目次
はじめに
第1部 社会福祉調査の特徴
1‐1 調査対象 だれを調査するか
1‐2 調査主体 だれが調査するか
1‐3 調査目的 ? ニーズ把握 なぜ調査するか ?
1‐4 調査目的 事業評価 なぜ調査するか
1‐5 調査目的 アセスメント なぜ調査するか
1‐6 社会貢献 調査に求められること
第2部 社会福祉調査の企画
2‐1 企画 どんな調査をするか
2‐2 横断・縦断 何度調査するか
2‐3 標本 実際にだれに調査するか
2‐4 対象へのアクセス(調査協力) 対象者の協力をどう得るか
第3部 量的社会福祉調査
3‐1 質問紙 アンケートをどうつくるか
3‐2 測定 適切な「測定器」か
3‐3 事前調査 本調査をする前に
3‐4 配布・回収 質問紙をどう配布し、回収するか
3‐5 自計式・他計式 質問に答えるのは本人か他人か
3‐6 量的分析 記述統計 集団の特徴を数字であらわす
3‐7 量的分析 ? 仮説検証 「科学的」に考えるとは
3‐8 量的分析 統計的手法 統計的手法の使い方
3‐9 実験 福祉をどう実験するか
第4部 質的社会福祉調査
4‐1 面接 話のきき方
4‐2 観察 五感を動員する調査
4‐3 記録 メモ・フィールドノーツ・機器
4‐4 質的分析 質的分析のための方法
第5部 社会福祉調査をめぐる諸側面
5‐1 調査のコスト どう低コストにするか
5‐2 調査結果の掲載場所 どんな媒体に掲載するか
5‐3 調査倫理と個人情報 なにが許されないか
5‐4 統計法と政府統計 行政の実施する調査
5‐5 ITの活用 賢い利用法
5‐6 国際比較調査 他国でどう調査するか
5‐7 調査の「消費者」として 調査結果をどう使うか
5‐8 社会福祉調査のむずかしさ 特有の困難とその克服
5‐9 社会福祉調査のメリット 特有の「よさ」はなにか
文献案内 (8)
事項索引 (2)
人名索引 (1)
前書きなど
はじめに
「社会福祉調査」とはどんなものでしょうか? 他の調査となにが違うのでしょうか? 実際どうやって調査するのでしょうか?
それについて私なりに答え、読者の皆さまに理解を深めていただくのが本書のねらいです。
実際に社会福祉調査をするためには、いろいろな手法やコツがありますし、独特の部分もあります。本書では、基本的な知識に加えて、実際的なノウハウについても紹介したいと思います。
本書の読者
本書の読者は、具体的にはつぎのような人たちです。
(1)福祉現場の方々(福祉施設職員・行政機関職員など)
「調査をしたい」と思った際に、本書を参照していただきたいと思います。福祉現場は調査の題材にあふれています。なんとなく思っていることを「調査」を通して、より客観的な知識にしてみることには大きな意味があります。また調査によって、現場や世の中をみる目が変わるかもしれません。さらに、調査には意外に大きなやりがいがあり、また独特のおもしろさもあることに気づくかもしれません。
(2)大学生・院生・専門学校生
社会福祉を学習・研究する際の参考書として、本書が役に立てればと思います。調査をすれば、また違った視点でみえるようになるかもしれません。ぜひ自分で調査してみることをおすすめします。授業のレポート、卒業論文、修士論文、博士論文、あるいは学術誌への投稿論文など、調査が生かせる機会はたくさんあります。
それに「福祉学部」や「福祉学科」に所属していない人でも、「福祉」の勉強は意外に幅広いので、いま勉強していることがじつは福祉に関係していて、調査をすることでもっと充実するかもしれません。
また、調査論について学ぶ学生さんにも「社会福祉の調査」に注目するきっかけになればと思います。独特の部分が感じられると思います。
(3)「社会福祉士」国家資格の取得希望者
「社会調査」は社会福祉士の国家試験の必須科目となっています。社会福祉の世界で調査が重視されるようになっているからです。本書は資格の準備勉強に、大いに活用できるはずです(詳細は後述します)。
(4)研究者
「社会福祉の事象を対象にした調査」は、これまでもいろいろと実施されてきました。しかし、「社会福祉ならではの調査論」とはどんなものでしょうか。調査論一般がどこまで適用されるのでしょうか。私自身は調査を重ねていくうちに、「社会福祉の調査には独自性がある」と思うようになりました。本書ではそれを私なりの経験にもとづいて、できるだけこだわって論じたいと思います。今後の社会福祉調査の「たたき台」として、本書が少しでも役に立てればと考えています。
(5)一般の方
社会福祉というのは、「高齢者や障害者のケア」だけではありません。他にもたくさんの領域があります。本書にはさまざまな調査の事例を取り上げていますので、一般の方がたには「こんな視点からも福祉を考えることができるのか」と、気軽に読んでいただければと思います。そしていつか福祉関係の調査結果をメディアで目にすることなどがあれば、本書のことを思い出していただければ幸いです。
社会的背景 福祉現場で求められる社会調査
なぜいま、社会福祉の調査論なのでしょうか?
ひと言でいえば、「社会福祉において調査が求められる世の中になっている」からです。
社会福祉における従来の調査は、多くの場合、一般的な調査論の枠組みをそのまま社会福祉の事象に当てはめたものでした。つまり、社会学でも心理学でも、どの調査でも用いられている調査方法が使われてきたのです。社会福祉のための領域としては未発達で、「社会福祉に特化した調査論」が、なかなか腰を据えて論じられてきませんでした。しかし、私自身はその必要性を感じていました。
そんなとき大きな出来事がありました。国家資格「社会福祉士」に関する法改定です。看護師・薬剤師・理学療法士・作業療法士などとならぶ厚生労働省管轄の国家資格である社会福祉士について、教育体制が見直されたのです。
社会福祉士の資格取得のためには、高等教育機関で必要な科目を履修し、国家試験に合格せねばなりません。しかし、社会調査はそれまで、「社会学」あるいは「社会福祉援助技術論」という科目のなかで、少し言及されるだけだったのです。
しかし、2007年12月に改正された社会福祉士及び介護福祉士法では、教育制度が見直され、「社会調査」が初めて科目として独立しました。教育機関で履修することが必須条件となり、国家試験の必須科目になりました。言い換えれば、社会調査論を障害者福祉や児童福祉などと同じだけの時間数、教育機関で学習せねばならなくなり、そして、それらと同程度の配点比率が国家試験でも与えられたのです。これは大きな変化でした。つまり社会福祉における「社会調査」というものが「格上げ」されたといえます。
まさに「調査のことを知らない人は、社会福祉士になれない時代」になりました。
福祉業界では、これまで以上に調査に関する知識や技術が求められています。しかし「社会福祉の調査論」は、まだ議論の蓄積が進んでいません。これこそ、本書がいま社会福祉の調査論にこだわりたい理由です。
本書の特徴 社会福祉の調査へのこだわり
これまで社会福祉調査にこだわった文献は、さほど多くは刊行されていません。それは社会福祉の他のテーマとくらべれば一目瞭然です。たとえば介護・障害・児童・貧困などとくらべて、その文献の蓄積量はとても少ないことに気がつきます。
そして、従来の社会福祉調査の文献は、社会学や心理学などの調査論の文献とさほど違わなかったといえます。福祉的な要素は「トピック」だけであり、根本的には他の調査と同じことが論じられていたのです。
そのため、社会福祉の関係者には、必ずしも直接的にピンとこない部分もあったように思います。また福祉現場ワーカーたちにも、調査というのは日々の関心からは遠く、身近に感じられにくかったようです。
そんな背景から「社会福祉の調査」について、その独自性にこだわった本がほしいと考えたのです。もっと調査のメリットややりがいをわかりやすく説明し、「自分もやってみたい」と思わせるような、きっかけとなる本をつくりたかったのです。
そのため、どの調査にも当てはまるような調査一般論にならないよう心がけました。また、調査のよい面や理想的な論議ばかりを語るのではなく、社会福祉の調査だからこそのむずかしさなどにも言及しました。私自身もこれまで、苦悩や失敗なしに社会福祉調査にかかわってはこられませんでした。
本書では、私自身の経験した調査や「こんな調査が実際におこなわれている」という例をたくさん紹介します。また調査を「実施」するという視点だけでなく、調査を「消費」する、つまり他者の調査結果をうまく使いこなすことにも言及します。
本書の構成
本書は全5部で構成されています。第1部はまず、社会福祉調査とはなにか、その特徴を概観します。対象・主体・目的・社会貢献などの側面から、社会福祉調査の概要を描きます。第2部は、調査前の企画について論じます。つまり調査プロセスに入る前にしておかねばならないことです。第3部―4部は、実際に調査プロセスに入ってからの話です。とくに第3部では量的調査について、第4部では質的調査について述べます。こうして第1―第4部で社会福祉調査の全容を論じても、まだなお検討しておきたいことを、最後の第5部で議論します。たとえば社会福祉調査のコツ、上手にエネルギーを節約できる部分、注意すべきこと、おもしろさや大変さ、などを紹介したいと思います。