目次
朝起きられない人のねむり学 目次
まえがき
Ⅰ 事例編――睡眠外来を訪れる若者たち
◎クラリネットを吹きながら寝てしまうAさん
◎片道2時間通学、睡眠時間6時間のBさん
◎生活リズムの乱れから朝起きられなくなったCさん
◎スマホの時間を減らして復活したDさん、不登校を克服したEさん
◎ナルコレプシーのFさん
◎必要な睡眠時間が多いタイプのGさん
◎小学校以来、生活リズムの乱れが直らないHさん
Ⅱ あなたの「ねむり」の常識チェックリスト
◎「睡眠と体調」編
◎「ねむりと脳のメカニズム」編
◎「寝不足対策」編
◎「日本人の睡眠」編
Ⅲ 基礎編――知っておきたい眠りの知識
1 眠りの役割は?
2 寝不足ではどうなる――寝る間を惜しんで勉強するな
短縮睡眠による注意力実験/週末の「寝だめ」の意味とは?/睡眠不足の脳では何が起こっているのか/寝不足は万病のもと?/若者によき夜の眠りを
3 夜行性と昼行性――リズムも大切
4 覚醒中枢と睡眠中枢――眠りに関する脳のしくみ
エコノモによる仮説/ヒスタミンとオレキシン――食後はなぜ眠くなる?/「眠るための脳」「眠っているための脳」
5 レム睡眠とノンレム睡眠
レム睡眠はいかにして発見されたか/眠りの分類――手がかりは脳波、目の動き、筋肉の力の入り具合/眠りの周期は1時間半?
6 脳にも細胞にも時計がある
リズムを生み出す時計遺伝子/目から入った光で睡眠のリズムが変わる/睡眠表からわかること
7 光は脳に影響大
体温のリズムと光/昼の光と夜の光――メラトニンへの異なる効果が/夜のブルーライトはなぜ危険か
8 食事がリズムをつくる――「腹時計」のメカニズム
9 睡眠に関連した物質
成長ホルモン――なぜか誤解が多い理由/睡眠物質――自然な眠りをもたらすさまざまな物質/カフェイン――コーヒーは昼寝の前に/ニコチンとアルコール――飲酒はなぜ眠りの質を下げるのか/メラトニン――睡眠時間と性的成熟の関係/セロトニン――大切なのはリズミカルな筋肉運動/オキシトシン――注目される癒し効果
10 研究最前線から――寝不足の脳と寝ているときの脳
身体は起きているのに脳は寝ている?/左手の固定実験/「深いノンレム睡眠のときに現れる波」と記憶の関係/自分に合った生活リズムをつかむために
11 眠り・リズムに関連した病気
不眠症群/睡眠時無呼吸症候群/過眠症群/概日リズム睡眠覚醒異常症群/睡眠随伴症群/睡眠関連運動異常症群/事例編の診断
Ⅳ 実用編――快適な眠り・生活リズムを取り戻す
1 原因を探してみよう
情報収集――身体の声に謙虚に耳を傾ける/鵜呑みにしない――その1 統計結果の読み方のコツ/鵜呑みにしない――その2 自分にとってのベストを探る/何時に寝て何時に起きるか?――世の中正解のないことが多い/身体からのサインを無視しないこと/個人の特性は尊重しつつ一般化しない/リズムが乱れる4つののパターン
2 日本人と眠り
眠りからみた「哀しい国日本」/短時間睡眠をすすめる社会/「いつ休むのかって? 地球が止まったらね。」/睡眠軽視の伝統――『養生訓』から二宮金次郎まで/根性論からの脱却/「寝て、食べて、動く」!
3 スリープヘルス――快眠への6原則
朝起きたときから夜寝る準備は始まっている/眠りと切り離せない「食、排泄、活動」
4 具体的なヒント
わかっているけどできない理由/気合は大事――ただし眠気は気合で乗り切れない/眠れないときは布団やベッドから出てみよう/睡眠表のすすめ/「寝不足」かどうかわからない――自己診断の目安/リテラシーを育てる――ヒトは自分を正当化する動物である/ツールの奴隷になってはいけない/どこでもエクササイズ/寝ヂカラ=捨てる力/「手を抜くこと」を教わっていない若者たち
5 視点の変換のために
Ⅴ 若者へのメッセージ
1 自己肯定感のない若者たち
世界の若者の意識調査から/抱き人形「ヒブッキー」の果たした役割
2 ビッグバン
偶然のいたずら/奇跡の結果としての自分自身を知る/「歴史」の作り手、担い手として
3 自分自身の時間の最高管理責任者に
日本の若者の「無力感」/取り返すことのできない時間を生きる
Ⅵ あなたの「ねむり」の常識チェックリスト――回答&解説
◎「睡眠と体調」編
◎「ねむりと脳のメカニズム」編
◎「寝不足対策」編
◎「日本人の睡眠」編
コラム
登校困難のきっかけ
サマータイム
さまざまな眠り
なぜ24時間10分
なぜ朝ごはんが大切なのか?
エクソン・バルディーズ号の座礁オイル漏れ事故
なぜ寝すぎても死亡率があがり、太るのか?
ジョブズ家のルールに学ぶ
「発達障害」と診断されている場合
あとがき
図版出典一覧
索引
装幀◆臼井新太郎
装画◆友田シトウ
前書きなど
朝起きられない人のねむり学 まえがき
子どもの睡眠時間の全国調査が、1980年以降10年ごとに行われています。それによると、午後10時以降に眠りに就く未就学児(生後1歳半から7歳未満)の割合は、たとえば2歳児の場合、1980年には29パーセント、1990年には41パーセント、2000年にはなんと59パーセントにまで上昇しましたが、2010年には35パーセントへと減少しています。これには2000年代から盛んに行われた、子どもの眠りに関するキャンペーンが影響しているのではないかと言われています。
一方で若者の寝る時刻(就寝時刻)の平均についての全国調査によると、1992年には中学生午後11時10分、高校生午後11時50分でしたが、2004年にはそれぞれ午後11時18分、午前0時6分、2012年にもそれぞれ午後11時22分、午前0時1分と大きな改善はなく、この20年で中学生で12分、高校生で11分遅くなっています。同じ調査では睡眠時間もみていますが、こちらについては、この20年間で中学生は30分、高校生で27分短くなっています。
ではこの日本の若者の眠りは世界と比較するとどうなのでしょうか? 2010年のオーストラリアの若者の就寝時刻の平均は、中学生で午後9時52分(週末午後10時23分)、高校生で午後10時39分(週末午後10時55分)です。また睡眠時間を世界各国の調査でみると、中学生で7時間45分から9時間45分、高校生で7時間から9時間の範囲に入っています。日本の若者はオーストラリアの若者に比べて平日には約90分遅く寝て、睡眠時間は世界と比べて少なくとも30分以上、国によっては150分以上も少ないのです。
いま、私の睡眠外来には朝起きることができない、夜なかなか眠ることができない、と悩む中学生、高校生、そして大学生がやってきます。彼らの中にはそのために登校困難や留年になっている場合も少なくありません。このような若者の中には、ヒトという動物であればごくあたりまえの生理的な反応のために、朝起きることや夜眠ることが難しくなっている場合もあります。たとえば夜の就寝時刻が遅くなり、睡眠時間が短くなれば、朝起きることは当然難しくなりますし、夜遅くまで塾に通ったり、メディアに接したりしていれば興奮して夜眠ることが難しくなるのは当然です。これらはあたりまえの正常な生理的な反応です。知らないでやっていたことが、実は身体の調子を乱している、ということが今の世の中、たくさんあるのです。そこでなんとかそのような若者の助けになることができれば、との思いからこの本を執筆することにしました。
「ヒトは寝て食べて出して初めて脳も身体もそして心も活動が充実する昼行性の動物」というフレーズをキーワードに、身体の調子を乱さないための眠りと生活習慣についての常識をしっかりと身につけてほしい、との思いをこの本に込めました。事例編、Q&A、基礎編、実用編、若者へのメッセージ、Q&A解説に分けました。またコラムもあります。気軽に読んでいただいて、少しでも多くの若者、そして彼らを取り巻く皆さまのお役にたつことができればと思います。
なお表題にある「ねむり学」は、2010年に『ねむり学入門』を発行した際の造語です。最近耳にする「睡眠学」では医学的、神経科学的側面が強調されがちですが、「ねむり学」では「日常生活の中での眠り」に重きを置いた眠りに関する正しい知識やその活用の実際を紹介します。