目次
『入門経済刑法』
穴沢大輔(明治学院大学法学部准教授)・
長井長信(明治学院大学法学部教授) 著
【目 次】
は し が き
凡例/参考文献
イントロダクション
第1章 消費者の財産の侵害1―振り込め詐欺から考える
Ⅰ 振り込め詐欺への刑法的対応
1 概 要/2 ツールの遮断/3 [事例1]の解決にむけて
Ⅱ 振り込め詐欺をめぐる近時の問題
1 詐欺罪の故意/2 途中からの関与と詐欺未遂罪
Ⅲ 刑法学の視点から
Ⅳ ま と め
第2章 消費者の財産の侵害2―悪質商法を中心に
Ⅰ 悪質商法とは
Ⅱ 悪質商法の諸形態
1 ネズミ講・マルチ商法/2 現物まがい商法/3 商品先物取引をめぐる悪質商法/4 [事例1]の解決にむけて
Ⅲ 最近の利殖勧誘商法をめぐる動き
1 概 要/2 詐欺罪・組織的詐欺罪の成否/3 出資法違反/4 利殖勧誘商法をめぐる最近の事例/
5 [事例2]の解決にむけて
Ⅳ 刑法学の観点から
Ⅴ ま と め
第3章 「虚偽」の表示と犯罪―食品表示偽装・商標法違反・文書内容の虚偽
Ⅰ 食品の「虚偽」表示
1 裁判所による解決/2 食品表示偽装の罰則
Ⅱ 商品等の虚偽の表示をめぐる罰則
1 概 説/2 商品における特別な表示―商標
Ⅲ 取引における虚偽の記載をめぐる罰則
1 虚偽記載の罰則の例/2 有価証券報告書虚偽記載提出罪の共犯/3 文書偽造罪と文書内容の虚偽表示,記載
Ⅳ 刑法学の視点から
Ⅴ ま と め
第4章 会社財産の侵害―不正融資・業務上横領罪・(特別)背任罪
Ⅰ 会社財産の保護のための法制度
1 問題の所在/2 刑法による会社財産の保護/3 会社法罰則の概要/4 [事例1]の解決にむけて/
5 [事例2]の解決にむけて
Ⅱ 特別背任罪
1 概 要/2 主 体/3 任務違背行為/4 故意・図利加害目的/5 財産上の損害/6 共 犯/
7 [事例3]の解決にむけて
Ⅲ 刑法学の視点から
1 特別背任罪の理解/2 横領罪と背任罪の区別・限界
Ⅳ ま と め
第5章 インターネットと犯罪―不正アクセス行為・電子計算機使用詐欺罪を中心に
Ⅰ 不正アクセス行為の処罰
1 概 要/2 不正アクセス禁止法における「不正アクセス行為」/3 [事例1]の解決にむけて/4 その他の行為/
5 他の犯罪との関係
Ⅱ コンピュータ犯罪への対応
1 概 要/2 電子計算機使用詐欺罪/3 その他の罪
Ⅲ 現在の状況
1 いわゆるコンピュータウイルス作成罪(刑法168条の2,168条の3)/2 技術的制限手段に係る不正行為への刑事罰/
3 2020(令和2)年の著作権法改正による刑事罰
Ⅳ 刑法学の視点から
Ⅴ ま と め
第6章 営業秘密の侵害
Ⅰ 営業秘密を侵害する行為の処罰の概要
1 「財物」でないこと/2 知的財産権との関係/3 不正競争防止法による処罰
Ⅱ 営業秘密侵害罪の基本構造
1 概 要/2 [事例1]の解決にむけて/3 [事例2]の解決にむけて
Ⅲ 財産犯罪との関連
1 かつての事例/2 現在の事例―不競法(営業秘密侵害罪)による処罰/3 図利加害目的
Ⅳ 刑法学の視点から
Ⅴ ま と め
第7章 金融商品取引法違反―インサイダー取引を中心に
Ⅰ インサイダー取引とは
1 概 要/2 インサイダー取引罪の制定・改正/3 保護法益・罪質
Ⅱ インサイダー取引罪
1 会社関係者のインサイダー取引罪(166条)/2 公開買付者等関係者のインサイダー取引行為(167条)/
3 [事例1]の解決にむけて
Ⅲ 情報伝達罪・取引推奨罪
1 概 要/2 主 体/3 情報伝達・取引推奨/4 取 引 要 件/5 故意・目的/6 [事例2]の解決にむけて
Ⅳ 刑法学の視点から
Ⅴ ま と め
第8章 独占禁止法と犯罪―不当な取引制限罪
Ⅰ 独占禁止法における処罰
1 概 要/2 法人処罰と自然人処罰
Ⅱ 不当な取引制限罪
1 概 要/2 処罰対象行為
Ⅲ 入札談合の処罰
1 入札談合の理解/2 [事例2]の背景/3 [事例2]の解決にむけて/4 相互拘束行為と遂行行為
Ⅳ 課徴金減免制度と刑罰
1 概 要/2 [事例3]の解決にむけて/3 罰金との調整
Ⅴ 刑法学の視点から
Ⅵ ま と め
第9章 租税犯罪―租税ほ脱罪を中心に
Ⅰ 租税と刑事法
1 概 要/2 重加算税と刑罰/3 査察の状況
Ⅱ 租税ほ脱罪概要
1 ほ脱と単純無申告/2 単純無申告ほ脱犯の処罰―2011(平成23)年改正/3 ほ脱犯の類型
Ⅲ 虚偽過少申告と虚偽不申告
1 虚偽過少申告/2 所得秘匿工作を伴う無申告(虚偽不申告)/3 既 遂 時 期
Ⅳ 刑法学の視点から
Ⅴ ま と め
第10章 マネー・ローンダリング―組織犯罪・暗号資産・没収追徴
Ⅰ マネー・ローンダリングとは
1 概 要/2 法整備の経緯
Ⅱ 犯罪収益移転防止法による規制
1 概 要/2 金融機関等に対する規制(25条・26条)/3 顧客等に対する規制(27条~30条)/4 [事例1]の解決にむけて
Ⅲ 組織的犯罪処罰法による規制
1 概 要/2 事業経営支配罪(9条)/3 犯罪収益等隠匿罪(10条)/4 犯罪収益収受罪(11条)/
5 没収・追徴/6 [事例2]の解決にむけて
Ⅳ 刑法学の視点から
Ⅴ ま と め
第11章 経済犯罪に対する制裁―課徴金との関係・法人処罰
Ⅰ 制 裁 と は
1 概 要/2 経済犯罪に対する制裁をめぐる問題点
Ⅱ 刑罰と課徴金
1 刑 罰/2 課徴金/3 刑罰と課徴金の関係/4 [事例1]の解決にむけて
Ⅲ 両罰規定と法人処罰論
1 問題の所在/2 両罰規定/3 法人処罰論/4 [事例2]の解決にむけて
Ⅳ 刑法学の観点から
1 課徴金と刑罰/2 法人処罰論のゆくえ
Ⅴ ま と め
第12章 手続法上の諸問題
Ⅰ 経済犯罪に対する手続
1 経済犯罪の特色/2 手続上の問題点
Ⅱ 行政機関による犯則調査手続
1 概 要/2 国税犯則調査手続/3 証券取引等監視委員会による犯則事件調査/4 公正取引委員会による犯則調査/
5 犯則調査制度における法整備の意義
Ⅲ 捜 査 手 続
1 概 要/2 事件の発見・捜査の端緒/3 捜 査/4 [事例1]の解決にむけて
Ⅳ 公訴提起・公判・裁判
1 公訴提起/2 公判・裁判/3 [事例2]の解決にむけて
Ⅴ 刑法学の視点から
Ⅵ ま と め
事項索引
判例索引
前書きなど
〈はしがき〉より抜粋
「経済刑法は,刑事法の「応用」と位置付けられ,法学部や法科大学院での刑法総論や刑法各論の講義を履修したうえで学習されることが多い。経済分野に関連する法律は専門的な内容を伴うものであり,そこから生ずる刑事事件に対応するためにも,基本的な刑法(及び刑事訴訟法)の内容を知らなければ,その法律に規定されている罰則の適用について正しく理解することは難しい。その意味で,刑法の基本的事項を十分に習得したうえで,応用としての経済刑法を学ぶことが重要である。
その一方で,法律への理解が及ばずに消費者トラブルに巻き込まれる若者がおり,法教育の重要性も指摘されるところである。そこではさらに,自分の知らないうちに刑事事件に加担してしまう若者も少なからずおり,そうした若者に対する「予防策」も必要であろう。また,法律学を学んだ人であっても専門的な経済分野に関する法律(刑罰法規)や事件を知らないまま社会人となる人も多いように思われ,一定の基本的な経済刑法の知識を身につけておくことは,将来を見据えると大切であろう。
本書は,こうしたことをふまえ,①刑法を学んだ法学部生や法科大学院生には,経済分野における諸法律の基礎を知ったうえで,これまでに習得した刑法の知識を思い返しながら学んでもらうことを目指し,また,②経済分野に興味のある一般の大学生や経済活動に携わっている社会人のような刑法学の初学者や未習者の人々にも,経済犯罪の処罰の現況を知り,そこから刑法学の基礎を学んでもらうことを目指した経済刑法の入門書である。」