花火を上げるのか』 金愛爛[著] きむふな[訳]
妻に死なれて男手一つで息子を育てる父親に子供が訪ねる。「ねえ、僕はどうやって生まれてきたの」。父は「あの秘密」をうまく語ることができない。法螺話で切り抜けようとする父の、おかしく、あたたかく、切ない振る舞い。
『皆に幸せな新年・ケイケイの名を呼んでみた』 金衍洙[著] きむふな[訳]
大晦日の雪の日、ピアノの調律にやってきた妻の友人と名乗るインド人との不思議なやり取りを描く「皆に幸せな新年」。死んだ年下の恋人の故郷を探す女流作家の行動と当惑を描いた、奇妙な味の「ケイケイの名を呼んでみた」。
『息、悪夢』 金仁淑[著] きむふな[訳]
父は彼に、なぜ死んだ母を許すようにと言ったのだろうか。母は、徴兵忌避者の父との間に生まれた彼を、かつて殺そうとしたのだろうか。彼は本当に生まれてきたのだろうか。父と母の秘密が、次第に彼の想念の中に忍び込む。
『いまは静かな時』 呉貞姫[著] 神谷丹路[訳]
障害を持つ子と職を失った夫との無力で不安な暮らし。めまぐるしく変わる工事現場、変貌する都市で、柔らかな体と繊細な神経を持った若い母親は、出て行ったままの子供を捜してさまよう。が、すでに日は暮れてしまった。
『他人への話しかけ』 殷煕耕[著] 安宇植[訳]
他人と関わりなくシンプルでクールに生きたい僕に、面倒な恋愛ばかりする女が近付いてくる。薄情な男たちに翻弄された彼女が僕と接触する理由は、僕が冷たくて傷つきそうには見えないから。都会に生きる男と女の一断面。
『死海』 李承雨[著] きむふな[訳]
職を失い妻も出て行った私に、古い友人が怪しい投資話を勧める。死海の泥は美容に良い、世界中から客が来る。その開発を一緒にやろうというのだ。執拗な友人の電話を聞きながら、消えた妻の真摯な姿と気持ちを思いやる。
『男の中の男』 李滄東[著] 吉川凪[訳]
1987年の民主化大闘争のなかで、作家の私が出会った一人の男は、思いもかけず変貌していった。地方から出てきた一庶民が、家庭を顧みず世直し運動の闘士に変わっていく様を描いて深い感慨を呼ぶ、哀しくも滑稽な佳篇。
『直線と毒ガス』 林哲佑[著] 神谷丹路[訳]
新聞に漫画を書いていた私は、表現が当局の忌避に触れ連行される。そしてそれがきっかけで直線が描けなくなり、解雇され、同時にどこからともなく充満してくる毒ガスの臭いに悩まされる。私を追い詰めるものの正体は何か。
『葵のようなあなた ほか』 都鍾煥[著] 吉川凪[訳]
死期の迫る恋人に向かって、ともに良く生きようと切々と訴えかける「葵のようなあなた」、子供時代の空想に満ちた豊かな孤独を蘇えらせる散文形式の「誰もいない教室」など、溢れる叙情を美しい情景に載せて詠む9篇の詩。
『あの家の前』 崔 允[著] 吉川凪[訳]
母親の最期を養女のKに看取らせた私は、恐ろしいたくらみを持って接してくるKを避けることができない。今はカメラマンになっている彼女は私を砂漠に誘い出し、油断させて私を捨て去る。読む者の内側にせり上がる恐怖。
『韓国現代文学選集解説 あおい隣りの芝生までの距離』 中沢けい[著]