目次
『事実婚の理論と裁判』(学術選書)
岡本詔治(龍谷大学名誉教授) 著
【目 次】
・はしがき
・まえがき
1 本書の趣旨
2 大審院判決例の編纂方針
3 大審院民事判決抄録全93巻
4 未公表判決例の研究状況
(1)大審院判決例
(2)下級審裁判例
◆序 章
1 事実婚法理の歴史的推移
2 婚姻を前提とする事実婚
3 婚姻届出義務
◆第Ⅰ部 事実婚の裁判例◆
◆第一章 明治時代の事実婚
一 明治民法典施行前の「事実婚主義」
1 事実婚主義の確立
2 民法施行前の事実婚
(1)戸籍登記の意義
(2)入籍・同居請求事例
(3)事実婚の成否
(4)事実婚の法的保護
3 詐欺誘惑の論理
4 小 括
5 届出婚主義と事実婚主義との交錯
(1)事実婚主義と「婚姻予約」概念
(2)婚約・内縁二分論と婚姻予約
二 届出婚制度と婚姻予約論
1 婚姻儀礼と婚姻届出
(1)内縁の成立時期の重要性
(2)「事実上の婚姻」と「届出義務」
(3)婚姻予約と「婚姻の成立」論
2 男女関係と「合意」の意義
(1)違約金・手切金契約
(2)贈与有効事件等
(3)扶養・同居契約
まとめと展望
三 当時の多様な男女関係
1 時代の社会背景と新思潮
2 男女類型の多様性
(1)私通関係
(2)夫妾関係
(3)同棲・同性カップル
(4)婚約・婚姻予約
(5)内縁・事実婚
(6)いわゆる試婚ないし足入れ婚
◆第二章 大正時代の事実婚
序 論
1 事実婚有効論の萌芽的状況
2 社会的婚姻の意義と事実婚無効論の限界
(1)社会的婚姻の意義
(2)事実婚無効論の限界と弊害
一 大正前期の事実婚法理
Ⅰ 婚姻予約有効判決の特質
Ⅱ 「婚姻予約有効判決」の論理構造
1 「婚姻予約」法理の意義
2 事実婚関係の成立事情
(1)婚姻儀礼と「同棲の開始」
(2)事実婚の成立時期
(3)不法行為構成の可否
(4)いわゆる「仮託論」について
3 婚姻予約の効力
(1)「届出に協力する義務」
(2)「一方的破棄の自由」とは
(3)「事実上の婚姻」概念と儀式婚
4 事実婚の「社会的独自性」と「法的独自性」
Ⅲ 婚姻の成立時期─婚姻儀礼と届出
1 事実婚の成立時期の重要性
2 「事実上の婚姻」と「届出義務」
3 婚姻予約と「婚姻の成立」論
(1)婚姻届出時の自由意思
(2)事実婚関係と届出の意義
4 婚姻予約の身分行為性と「関係離脱の自由」
(1)届出と身分行為
(2)婚姻の自由と「関係離脱の自由」
(3)婚外関係と「合意」の意義
5 小 括
Ⅳ 婚姻予約法の進展と充溢
二 大正前期の事実婚裁判例
1 婚姻予約法理の定着
(1)婚姻予約有効論と多様な男女類型
(2)婚約関係
(3)事実婚関係と夫婦財産問題
(4)私通関係と手切金契約
(5)妾関係と生活費支給契約
(6)「客分」と婚姻予約
2 「戸主の承認」と婚姻予約
3 婚姻届出履行・同居の請求訴訟
4 「社会的婚姻」と婚姻予約論
(1)客分(足入れ)と婚姻予約
(2)事実上の入夫婚姻
(3)妻の名誉侵害と親族の不法行為
(4)家事労働と不当利得
(5)正当理由の判断基準
(6)内縁と証人資格
5 「届出義務」論の登場
6 その他の事例
(1)「婚姻の成否」と婚姻予約
(2)民法施行前の男女関係
三 大正後期の事実婚裁判例
1 事実婚法理の概要
2 「婚姻予約法理」一般の素描
(1)婚姻予約の性質と要件
(2)解除不要判決
(3)慰藉料の性質と証明責任
(4)違約金契約の可否
3 「夫婦共同生活」と婚姻予約
(1)家事労働の評価
(2)事実婚夫婦間の「扶養義務」
4 離別の正当性と離婚原因
5 事実婚夫婦の子の処遇
6 事実婚保護の脆弱性
(1)死後認知
(2)「親族会決議」参加資格
四 「届出義務」論の確立
1 「婚姻をなすべき義務」
2 「届出義務」不履行と婚姻予約不履行
3 届出手続の合意と予約不履行
(1)入籍合意と違約金契約
(2)婚姻予約と「入籍合意」
(3)入籍手続の拒否と違約の成否
(4)戸主の「届出履行」尊重義務
4 下級審判決例における「届出義務」論
(1)婚姻予約に基づく「届出義務」
(2)婚姻届出と慣習
(3)届出請求訴訟事件
5 小 括
五 夫婦の財産問題
1 夫婦財産制
(1)所有帰属の推定
(2)差押手続と所有帰属
(3)婚家に残した動産の返還請求
2 夫婦間の贈与・遺贈事例
3 居住建物をめぐる裁判例
4 その他の裁判例
(1)「私通・重婚的事実婚」関連事件
(2)「婚姻事例」と婚姻予約
(3)事実婚主義判決
まとめに代えて
1 婚姻予約の性質と内容
2 婚姻予約と届出義務
◆第三章 昭和時代(戦前)の事実婚
序 論
一 婚姻予約法理の充溢
Ⅰ 予約をめぐる諸問題
1 婚姻予約の成立要件
(1)「婚姻の障害事由」と予約の成否
2 夫婦共同生活
3 婚姻予約の「成立事情」─同棲ケース
(1)事実婚否定例
(2)事実婚肯定例
4 婚姻予約有効論・解除不要論の再確認
5 慰藉料・財産損害に関する準則
(1)慰藉料の「額の算定」
(2)合意解除と損害賠償責任
6 不法行為責任(「詐欺誘惑の論理」)の成否
Ⅱ「社会的独自性」としての婚姻予約・事実婚
1 事実婚の解消と結納返還義務
(1)事実婚の成立と結納目的
(2)事実婚関係の短期解消と結納目的
2 事実婚夫婦の義務
(1)同居・協力・扶助義務
(2)療養看護諸費用・火葬費用の負担義務
(3)家事労務に服する義務
(4)相互扶助・同居義務と夫婦共同占有の有無
3 第三者に対する事実婚の保護
4 正当理由と離婚原因
5 事実婚配偶者の法的地位
(1)旧法と妻の権利
(2)事実婚配偶者の「居住権」
6 事実婚夫婦の子
7 社会保障給付金の支給実務
Ⅲ 「届出義務」論の拡充
1 大審院判決
(1)夫婦相互の「届出義務」
(2)戸主・父親の「届出義務」
2 下級審判決例
Ⅳ 夫婦の財産問題
1 夫婦財産制
(1)夫の財産管理権
2 夫婦別産制
3 夫婦間の代理問題
4 出産の委託と出産費用負担契約
5 居住用建物の贈与契約
Ⅴ その他の裁判例
1 事実婚の破棄と「婚約」不履行責任
2 「婚姻の成立」と婚姻予約
3 事実婚主義判決
二 内縁学説の系譜
1 初期の学説
(1)「事実上の婚姻」と婚姻予約
(2)婚姻予約と「内縁」
2 事実婚理論の展開
(1)民事連合部判決と「事実婚・内縁」学説
(2)「岡松参太郎」の所説
(3)「穂積重遠」の所説
(4)「中川善之助」の所説
(5)穂積説と中川説との相違
3 事実婚理論への傾斜
(1)事実婚理論と「届出義務」
(2)「杉之原舜一」の所説
4 「婚姻予約」学説の命運
(1)婚姻予約有効論
(2)「横田秀雄」の所説
5 「横田論文」後の婚姻予約学説
(1)「和田于一」の婚姻予約論
(2)その他の婚姻予約論
6 「岩田新」の実証的研究
まとめに代えて
1 婚姻予約法理の定着と展開
(1)「事実婚主義判決」の歴史的意義
(2)事実婚と多様な男女類型
2 婚姻予約法理の特質
(1)身分行為性・「違約」構成と「信義則」
(2)予約の「内容」としての「事実上の夫婦共同生活」
(3)挙式同棲婚と同棲婚
(4)婚姻との「峻別」
(5)婚姻との連携
3 事実婚の法的保護
(1)不当破棄による損害賠償
(2)事実婚の基本的な効果
(3)事実婚夫婦の財産問題
(4)生存配偶者の「居住利益」と子の保護
4 社会的婚姻の独自性
(1)婚姻予約と「夫婦共同生活」
(2)社会的婚姻の法的脆弱性
5 いわゆる「準婚的判決」について
(1)事実婚の社会的独自性と法的独自性
(2)「届出婚主義の緩和」とは何か
6 「届出義務」論と学説準婚理論
(1)「届出義務」論の一貫性と完結
(2)届出義務と予約不履行責任
(3)人事調停法と「婚姻予約履行事件」
(4)婚姻届出の社会的意義
7 婚姻予約法理の課題と展望
(1)公的秩序としての「婚姻予約法」
(2)婚姻予約法理と最高裁「内縁準婚関係」判決
(3)「柔軟かつ控えめ」な判例婚姻予約法理
◆第四章 昭和時代(戦後)の事実婚
序 論
一 敗戦後の事実婚裁判例
Ⅰ 終戦直後における事実婚の裁判例
1 事実婚の成立事情
(1)事実婚の不当破棄事例
(2)事実婚の婚姻予約不履行事件
(3)「届出義務」の不履行事件
(4)その他の予約不履行事例
(5)合意解除と不履行責任の有無
(6)事実婚関係と不法行為責任
2 家族による事実婚破棄責任
3 慰藉料額の多寡
4 家事調停による「婚姻予約履行事件」
(1)「入籍を求める調停」事件
(2)調停実務の実情
5 その他の内縁関連裁判例
(1)共有推定規定(民法762条2項)の類推適用
(2)婚費分担義務
(3)財産分与請求権
(4)生命侵害と民法711条の準用
6 夫婦の財産問題
(1)家事労働と不当利得
(2)包括遺贈が認められた事例
(3)事実婚配偶者の相続権と遺産分割申立ての可否
7 生存配偶者の居住権と事実婚子の法的地位
(1)生存配偶者の居住権
(2)事実婚子の法的地位
8 その他の事実婚関連事例
(1)事実婚配偶者と「親族」の意義
(2)祭祀財産の承継
(3)妻は夫の占有補助者
(4)詐欺誘惑の論理(貞操侵害)
(5)離婚慰藉料と財産分与請求権
9 小 括
(1)事実婚の成立事情と事実婚のタイプ
(2)事実婚の破棄の態様
(3)責任の論拠
(4)準婚的効果
(5)届出義務論
Ⅱ 当時の学説の状況
1 中川準婚理論
2 内縁学説の多様性
(1)準婚学説の分岐
(2)身分契約と届出義務
(3)事実婚と財産分与
(4)内縁の「二元的構成」
(5)婚外関係の段階的構成─沼正也の「要保護論」
(6)その他の学説
3 小 括
二 「内縁準婚判決」の登場
序 説
1 本節の課題
2 婚姻届の意義
3 「内縁準婚判決」後の展開
Ⅰ 内縁準婚関係論の誕生
1 前史(予約論と準婚論の動向)
(1)裁判例の状況
(2)学説の状況
(3)内縁論の多岐多様性
(4)婚外の男女関係
2 「内縁準婚判決」の歴史的意義
(1)「内縁準婚判決」の事案
(2)「内縁準婚判決」の論理構造
(3)不法行為構成の意義
Ⅱ 「内縁準婚判決」に対する当時の学説の論評
(1)「中川善之助」の評価
(2)その他の学説の論評
1 「判例変更」の論議と「判例二元論」の主意
2 婚姻予約法理の消長
三 「内縁準婚判決」後の事実婚
Ⅰ 婚姻予約法理の命運
1 最高裁の立場
2 下級審裁判例の状況
Ⅱ 昭和40年代までの事実婚
1 事実婚の成立事情─挙式同棲婚
2 同棲と事実婚の成否
(1)事実婚の不当破棄事例との関係
(2)事故死による損害賠償請求との関連
(3)婚姻無効確認請求事件との関連
(4)労災保険金・死亡退職金の受給資格との関連
(5)その余の事件類型との関連
3 事実婚の不当破棄と(共同)不法行為構成
(1)最高裁判決
(2)下級審裁判例
4 事実婚の準婚的効果
(1)同居・協力・扶助義務
(2)事故死による損害賠償請求
5 夫婦の財産問題
(1)夫婦財産制の基本構造
(2)事実婚夫婦間の贈与
(3)遺産分割手続上の保護
(4)事実婚当事者の相続権
6 生存配偶者の居住利益と事実婚子の法的地位
(1)居住利益の保護
(2)事実婚子の法的地位
まとめに代えて
1 事実婚の成否について
(1)結婚の形態と内縁の成否
2 婚姻届出をしない事由
3 婚姻予約法理の堅持と準婚関係論
4 不法行為構成の実相
5 学説準婚理論の浸透
(1)下級審裁判例の動向
(2)「婚姻を目的としない内縁」
(3)「届出義務」論の命運
(4)男女類型の二元的ないし段階的構成
四 昭和50年代以降の事実婚
序
1 事実婚の成立事情
(1)不当破棄事例との関連
(2)財産分与事例との関連
(3)事故死による損害賠償請求権との関連
(4)その他の事例との関連
2 婚姻予約法理と不法行為構成
(1)婚姻予約法理と届出義務論
(2)事実婚破棄と不法行為責任
3 夫婦の財産問題
(1)遺産不動産の共有
(2)預金債権の準共有
(3)家業の協力と共有の成否
4 婚費分担義務
5 小 括
(1)婚姻予約と届出義務の不履行
(2)事実婚破棄と不法行為責任
(3)事実婚夫婦の共有不動産
五 「内縁準婚判決」後の学説の状況
1 内縁論の進展
(1)青山道夫の二元的構成
(2)内縁概念の再検討
(3)試婚論の登場
(4)内縁の二元的・段階的構成論
(5)当時の内縁論の実情
2 内縁論の新段階
(1)内縁準婚理論の限界と停滞
(2)新たな婚外関係論
(3)判例事実婚法理の再確認
◆第五章 平成・令和時代の事実婚
序 説
Ⅰ 平成期前半の内縁裁判例
1 事実婚の成立事情
(一)事実婚を肯定した事例
(1)別居夫婦の事実婚性(退職手当金請求事件との関連)
(2)財産分与申請事件との関連
(3)事故死による損害賠償請求事件との関連
(4)居住利益保護との関連
(5)贈与税課税処分との関連
(6)その他の関連事件
(二)事実婚を否定した例
(1)一方的破棄事件との関連
(2)事故死による損害賠償請求との関連
(3)社会保障給付との関連
(4)「同性婚」ケース
(三)試婚的な同棲
2 事実婚の法的保護
(1)婚姻規定の類推適用
(2)事故死による損害賠償請求
(3)居住利益の保護
(4)内縁配偶者と所得税法所定の「配偶者」
3 事実婚の子をめぐる諸問題
(1)事実婚中の懐胎子の認知
(2)事実婚の子の養育費
(3)事実婚の子と所得税法の「扶養親族」
4 事実婚に関連する事例
(1)生命保険金の受給資格
(2)贈与・遺贈事例
(3)その他の関連事例
5 社会的婚姻としての事実婚
(1)事実婚関係の社会的評価
Ⅱ 平成期後半・令和時代の事実婚
序 論
一 平成16年最高裁判決の登場
1 男女間の「パートナーシップ関係」
(1)事実関係
(2)原審の立場
(3)上告理由
(4)最高裁の立場
2 本判決の分析
(1)男女関係の特殊性
(2)「自由に解消できる関係」と「特別な男女関係」
(3)原審と最高裁の婚外関係論
(4)本書の視点
二 平成16年最高裁判決後における事実婚裁判例
三 事実婚の成立事情と法的保護
1 事実婚の成立事情
(一)事実婚の肯定事例
(1)不当破棄事例との関連
(2)財産分与申請事件との関連
(3)損害賠償請求事件との関連
(4)婚姻無効確認請求事件との関連
(5)その他の関連事例
(二)事実婚の否定事例
(1)男女関係破棄事例との関連
(2)死亡退職金請求事例との関連
(三)事実婚の否定例と婚約関係等
(1)事実婚否定・婚姻予約成立事例
(2)事実婚・婚約否定事例
(3)婚約でも内縁でもない「同棲」
(4)婚約否定事例
(四)いわゆる「試婚的な同棲」
2 事実婚の法的保護
(1)事実婚の不当破棄事例
(2)財産分与
(3)居住利益保護の可否
(4)第三者に対する保護
3 事実婚と関連する事例
(1)「夫婦間の合意」に基因する紛争事例
(2)事実婚夫婦の諸経費負担契約
4 別氏姓夫婦と憲法問題
5 いわゆる「同性婚」ケース
(1)「婚姻に準ずる関係」
(2)死因贈与契約の成否
(3)その他の同性婚事例
(4)同性婚と憲法問題
四 社会的婚姻と事実婚
五 小 括
1 事実婚の成立事情等
(1)現代社会の事実婚事情
(2)内縁の成立経緯
(3)婚姻届出を躊躇した事情
(4)離婚歴のある男女や中高年者層の男女関係
2 事実婚の解消事情
(1)解消の理由
(2)解消までの期間
(3)解消の理由
(4)解消までの期間
3 社会的結婚と届出志向
(1)婚姻を前提とする事実婚
(2)届出回避と贈与・遺贈
4 事実婚性の判断指標
(1)婚姻を前提とした男女関係
(2)婚姻を前提とはしない男女関係
5 事実婚の法的保護等
6 現代社会における事実婚問題
(1)現代的な試婚
(2)いわゆる「現代的な事実婚」
(3)新時代の男女関係
7 伝統的な婚約・内縁二分論
◆第Ⅱ部 重婚的事実婚の裁判例◆
◆第六章 重婚的事実婚
はじめに
一 重婚的事実婚の生成と展開
1 伝統的な「重婚的内縁」無効論
二 重婚的事実婚の保護の端緒
1 下級審裁判例の動向
2 大審院の新判例
3 戦前の下級審裁判例
(1)「詐欺誘惑の論理」による救済
(2)法律婚の離婚手続きの遅延
三 敗戦後の重婚的事実婚事例
1 重婚的事実婚の成立事情
(一)事実婚肯定例
(1)同棲中に法律婚の相手方配偶者が死亡したケース
(二)事実婚否定例等
(1)法律婚配偶者を「遺棄」したものと判断されたケース
2 重婚的事実婚はいつでも解消できるとした審判例
3 重婚的な「婚約」を有効とした例
四 「内縁準婚判決」後から昭和40年代までの裁判例
Ⅰ 重婚的事実婚の成立事情等
1 重婚的事実婚の成立事情
(一)事実婚肯定例
(1)法律婚が形骸化した後の事実婚関係
(2)事実婚の成立が法律婚破綻後かは不分明であるものの、事実上の夫婦関係が相当期間にわたって継続していたり、同棲時に法律婚につき善意であったりするケース
(二)事実婚消極例
(1)事実婚の成立が法律婚破綻の要因であるケース
(2)法律婚との関係も維持されていたり、その断絶が曖昧であったりしたケース
(3)婚姻意思が不分明であるとされたケース
(三)「法律婚の婚費分担請求事件」との関連事例
(四)妾関係とした事例
(五)「詐欺誘惑の論理」による救済
Ⅱ 小 括
1 重婚的事実婚の成立事情
(1)重婚的事実婚と婚姻届出
五 昭和50年代以降の重婚的事実婚関連事件
序 説
Ⅰ 重婚的事実婚論の展開
1 重婚的事実婚の成立事情
(一)事実婚肯定例
(1)法律婚が形骸化した後に事実婚関係に入ったケース
(2)重婚的な同棲中に離婚が成立したり、相手方が死亡したりしたケース
(3)婚姻破綻に責任があるものの、現に婚姻が事実上離婚状態にあれば保護されるとしたケース
(4)重婚的事実婚の成立によって婚姻が破綻したケース
(二)事実婚消極例
(1)法律婚での婚費分担義務との関連
(2)遺族年金の受給資格との関連
2 その他の関連事例
(1)「詐欺誘惑の論理」による救済
(2)妾関係
(3)その他の事例
3 小 括
六 平成時代以降の裁判例
Ⅰ 平成16年代までの重婚的事実婚関連事例
1 重婚的事実婚の成立事情
(一)事実婚肯定例
(1)法律婚が形骸化したのちに事実婚関係が形成された場合
(2)法律婚の相手方が行方不明となったのちに事実婚関係が形成された場合
(3)妻とは離婚して結婚するとの言を信じて内縁関係を結んだケース
(4)重婚的関係によって法律婚が形骸化したのちの関係は保護に値するとしたケース
(5)法律婚の形骸化も、完全な同棲もなかったが、正妻の死亡後は内縁になるとしたケース
(二)内縁否定例
(三)法律婚と事実婚との併存を認めたケース
2 重婚的事実婚の法的保護
(1)財産分与
(2)居住利益
(3)事実婚の子の養育費申請事例
3 重婚的事実婚関連事例
(1)「半ば夫婦同様の関係」
(2)「改氏」申請事例
Ⅱ 平成16年以降の重婚的事実婚関連事例
1 事実婚の成立事情
(一)事実婚肯定事例
(1)法律婚が形骸化していたと思われる事例
(2)内縁成立後に法律婚を知悉した事例
(二)事実婚の否定事例
(1)妻帯の事実を知悉し、法律婚も破綻していなかった事例
(2)法律婚が破綻していなかった事例
(三)重婚的内縁関係と法律婚関係の並存を認めた判決例
2 重婚的事実婚の法的保護等
(1)妻の共有持分
(2)居住利益の保護
3 事実婚関連事例
(1)「詐欺誘惑の論理」による救済
(2)居住利益の保護の可否
◆第七章 戦後における重婚的事実婚─まとめと課題
一 重婚的事実婚の保護の拡張
1 戦後の状況
2 昭和40年代までの裁判例
3 昭和50年代以降の裁判例
4 平成時代以降の裁判例
二 重婚的事実婚の由縁と共同生活の実態
1 同棲に至る経緯等
(1)同棲の端緒
(2)重婚的事実婚夫婦の年齢
(3)重婚的夫婦の生活実態
三 重婚的事実婚の事実類型
1 基本的な事実類型
2 事実類型の具体的な事情と概評
(1)具体的な事情
(2)概 評
3 その他の婚外男女関係
(1)「詐欺誘惑の論理」による救済
(2)重婚的事実婚と妾等の男女関係
(3)婚前契約書(プリナップ)の利用
◆終 章
一 事実婚法理の課題と展望
1 沿革小史
2 婚姻予約と「届出義務」
3 現代の事実婚問題
(1)合意による関係形成
(2)現代的な試婚
(3)新時代の男女関係
4 伝統的な婚約・内縁二分論
5 結 語
二 重婚的事実婚の課題と展望
(1)重婚的事実婚と婚姻届出
(2)重婚的事実婚保護の論拠
事項・人名索引
判例索引
前書きなど
本書は、事実婚(内縁)について、明治時代から平成・令和時代にいたるまでの裁判例の実情を歴史的推移を踏まえながら分析しているが、ことに時々の裁判例が認定した事実を可能な限り客観的に描き出そうとした。本書が大部なものとなったゆえんでもある。
裁判例は、伝統的に事実婚という用語よりも、「内縁」という表現を使用してきたが、この傾向は、今日でも変わっていない。ただし、内縁と称される男女関係にも、婚姻を目的とする関係もあれば、そうではない関係もあり、もともとは前者の意味では、つまり婚約を経て挙式同棲後から届出にいたるまでの関係を「事実上の婚姻」と称することもあったが、やがて両者の区別は曖昧となった。おそらく「中川善之助」らの影響によるものと思われる。中川らによる内縁とは、内縁夫婦は婚姻夫婦と同様の事実上の夫婦共同を営むが、ただ、婚姻届出がなされていない男女関係であると解されたうえで、婚姻を目的としない内縁も含まれるからである。そのうえで、婚姻習俗を重視して、挙式同棲後の事実婚は「婚姻」そのものであると称するなどして、戦前にすでに「内縁準婚理論」なる論理を提唱し、戦後はこの立場が通説となっているが、やがて中川理論に対しては、二重の婚姻論は現行婚姻秩序を攪乱させるなどの種々の批判が浴びせられ、今日の学説では、男女関係の多様化も重なって、婚外の男女関係の分析視角には軸となるものが曖昧となり、その結果、単純に継続的な男女関係を重視して、その保護の要件も流動的にとらえる学説も登場している。
これに対して、裁判例では、伝統的に、大審院も最高裁も、いわゆる「内縁」と称して、その定義はなされたことはなかったが、平成16年の最高裁判決(ただし非公式判決例)によって、届出を拒否している双方の男女協力関係(パートナーシップ)の一方的な破棄責任を否定するにあたって、内縁関係とはならないような種々の消極的な事情を指摘したことから、逆に内縁成否の考慮事情などが浮き彫りにされることとなった。この裁判例の影響によるものとも思われるが、ごく最近では、外観上は夫婦としての生活を継続していたものの、婚姻手続に進もうとしない男女関係は内縁ではないとする東京高裁の判決も出てきている。
本書は、内縁ないし事実婚は、基本的には婚姻を目的ないし前提とした関係として捉えた上で、この関係を軸として多様な男女関係の法的保護のありかたを論究すべきであると考えているが、そうした視点から現代までの裁判例を整除できるほどの蓄積は未だみられないので、現在のところは、「事実婚の成立事情」に注視しながら、裁判例を紹介することとした。
この程度の作業に限定されるものの、従来の学説が見落としていた視点を析出できたと考えている。とくに、婚姻予約法理とは、中川や我妻など代表的な学説が批判するような、関係の発端にのみ依拠するものではなく、その後の夫婦共同生活の実体を予約の「内容」とするものであること、また、共同生活が開始すれば、当事者双方は「遅滞なく婚姻の届出をなすべき義務」を負担すること(届出義務と略称)が婚姻予約の軸となるものであることを、それぞれ具体的な判決例に依拠して論証したつもりである。
なにゆえに、指導的な学説が、そうした事実を見落としたのか、また、戦後の学説がそうした有名学説を鵜呑みにしたのか、まさしく「内縁法の闇」といわざるを得ないが、本書は、そうした闇に一条の光を投ずることができたかは、諸賢のご批判にゆだねるしかない。